種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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聖痕回収編

緑葉の森の族長

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「ちっ……何でこんな話をあんたにしてんだろうな……忘れてくれ」


彼はそう告げると、今度は蜂蜜酒のワインを直接口の中に注ぎ込み、一気に飲み干す。レノは大地の話を聞き終え、結局肝心の「聖痕」の情報が得られず、彼に他の質問をしようとした時、


「おやおや……こんな場所に汚らわしいドブネズミが居ますね……」


後方から気配も感じさせずに何者かの声が聞こえ、慌てて振り向くとそこには木々を通り抜けながら歩み寄る青年のエルフの姿が見えた。


――容姿はエルフにしては非常に特徴が無い顔つきであり、細目。身長は190センチ近くはあるが、妙にやせ細っていて枯れ木を思わせる体格だ。また、髪の毛の色は緑だが、どうも所々に白髪が混じっている。


青年の顔を見た瞬間、大地が不機嫌そうに舌打ちし、椅子から立ち上がると、レノを庇う様に前に出る。


「……何の用だ?話は終わったはずだ」
「まあまあ……そうおっしゃらずに、そちらとしても悪い話ではないでしょう?」
「勝手に決めんじゃねえ!!とっとと悪ガキどもを引き攣れて帰りやがれ!!」
「「ふげっ!?」」


毛布を剥ぎ取り、子供達を掴み上げて青年に放り投げると彼は軽々と受け止める。それが気に入らないのか、大地は舌打ちしながら一軒家に戻ろうとする。


「やれやれ……仕方有りませんね、今日の所は引き返しましょうか。ほら起きなさい」
「ううっ……何よ?もう朝ぁ……?」
「姉さま……もう夕方ですよ」


寝ぼけ眼の子供たちに、青年は溜息を吐き、手足の拘束を解いてやる。2人はやっと身体が自由になると、途端に机の上に放置されている自分たちの弓矢(大地が回収した)に手を伸ばし、レノに警戒するように弓を構える。


「族長!!こいつ、ハーフエルフだよ!!」
「汚らわしい種族め……緑葉の森の族長の前だ!!頭を下げろっ!!」
「族長?」


レノが青年に顔を向けると、やれやれとばかりに首を振る彼は、レノに視線を向けて、


「初めまして……ここから少し離れた場所にある緑葉の森の族長を勤める「アルファ」と申します」


自身を族長と名乗るエルフに、レノは首を傾げる。5年前に出会った「族長」は外見は年若い少女だが、近寄りがたい神聖な雰囲気を纏っていた。だが、目の前の男からは不気味さを感じさせる。アルファと名乗る男は警戒心剥き出しの子供達を抑え、前に出てくる。


「このような場所に何の用ですか?ハーフエルフさん」
「……別に」


先ほどからレノをハーフエルフ呼ばわりするという事は、間違いなく彼らはエルフで間違いない。森人族以外の種族はハーフエルフとエルフの違いが分からない。

アルファは腰に差した木刀(森人族が愛用する武器であり、「神木」と呼ばれる特殊な木材で出来ている。鋼鉄よりも頑丈で耐久性が高い)を抜き放ち、レノに向けて構える。


「単刀直入ですが、この森からすぐに出て行ってもらいたいですね。あなたのような汚らわしい半端物が踏み入れていい領域ではないのですよ」
「汚らわしい……ね」
「そうよ!!さっさと出て行きなさい!!」
「この悪魔め!!」


初対面にも関わらず、ここまで嫌われた態度を取られても、特にレノは傷つくことも苛立つことも無い。幼少のころから嫌われることは既に慣れている。特に顔色も変えずに黙っているレノが気にいらないのか、少女は今にも弓を放とうせんばかりに睨み付け、少年の方も弓を構えるが、アルファはそんな二人を後ろに下がらせ、


「従わないというのであれば、強硬手段に出ますが……本当に良ろしいんですか?」
「……強引だな」
「こちらとしても、まだ族長に成り立てのでしてね。厄介ごとは早めに処理したいのですよ」
「なるほど……分かったよ」


レノは仕方なく、彼の指示通りに荷物を纏めて出て行こうとした時、


「死になさい!!」


ビュンッ!


我慢が抑えきれなかったのか、少女の方が弓を放ち、矢が真っ直ぐにレノの後頭部に向かってくる。すぐに察知したレノは短剣を引き抜き、迎え撃とうとした時、


「おっと」


ガシッ!


「なっ……!?」


レノの目の前で、空中に放たれた矢を掴み取るアルファの姿が映し出される。あの一瞬で、レノ前に移動し、矢を掴み取ったのだ。彼は不気味な笑みを浮かべて「気を付けなさい」と一言だけ告げると、矢を握りしめて振り返り、


「リーノ!!背中を向けた者に射るとは何事だ!!」
「ひっ!?」


突如として大声を張り上げ、リーノと呼ばれた少女は身体を震えさせる。隣に居る少年も慌てふためいている。アルファは先ほどまでの雰囲気からは考えられないほど激昂し、子供たちの首根っこを掴み上げ、


「帰りますよ!!」
「は、はい……」
「分かりました……」


2人の手を掴みながら、森の中へと消えていく。今の一連の動きや、先ほどの気配を感じさせない一件と言い、相当な手練れに違いない。


「……やばかったかも」


あのまま戦い続けたら、自分がどんな目に遭っていたのかも分からない。レノは大地に別れを告げてから、立ち去ることにした。
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