種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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聖女護衛編

巫女姫

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「聖堂教会……?」
「あ、あははっ……」
「わふぅっ……」


レノは自分に向けて苦笑いを浮かべる少女を見て、不意に彼女の頭に違和感を抱く。よく確認すると、髪の毛から白い突起物が浮き出ている。よくよく確認すると、それは動物の「角」であり、最初は髪飾りか何かと思っていたが、直に彼女の頭に生えているようだ。


「その方はなぁ、全世界の修道院の象徴であり、今代の巫女姫様である「ヨウカ」様だ!!」
「さあ、離れろ!!そしてひれ伏すがいい!!」


男たちは妙に偉そうに語り終えると、レノは彼女とポチ子を交互に見る。男どもの言葉が真実だとしたら、何故そのような人物がこんな場所で疾走していたのか。


「このお姉さんが……修道院の象徴?」
「ぷぎゅっ!?」
「わぅんっ!?」


再び、少女の両頬を掴み上げ、わたわたと暴れる彼女を無視して「角」を調べ上げる。本当に彼女の頭から生えており、触れてみると、妙に生温かい。誰もが唖然とレノの行動を見つめ、すぐに男たちが騒ぎ出すが、レノは無視して彼女の頬を離すと、角を掴み上げる。


「あ、あの……そこは優しく、やんっ……!?」
「くぅんっ……!?」
「おおっ……何という肌触り」
「だ、だめぇっ……そんな、動かしちゃっ……あっ!!」


角を確かめるように調べているだけだが、レノの手が動くだけで少女は悩めかしい声を上げ、身体を身悶える。そんな光景を見てポチ子は頬を赤くするが、男たちは今にも失神しかねないほどに顔を赤くしていた。


「き、さ、まぁあああああっ!!ヨウカ様に何て無礼な……!!」
「死ねぇええええええっ!!」


再び、男たちは呪文を唱えるが、レノは面倒そうに掌を向け、


「乱刃」


バシュッ!!バシュッ!!


「「なっ……」」


彼の掌から三日月状の風の刃が複数形成、放出され、男達の足元の地面を斬り裂く。「嵐弾」の進化形態であり、威力は高く、一瞬で形成できる点からよく愛用している魔法だ。杖も媒介もなしに「無詠唱」で魔法を出現させたことに、男たちは目の前のレノが相当な実力者と判断し、すぐに自分たちでは勝てない事を判断する。


「黙ってろ」
「ひぃっ……」
「あ、あうっ……」


レノの一睨みに腰を抜かし、男たちは黙り込む。それを見た少女とポチ子は、圧倒的な彼の強さに唖然とする。


「さてと……とりあえず、説明から初めて貰おうか」



――数分後、レノは正座した男達と、自分の隣に座らせた少女とポチ子から話を聞く。



「つまり、あんたらはこの逃げ出した聖女様を連れ戻しに追ってきたというわけ?」
「は、はい……」
「その通りです……」


男たちの言い分は、自分たちはこの付近の街に努める修道院の人間であり、この街に訪れた「聖女(巫女姫)」様の護衛を買って出たらしい。最初の頃は巫女姫も大人しくしていたらしいが、少し目を離したすきに彼女は町の外に逃げ出し、それを追いかけていたという。


「で、あんたは何で逃げたの?」
「えっと……その、どうしても儀式を受けたくなくて……」


少女はレノに問われると、少し言いにくそうに答え、どうやらこの街に訪れたのはその「儀式」を行うために来たらしい。

彼女が告げる「儀式」というのは、どうやら魔物を退ける効果がある重要な儀式らしく、今日の午後に執り行われる予定だったらしいが、儀式を行うのが嫌になって逃げ出したらしい。どうして儀式を行うのを拒むのかを問うと、


「私、まだ上手く「聖魔法」が使えなくて……また失敗するかもって思って……」



――聖導教会の「巫女姫」として就任してから2年、彼女は今までに一度もこの儀式を成功させたことが無いという。



彼女は元々は修道院の中でも落ちこぼれの存在らしく、先代が健在の頃は主に修道院で魔法の勉学に励んでいたが、思うように自分の魔力を扱えないらしい。しかし、先代の巫女姫が急逝し、彼女の血を受け継ぐ「ヨウカ」が跡を継いだまでは良いが、結局「落ちこぼれ」の彼女では儀式を完遂できなかった。

これまでに聖堂教会の意向で何度も儀式を行ったが、結局一度たりとも成功には至らず、仕方なく他の修道院の聖女たちが代役を行ったという。儀式を失敗する度に人々の失望の視線や、修道院の人間達の嘆きの声が忘れられず、彼女は逃げ出してしまったという。


「私……本当に嫌で嫌で……だからっ……」
「落ちこぼれ……ね」


彼女の気持ちも分からなくはない、自分もエルフとして落ちこぼれであり、バルたちと出会わなければ彼女のようになっていたかもしれないが、気持ちは理解できても同情はしない。こちらとしては面倒事に巻き込まれたのだ。レノは最後にポチ子の方に目をやると、


「わぅんっ……私、学園が閉鎖されてから実家に戻ったんですけど……」


ポチ子の故郷とはこの付近であり、元々裕福な家庭ではないらしく、彼女は実家のために戻って早々に街に働きに出たという。

が、獣人である彼女を受け入れる店は無く、困り果てた彼女は最後の希望として修道院に「護衛兵」として志願すると、彼女は「鳳凰学園」で学んだ剣術ですぐに護衛隊長の座に就いたという。

しかし、表向きは種族差別を行わないと宣伝している修道院でも、獣人を快く思わない人間が多数おり、嫌がらせを受けていたという。それでも家族のためにポチ子は周囲からの嫌がらせを耐え忍び、本日、聖導教会から訪れた「ヨウカ」の護衛に就いていたという。
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