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放浪島編
黒狼
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――レノが放浪島に辿り着いた日から2年の月日が流れ、島の生態系に大きな変化が起きようとしていた。この放浪島の南部に存在する「南部監獄」は、北部にある「山岳地帯」とは打って変わり、1年中が蒸し暑い気候である。山岳地帯を肌寒い「雪国」として例えると、南部監獄は「海」が存在しない「南国」と言える(大きな湖は存在する)。
基本的にこの島は北部が「冬」南が「夏」西が「春」東が「秋」といった四季に分かれており、それぞれに特徴がある。
まず、レノが最初に訪れた「東部監獄」は放浪島の中で最も過ごしやすい気候であり、作物の収穫量が多い。が、その分に草原には魔獸が多く生息している。次に「西部監獄」はこちらも生活する分には申し分ない穏やかな気候ではあるが、同時に数は少ないが大型の魔物が生息しているため、無闇に監獄の外には出れない。そして「南部監獄」は年中が蒸し暑い季節ではあるが、そのお蔭でこちらの地方にしか育たない果物や作物が多く、東部監獄には劣るがそれなりに食材が豊富な場所だった。
しかし、この放浪島の「北部」は未だに未知な部分が多く、生息している生物は「グリフォン」や「ペガサス」などを代表に大型の魔獣が潜んでいると言われるが、過去に大勢の捜索隊を送り込み、そのほとんどが死亡、もしくは重傷を負って戻ってきた。
この島を管理する「バルトロス王国」は、被害の割には大した情報を得られぬため、この北部を完全に封鎖し、禁止区域として「監獄」すら作られていない。
――数百年間、天空を漂うこの島は長い年月を経ても基本的な生態系は変わっておらず、この島にしか存在しない種も多い。
だが、つい最近に「南部監獄」である「魔物」を発見したという情報が囚人から得られる。目撃者である「ダニエル」と呼ばれる最近収監された男性は、後に警備兵にこう語ったという。
『あれは魔物なんて物じゃねえ……化物だ……全員殺されちまうんだ……!!』
彼は錯乱状態で何度も同じ発言を繰り返し、警備兵たちは非常に困惑していた。ダニエルが「化け物」を見たという日は、一月に1度だけ囚人たちが労働から解放される「休息日」であり、この日だけは囚人たちも自由に外に出ることが許される。
監獄から囚人の外出を許可するのもどうかと思われるが、実際にこの監獄から抜け出そうという人間はいないに等しい。外で暮らすよりも、監獄の方が遥かに安全で食事だけは毎日提供され、魔物から襲われる心配がない。そのため、レノのように監獄から脱出した人間はこの数百年で数十名もいない。
その日、ダニエルは休息日のため監獄の外に出ると、涼しみがてらに囚人仲間達と共に「湖」に向かう。南部監獄から数百メートル程離れた場所に大きな湖が存在し、そこは比較的に安全な場所だった。
――しかし、湖に到着して早々に異変に気付く。この湖には多くの魚が生息しているはずだが、どういう訳かその日に限って一匹も見当たらない。釣り目当てで来た囚人たちがそのことに最初に気付き、不振に思って他の仲間に相談した。
ダニエルも当初は釣りをする予定だったので、湖に魚が居ない事に落胆していたが、湖の周りに実っている果物目当てに来た他の仲間に知らせるため、湖に3人ほど囚人を残して自分が代表して異変を知らせることにしたのだが、
『森に戻ってすぐに気付いたよ……血の臭いにな……』
彼が森に辿り着いた時に異様に血の臭いが充満しており、すぐに倒れている仲間の1人を見つけた。慌てて彼は駆け寄るが、既に息絶えており、身体には妙な傷跡があったという。
この南部監獄に生息する「魔物」は虫を模した生物が多く、「魔虫」とも呼ばれている。基本的に大きさは最大の大きさでもソフトボールほどであり、外見は喜色悪いが無闇に人を襲うことは無い。だが、目の前の遺体には胸元に大きな爪痕が残っており、どう考えても魔虫ではなく、魔獣の類に襲われたとしか思えない。
