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聖痕回収編
牢獄からの脱出
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全身から汗を拭きだす伝令兵の咆哮に対し、牢獄の王国直属の騎士団と無数の警備兵が顔を見合わせ、一体何が起こっているのかを問いただす。
『ダークエルフだと……?一体何人だ?』
『それが……1人の女のエルフが……』
『1人……それで、どうした?他の警備兵たちは何をしている?』
『す、既に屋敷内に侵入されました!!他の兵士が対処に向かってますが、恐ろしく強いのなんの……』
『馬鹿な!!ふざけたことを言うな!!この屋敷にどれだけの警備が敷かれていると思っている!?』
全ての種族の中でも戦闘力ならば1、2を誇るダークエルフだが、たった1人の、しかも女のエルフに侵入に混乱が起きている事が信じられない。現在、この屋敷には数百人の警備兵と王国の騎士団が存在しているはずだが、
『……殆どの者がやられました……!!火災の消火作業に回った魔術師たちも、既に全員が逃走してどうしようもありません……!!』
『な、何だと……?』
『そんな馬鹿な……』
これには伝令兵と騎士団の話を盗み聞きしていたバルたちも驚きを隠せない。ダークエルフが強いことは知っているが、ここまで警備が厳重な侯爵家に堂々と乗り込んでくるなど普通ではない。
騎士団たちは伝令兵の話に激昂し、すぐに牢獄の外に向かう。獄内には数人の騎士と10人ばかりの警備兵が残り、これならばバルも脱出できるかもしれないと思ったが、同じ獄内で捕まっている青年たちは動く事すらできない。
『……おい、お前ら……平気かい?』
『へへ……平気とは言えませんね……』
『……もう、足が動きません……』
『すいません……お頭』
隣の牢に両手両足を鎖で拘束された青年たちは既に騎士団と警備兵によって暴行を受けており、体中が傷だらけだった。特に酷い人間は両脚が骨折して動くことすらでき無いようであり、バルは舌打ちする。自分1人だけなら手足の鎖を外し、逃げ出すことも可能だが彼らを連れていくことは出来ない。
青年たちを置いて逃げ出すことは可能だが、今まで家族同然に暮らしてきた青年たちを見捨てるような真似をバルには出来ない。しかし、彼女の思考を読み取ったのか、青年たちは小声で囁きかける。
『お頭……逃げてください……』
『俺達を置いて行ってくださいよ……そうすりゃ、まだバルル(単独行動で放火を行った青年)と合流して……他の奴等と一緒に助けに来てくださいよ……』
『なっ……馬鹿な事を言うんじゃ……!!』
『しっ……!!声を抑えてっ……!』
危うく声を荒げそうになったバルを黙らせ、青年たちは傷だらけの顔で笑みを浮かべ、
『俺達信じて待ってますから……必ず助けに来てくださいね』
『早く帰らないと……ガキたちが癇癪起こしちまいますよ』
『特にレノが一番心配してますよ……何だかんだ言って、あいつお頭の事が好きですからね……』
『……ちっ……まるで今生の別れみたい言いやがって……待ってな、すぐに迎えに行くからね』
バルは青年たちに促され、すぐに両手両足の鎖の拘束を確認し、警備兵と騎士団に視線をやる。どうやら先ほどの伝令兵の話が気にかかるのか、何事か話し合っている。何時までも帰ってこない騎士に不安を抱いているようだ。
彼女は壁に背もたれしながら、自分の爪で人差し指を軽く斬り、先ほどのように血液で「壁抜け」の魔方陣を背中越しに書き込む。牢獄と言っても、魔法防止の特殊な金属で覆われているわけではなく、上手く行けそうだ。
牢獄は裏庭近くのため、まだ放火作業を終えた魔術師たちが残っている可能性もあるが、先ほどの伝令兵の話が事実だとしたら既に警備兵や魔術師たちは逃走している可能性がある。
先ほど牢獄から抜け出した王国直属の騎士団が外に存在するかもしれないが、バル1人だけなら逃げ切れる可能性は十分にある。ならば、多少賭けではあるが、見張りの隙をついて逃げ出す覚悟を決めた。
(上手く行くかは……五分五分って所だね)
後方の魔方陣を書き込み、バルは「壁抜け」の準備を行うと、すぐに今度は自分の手足を拘束する鎖に目をやる。こればかりは力ずくではどうにもならないが、彼女は髪の毛の中に隠した先の細い金属片を取り出し、ピッキングを行う。
ガチャンッ……
(しまった……!?)
