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放浪島編
巨狼と巨人
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『キュロロロロロッ!!』
『グルルルッ……』
サイクロプスは森を荒らし回った黒狼に対し、血走った眼で狼を見つめ、黒狼も目つきを鋭くさせて見返してくる。2体の魔物(正確には魔獣と魔人)が睨み合い、木陰でこっそりと様子を見るダニエルは自分の身が危ないにもかかわらず、視線を反らせなかった。
通常、魔物同士が争うなどというのは滅多に起きない。お互いの餌を奪い合う事で戦う事はあるが、彼らは無闇な危険を犯さない。しかし、眼の前で大型の魔物同士が今まさに激突し兼ねない空気に、ダニエルは恐怖で動けなかった。
――先に動いたのはサイクロプスだった。
『キュルルルルルッ!!』
すぐ傍の樹木に手をかけ、あろうことか片手で根元を引きちぎり、そのまま黒狼に向けて振り下ろす。
『ガァアアアアアッ!!』
バキィィイイイッ!!
だが、振り下ろされた樹木を黒狼は簡単に噛み砕き、樹木の欠片が辺り一面に飛び散る。その際に欠片の1つがサイクロプスの巨大な顔面に当たり、悲鳴を上げて顔面を抑える。
『キュルルァアアアアアアッ!!』
サイクロプスは怒り狂い、砕けた樹木を放り投げ、筋肉と鱗で覆われた両腕を組んで黒狼の頭に叩き付ける。
ズドォンッ!!
『グルァッ……!!』
頭部を叩き付けられ、一瞬だが黒狼が怯み、しかしすぐに牙を振り上げ、
ガブゥッ!!
『キュロロロロロッ!?』
サイクロプスの腹部に長く鋭い牙を喰いこませ、そのまま巨体を後ろの大木まで押し付ける。
ドォオオンッ!!
『ギュロロロッ……!?』
メキメキィッ……!!
大木で背中を強打され、さらに牙が鱗を貫いて体内にまで達し、サイクロプスは苦悶の表情と悲鳴を上げるが、何度も喰らいつく黒狼の身体に両腕を叩き込む。
ドスンッ!!ドスンッ!!
『ギュロロロロロロロッ……!!』
『ガフッ……グゥフッ!!』
死に物狂いで暴れるサイクロプスに何度も殴りつけられながらも、黒狼は牙を喰いこませ、
ゴキィッ!!
『ギュロォッ……!?』
ついにはサイクロプスの背骨にまで達し、骨が折れる音が響き渡る。その瞬間に黒狼は牙を離し、
ぶしゅううううぅっ……!!
黒狼の牙が離れた瞬間に腹部から夥しい出血を放ち、サイクロプスは両膝をついて腹部を抑えつけるが、
『ガァアアアァアアッ!!』
ブチィイイッ!!
倒れ込んだサイクロプスの頭部に黒狼の口が飲み込み、そのまま悲鳴を上げる暇もなく、容易く引きちぎられた。
『ブゥッ……!!』
黒狼はサイクロプスの頭部を吐きだし、数秒ほど地面に転がる頭を見続けたが、まるで興味を無くしたように立ち去ったという――
『……あいつは、サイクロプスの死体も見ても、何も口にせずに何処かへ消えやがった……他の奴等の死体だってそうさ、殺すだけ殺しておいて、何も口にしないで行きやがった……俺は馬鹿だけどこれだけは知っている。野生の生き物ってのは、喰うためだけに殺すんだ。そこに殺意も何もねえ……生きるための本能しかない。だけど、あの化け物をただ殺す行為を楽しんでいた……俺にはそう見えたよ』
ダニエルはそれだけを語ると、事情を聴き終えた警備兵たちは彼の話に半信半疑だったが、すぐに調査の結果、彼の言ったとおりに囚人たちの死体とサイクロプスの無残な姿が発見され、大規模な「黒狼」の討伐部隊が形成された。
すぐに南部監獄に配属している兵士と魔術師が総動員し、黒狼の探索を行ったが、どうやら巨狼は南部の森に住む動物や魔物たちを無差別に殺戮し、そのまま北上しているようだった。急いで各監獄に「黒狼」の通達が送られ、すぐに討伐部隊が後を追ったが、結果は恐ろしい被害を生み出す。
――南部の熱帯地域から、東部の草原地帯まで黒狼は移動しており、東南の監獄から2000を超える兵士と50人の魔術師が送り込まれるが、決着はすぐに着いた。
黒狼は向い来る兵士をなぎ倒し、遠方から様々な火・水・雷の魔法の雨が降り注ぐが、それらを全て避けながら、その巨体で疾風を思わせる速度で駆けまわり、兵士の群を抜け、まずは魔術師を一網打尽にしたという。
巨狼の行動は獣とはいえ、理がかなっており、まずは兵士よりも動きが遅く、統率した動きが出来ない魔術師を皆殺しにし、次に兵士たちを圧倒的な力で薙ぎ倒す。
魔術師という後ろ盾がなくなった兵士たちはすぐに黒狼に怯え、逃走を始める者が続出したという。黒狼は逃げる者には目もくれず、自分に刃向う物だけを殺し回ったという。結局、黒狼は討伐部隊を壊滅させ、そのまま草原の魔獣や生物を殺戮し、半分は同族である「狼男」を100体以上も惨殺し、草原を血で染めた。
何度も討伐部隊を再編成し、黒狼の元に送り込んだが結局は返り討ちに遭い、流石に事態を重く見た「バルトロス王国」は地上から王国騎士団「ストームナイツ騎士団(人間の種族の中では最強の騎士団と謳われている)」を送ることを決定したが、既に「黒狼」は草原を抜け、食べ物も少なく、環境が厳しい「山岳地帯」に向かったという――
『グルルルッ……』
サイクロプスは森を荒らし回った黒狼に対し、血走った眼で狼を見つめ、黒狼も目つきを鋭くさせて見返してくる。2体の魔物(正確には魔獣と魔人)が睨み合い、木陰でこっそりと様子を見るダニエルは自分の身が危ないにもかかわらず、視線を反らせなかった。
通常、魔物同士が争うなどというのは滅多に起きない。お互いの餌を奪い合う事で戦う事はあるが、彼らは無闇な危険を犯さない。しかし、眼の前で大型の魔物同士が今まさに激突し兼ねない空気に、ダニエルは恐怖で動けなかった。
――先に動いたのはサイクロプスだった。
『キュルルルルルッ!!』
すぐ傍の樹木に手をかけ、あろうことか片手で根元を引きちぎり、そのまま黒狼に向けて振り下ろす。
『ガァアアアアアッ!!』
バキィィイイイッ!!