『俺も最初は他の監獄から移り住んだ生物が着たのかと思ったよ……けど、あれを見た瞬間、そんな考えは吹っ飛んじまった……』
ダニエルは次々と森の中で仲間たちの死体を発見し、恐怖を感じた彼は湖に残った仲間の元に移動とした際、またもや愕然とした。湖の上で、仲間たちの死体が水の上で浮かび上がっていたのだ。彼はパニックを起こし、監獄へと走り出す。そして、森の中を疾走中にそれと出会ったという。
『黒い狼だった……そう、普通の狼だ。狼男でも何でもない、ただの馬鹿でかい狼だった……』
――森の中で彼は身の丈4メートルを超す「黒色の毛皮の巨狼」を見かけ、すぐに彼は樹木の影に隠れた。
黒狼は彼に気付かずに、のそのそと森の中を歩いており、口元と前足には夥しい血の跡が残っていたという。ダニエルは間違いなく、この生物が自分たちの仲間を殺したと気づいたが、恐怖で身体は身動きすら出来なかった。
そのまま黒狼が自分に気付くことなく、立ち去ることを祈ったが、奴は急に立ち止まり、鼻を引くつかせる動作を行った。
『正直に言って、俺は死んだと思った……生きているのが不思議なくらいだよ』
彼は身を縮こませ、ばれない様に息遣いを顰めたらしいが、どうやら黒狼が気付いたのは彼ではなく、自分の前に現れた「サイクロプス」だった。
――放浪島の南部地方には「サイクロプス」が少数だが生息しており、レノが共に孤児院で暮らしていた「ロプス」とは違う種類ではあるが、その巨体は黒狼にも匹敵し、自分の「縄張り(森)」を荒らす黒狼に怒り心頭で目が血走っていたという。
『キュロロロロロッ!!』
サイクロプスは非常に大人しく、果物が主食のため、他の生物に襲い掛かることはない。だが、自分の縄張りを乱された場合は別であり、その恐るべき怪力、硬い岩石を思わせる鱗、何よりも普段の様子からは考えられないほどに凶暴性となる。
過去に囚人がサイクロプスの縄張りだと知らずに果物を取り上げた際に、怒り狂ったサイクロプスに襲われて凄まじい被害が生まれた。死傷者は13名、重傷者はその倍は居たという。
基本的にこの島は北部が「冬」南が「夏」西が「春」東が「秋」といった四季に分かれており、それぞれに特徴がある。
まず、レノが最初に訪れた「東部監獄」は放浪島の中で最も過ごしやすい気候であり、作物の収穫量が多い。が、その分に草原には魔獸が多く生息している。次に「西部監獄」はこちらも生活する分には申し分ない穏やかな気候ではあるが、同時に数は少ないが大型の魔物が生息しているため、無闇に監獄の外には出れない。そして「南部監獄」は年中が蒸し暑い季節ではあるが、そのお蔭でこちらの地方にしか育たない果物や作物が多く、東部監獄には劣るがそれなりに食材が豊富な場所だった。
しかし、この放浪島の「北部」は未だに未知な部分が多く、生息している生物は「グリフォン」や「ペガサス」などを代表に大型の魔獣が潜んでいると言われるが、過去に大勢の捜索隊を送り込み、そのほとんどが死亡、もしくは重傷を負って戻ってきた。
この島を管理する「バルトロス王国」は、被害の割には大した情報を得られぬため、この北部を完全に封鎖し、禁止区域として「監獄」すら作られていない。
――数百年間、天空を漂うこの島は長い年月を経ても基本的な生態系は変わっておらず、この島にしか存在しない種も多い。
だが、つい最近に「南部監獄」である「魔物」を発見したという情報が囚人から得られる。目撃者である「ダニエル」と呼ばれる最近収監された男性は、後に警備兵にこう語ったという。
『あれは魔物なんて物じゃねえ……化物だ……全員殺されちまうんだ……!!』
彼は錯乱状態で何度も同じ発言を繰り返し、警備兵たちは非常に困惑していた。ダニエルが「化け物」を見たという日は、一月に1度だけ囚人たちが労働から解放される「休息日」であり、この日だけは囚人たちも自由に外に出ることが許される。