焦っていたのか、バルは両手首の鍵を外した時に音を出してしまい、慌てて騎士団達に視線を向けるが、幸いというか気付かれてはいなかった。次に今度は足首の鍵にピッキングを仕掛けるが、騎士団達に注意しながら行わないといけないため、上手く外せない。
時間がかかる度に他の人間達が戻ってこないかと精神的に圧力が掛かるが、今度はすぐに鎖の鍵を外すことに成功したと同時に、
『……貴様!?何をしている!?』
『姉御!!』
両手両足の拘束が解いたのを同時に騎士団の1人の男がバルの異変に気付き、牢獄中の人間が彼女に視線を集中させるが、既にバルは脱出する手筈は整っており、彼女は背中越しに書いた「穴抜け」の魔方陣に触れて、
『あばよ!!この間抜け共!!』
ブゥンッ――
そのまま壁の中を通り過ぎ、牢獄の外に出る。
『ダークエルフだと……?一体何人だ?』
『それが……1人の女のエルフが……』
『1人……それで、どうした?他の警備兵たちは何をしている?』
『す、既に屋敷内に侵入されました!!他の兵士が対処に向かってますが、恐ろしく強いのなんの……』
『馬鹿な!!ふざけたことを言うな!!この屋敷にどれだけの警備が敷かれていると思っている!?』
全ての種族の中でも戦闘力ならば1、2を誇るダークエルフだが、たった1人の、しかも女のエルフに侵入に混乱が起きている事が信じられない。現在、この屋敷には数百人の警備兵と王国の騎士団が存在しているはずだが、
『……殆どの者がやられました……!!火災の消火作業に回った魔術師たちも、既に全員が逃走してどうしようもありません……!!』
『な、何だと……?』
『そんな馬鹿な……』
これには伝令兵と騎士団の話を盗み聞きしていたバルたちも驚きを隠せない。ダークエルフが強いことは知っているが、ここまで警備が厳重な侯爵家に堂々と乗り込んでくるなど普通ではない。
騎士団たちは伝令兵の話に激昂し、すぐに牢獄の外に向かう。獄内には数人の騎士と10人ばかりの警備兵が残り、これならばバルも脱出できるかもしれないと思ったが、同じ獄内で捕まっている青年たちは動く事すらできない。
『……おい、お前ら……平気かい?』
『へへ……平気とは言えませんね……』
『……もう、足が動きません……』
『すいません……お頭』
隣の牢に両手両足を鎖で拘束された青年たちは既に騎士団と警備兵によって暴行を受けており、体中が傷だらけだった。特に酷い人間は両脚が骨折して動くことすらでき無いようであり、バルは舌打ちする。自分1人だけなら手足の鎖を外し、逃げ出すことも可能だが彼らを連れていくことは出来ない。
青年たちを置いて逃げ出すことは可能だが、今まで家族同然に暮らしてきた青年たちを見捨てるような真似をバルには出来ない。しかし、彼女の思考を読み取ったのか、青年たちは小声で囁きかける。
『お頭……逃げてください……』
『俺達を置いて行ってくださいよ……そうすりゃ、まだバルル(単独行動で放火を行った青年)と合流して……他の奴等と一緒に助けに来てくださいよ……』
『なっ……馬鹿な事を言うんじゃ……!!』
『しっ……!!声を抑えてっ……!』
危うく声を荒げそうになったバルを黙らせ、青年たちは傷だらけの顔で笑みを浮かべ、
『俺達信じて待ってますから……必ず助けに来てくださいね』
『早く帰らないと……ガキたちが癇癪起こしちまいますよ』
『特にレノが一番心配してますよ……何だかんだ言って、あいつお頭の事が好きですからね……』
『……ちっ……まるで今生の別れみたい言いやがって……待ってな、すぐに迎えに行くからね』
バルは青年たちに促され、すぐに両手両足の鎖の拘束を確認し、警備兵と騎士団に視線をやる。どうやら先ほどの伝令兵の話が気にかかるのか、何事か話し合っている。何時までも帰ってこない騎士に不安を抱いているようだ。
彼女は壁に背もたれしながら、自分の爪で人差し指を軽く斬り、先ほどのように血液で「壁抜け」の魔方陣を背中越しに書き込む。牢獄と言っても、魔法防止の特殊な金属で覆われているわけではなく、上手く行けそうだ。
牢獄は裏庭近くのため、まだ放火作業を終えた魔術師たちが残っている可能性もあるが、先ほどの伝令兵の話が事実だとしたら既に警備兵や魔術師たちは逃走している可能性がある。
先ほど牢獄から抜け出した王国直属の騎士団が外に存在するかもしれないが、バル1人だけなら逃げ切れる可能性は十分にある。ならば、多少賭けではあるが、見張りの隙をついて逃げ出す覚悟を決めた。
(上手く行くかは……五分五分って所だね)
後方の魔方陣を書き込み、バルは「壁抜け」の準備を行うと、すぐに今度は自分の手足を拘束する鎖に目をやる。こればかりは力ずくではどうにもならないが、彼女は髪の毛の中に隠した先の細い金属片を取り出し、ピッキングを行う。
ガチャンッ……
(しまった……!?)
焦っていたのか、バルは両手首の鍵を外した時に音を出してしまい、慌てて騎士団達に視線を向けるが、幸いというか気付かれてはいなかった。次に今度は足首の鍵にピッキングを仕掛けるが、騎士団達に注意しながら行わないといけないため、上手く外せない。
時間がかかる度に他の人間達が戻ってこないかと精神的に圧力が掛かるが、今度はすぐに鎖の鍵を外すことに成功したと同時に、
『……貴様!?何をしている!?』
『姉御!!』
両手両足の拘束が解いたのを同時に騎士団の1人の男がバルの異変に気付き、牢獄中の人間が彼女に視線を集中させるが、既にバルは脱出する手筈は整っており、彼女は背中越しに書いた「穴抜け」の魔方陣に触れて、
『あばよ!!この間抜け共!!』
ブゥンッ――
そのまま壁の中を通り過ぎ、牢獄の外に出る。
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