だが、振り下ろされた樹木を黒狼は簡単に噛み砕き、樹木の欠片が辺り一面に飛び散る。その際に欠片の1つがサイクロプスの巨大な顔面に当たり、悲鳴を上げて顔面を抑える。
『キュルルァアアアアアアッ!!』
サイクロプスは怒り狂い、砕けた樹木を放り投げ、筋肉と鱗で覆われた両腕を組んで黒狼の頭に叩き付ける。
ズドォンッ!!
『グルァッ……!!』
頭部を叩き付けられ、一瞬だが黒狼が怯み、しかしすぐに牙を振り上げ、
ガブゥッ!!
『キュロロロロロッ!?』
サイクロプスの腹部に長く鋭い牙を喰いこませ、そのまま巨体を後ろの大木まで押し付ける。
ドォオオンッ!!
『ギュロロロッ……!?』
メキメキィッ……!!
大木で背中を強打され、さらに牙が鱗を貫いて体内にまで達し、サイクロプスは苦悶の表情と悲鳴を上げるが、何度も喰らいつく黒狼の身体に両腕を叩き込む。
ドスンッ!!ドスンッ!!
『ギュロロロロロロロッ……!!』
『ガフッ……グゥフッ!!』
死に物狂いで暴れるサイクロプスに何度も殴りつけられながらも、黒狼は牙を喰いこませ、
ゴキィッ!!
『ギュロォッ……!?』
ついにはサイクロプスの背骨にまで達し、骨が折れる音が響き渡る。その瞬間に黒狼は牙を離し、
ぶしゅううううぅっ……!!
黒狼の牙が離れた瞬間に腹部から夥しい出血を放ち、サイクロプスは両膝をついて腹部を抑えつけるが、
『ガァアアアァアアッ!!』
ブチィイイッ!!
倒れ込んだサイクロプスの頭部に黒狼の口が飲み込み、そのまま悲鳴を上げる暇もなく、容易く引きちぎられた。
『ブゥッ……!!』
黒狼はサイクロプスの頭部を吐きだし、数秒ほど地面に転がる頭を見続けたが、まるで興味を無くしたように立ち去ったという――
『……あいつは、サイクロプスの死体も見ても、何も口にせずに何処かへ消えやがった……他の奴等の死体だってそうさ、殺すだけ殺しておいて、何も口にしないで行きやがった……俺は馬鹿だけどこれだけは知っている。野生の生き物ってのは、喰うためだけに殺すんだ。そこに殺意も何もねえ……生きるための本能しかない。だけど、あの化け物をただ殺す行為を楽しんでいた……俺にはそう見えたよ』
ダニエルはそれだけを語ると、事情を聴き終えた警備兵たちは彼の話に半信半疑だったが、すぐに調査の結果、彼の言ったとおりに囚人たちの死体とサイクロプスの無残な姿が発見され、大規模な「黒狼」の討伐部隊が形成された。
すぐに南部監獄に配属している兵士と魔術師が総動員し、黒狼の探索を行ったが、どうやら巨狼は南部の森に住む動物や魔物たちを無差別に殺戮し、そのまま北上しているようだった。急いで各監獄に「黒狼」の通達が送られ、すぐに討伐部隊が後を追ったが、結果は恐ろしい被害を生み出す。
――南部の熱帯地域から、東部の草原地帯まで黒狼は移動しており、東南の監獄から2000を超える兵士と50人の魔術師が送り込まれるが、決着はすぐに着いた。
黒狼は向い来る兵士をなぎ倒し、遠方から様々な火・水・雷の魔法の雨が降り注ぐが、それらを全て避けながら、その巨体で疾風を思わせる速度で駆けまわり、兵士の群を抜け、まずは魔術師を一網打尽にしたという。
巨狼の行動は獣とはいえ、理がかなっており、まずは兵士よりも動きが遅く、統率した動きが出来ない魔術師を皆殺しにし、次に兵士たちを圧倒的な力で薙ぎ倒す。
魔術師という後ろ盾がなくなった兵士たちはすぐに黒狼に怯え、逃走を始める者が続出したという。黒狼は逃げる者には目もくれず、自分に刃向う物だけを殺し回ったという。結局、黒狼は討伐部隊を壊滅させ、そのまま草原の魔獣や生物を殺戮し、半分は同族である「狼男」を100体以上も惨殺し、草原を血で染めた。
何度も討伐部隊を再編成し、黒狼の元に送り込んだが結局は返り討ちに遭い、流石に事態を重く見た「バルトロス王国」は地上から王国騎士団「ストームナイツ騎士団(人間の種族の中では最強の騎士団と謳われている)」を送ることを決定したが、既に「黒狼」は草原を抜け、食べ物も少なく、環境が厳しい「山岳地帯」に向かったという――
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