監獄から囚人の外出を許可するのもどうかと思われるが、実際にこの監獄から抜け出そうという人間はいないに等しい。外で暮らすよりも、監獄の方が遥かに安全で食事だけは毎日提供され、魔物から襲われる心配がない。そのため、レノのように監獄から脱出した人間はこの数百年で数十名もいない。
その日、ダニエルは休息日のため監獄の外に出ると、涼しみがてらに囚人仲間達と共に「湖」に向かう。南部監獄から数百メートル程離れた場所に大きな湖が存在し、そこは比較的に安全な場所だった。
――しかし、湖に到着して早々に異変に気付く。この湖には多くの魚が生息しているはずだが、どういう訳かその日に限って一匹も見当たらない。釣り目当てで来た囚人たちがそのことに最初に気付き、不振に思って他の仲間に相談した。
ダニエルも当初は釣りをする予定だったので、湖に魚が居ない事に落胆していたが、湖の周りに実っている果物目当てに来た他の仲間に知らせるため、湖に3人ほど囚人を残して自分が代表して異変を知らせることにしたのだが、
『森に戻ってすぐに気付いたよ……血の臭いにな……』
彼が森に辿り着いた時に異様に血の臭いが充満しており、すぐに倒れている仲間の1人を見つけた。慌てて彼は駆け寄るが、既に息絶えており、身体には妙な傷跡があったという。
この南部監獄に生息する「魔物」は虫を模した生物が多く、「魔虫」とも呼ばれている。基本的に大きさは最大の大きさでもソフトボールほどであり、外見は喜色悪いが無闇に人を襲うことは無い。だが、目の前の遺体には胸元に大きな爪痕が残っており、どう考えても魔虫ではなく、魔獣の類に襲われたとしか思えない。
『俺も最初は他の監獄から移り住んだ生物が着たのかと思ったよ……けど、あれを見た瞬間、そんな考えは吹っ飛んじまった……』
ダニエルは次々と森の中で仲間たちの死体を発見し、恐怖を感じた彼は湖に残った仲間の元に移動とした際、またもや愕然とした。湖の上で、仲間たちの死体が水の上で浮かび上がっていたのだ。彼はパニックを起こし、監獄へと走り出す。そして、森の中を疾走中にそれと出会ったという。
『黒い狼だった……そう、普通の狼だ。狼男でも何でもない、ただの馬鹿でかい狼だった……』
――森の中で彼は身の丈4メートルを超す「黒色の毛皮の巨狼」を見かけ、すぐに彼は樹木の影に隠れた。
黒狼は彼に気付かずに、のそのそと森の中を歩いており、口元と前足には夥しい血の跡が残っていたという。ダニエルは間違いなく、この生物が自分たちの仲間を殺したと気づいたが、恐怖で身体は身動きすら出来なかった。
そのまま黒狼が自分に気付くことなく、立ち去ることを祈ったが、奴は急に立ち止まり、鼻を引くつかせる動作を行った。
『正直に言って、俺は死んだと思った……生きているのが不思議なくらいだよ』
彼は身を縮こませ、ばれない様に息遣いを顰めたらしいが、どうやら黒狼が気付いたのは彼ではなく、自分の前に現れた「サイクロプス」だった。
――放浪島の南部地方には「サイクロプス」が少数だが生息しており、レノが共に孤児院で暮らしていた「ロプス」とは違う種類ではあるが、その巨体は黒狼にも匹敵し、自分の「縄張り(森)」を荒らす黒狼に怒り心頭で目が血走っていたという。
『キュロロロロロッ!!』
サイクロプスは非常に大人しく、果物が主食のため、他の生物に襲い掛かることはない。だが、自分の縄張りを乱された場合は別であり、その恐るべき怪力、硬い岩石を思わせる鱗、何よりも普段の様子からは考えられないほどに凶暴性となる。
過去に囚人がサイクロプスの縄張りだと知らずに果物を取り上げた際に、怒り狂ったサイクロプスに襲われて凄まじい被害が生まれた。死傷者は13名、重傷者はその倍は居たという。
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