種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
53 / 1,095
放浪島編

魔力付与

しおりを挟む
「はあっ!!」


ズドォオンッ!!


こちらに向かってくる狼男に向けて「嵐弾」を打ち込むが、簡単に狼男はそれを避け、再び周囲の芝生の中に身を隠す。


ガサササッ……!!


「くっ……ちょこまかと……」


またもや周囲の芝生を駆け回る音が聞こえ、どうにかできないかと思案するが、打開策をそう簡単には思いつかない。いっその事、「ソフィア」の姿に変身して魔力を高めた状態で「嵐弾」を連発するかと考えたが、下手に魔法を使用するとコントロールできずに自分が自爆してしまうかもしれない。

ならば、この周囲の視界を阻む芝生を抜け出し、先ほどのモーヒが居た場所まで逃げるのが得策だろうと考え、レノは足に風の魔力を纏わせ、


ダァアンッ!!


「ぐぅっ……!!」


大きく跳躍すると、瞬時に魔石を発動させる。地上にいた場合は周囲の芝生が視界を阻害して転送できないが、空中に飛び上がれば関係ない。まだ歩いて数分ほどしか経っていないため、すぐに先ほどまで居た芝生の外に視界が映し出され、転送魔法を発動しようとした時、



「ガァアアアァアアッ!!」



――ズドォンッ!!



「がはっ!?」


発動の直前、突如として背中に強い衝撃が走り、転送が発動される。


ゴォオオオオッ!!


ドォオンッ!!


「ぐあっ……!?」


着地に失敗したが、レノは芝生の外に出ることに成功する。幸い、柔らかい草原の上でそれほど衝撃は無い。だが、背中と腹部に違和感があり、見ると、


「……槍?」


レノの背中に異様に長い「牙」が突き刺さっており、牙の後ろには木の枝が蔓で括りつけられている。槍というにはかなりお粗末な物だろう。内臓が傷つけられてないことを祈り、牙を何とか背中から引き抜くと、


ぶしゅうぅうううっ……!!


「くっ……」


すぐに背中と腹部から血液が放出され、以前にダークエルフに薙刀で指された時のように魔力で止血を試みる。だが、あの時と違って時間的な余裕はなく、すぐに傷口を塞ぐため、レノはあえて反魔紋が発動させ、


バチバチィッ……!!


「ぐうぅっ……」


身体に流れる電流を両手に集中させ、スタンガンの要領で掌に放出させる。そして腹部と背中の傷口を同時に塞ぎ、電流を傷口に当てる。


バチィイイイッ!!


「があああっ!!」


傷口が熱を持ち、気絶しそうなほどに激痛が走るが、火傷で傷口の穴を塞ぐことに成功した。両手を離すと、焦げ臭いにおいが辺りを漂うが、一命だけはとりとめたようだ。レノは顔を見上げると、すぐに視界に芝生の光景が入り、


「……嘘だろ?」



――グルルルッ……
――ガァアアアアッッ……
――ウオォオオオオンッ!!



無数の狼男が芝生から姿を現し、後方を振り返ると、何時の間にか既に自分が囲まれている事に気付く。数えきれないほどの狼男の数に、レノは苦い笑みを浮かべるしかない。魔石は既に一度使っているため、すぐには使用できない。また、嵐弾の連発と反魔紋の反動により、身体が動かない。



「……最悪だな……」



ゆっくりと警戒気味にこちらに近づいてくる狼男の群れに、レノはすぐ傍の地面に落ちている槍を掴む。どうやら狼男が作成したもので間違いなく、現に目の前で同じ武器を掲げている者も多い。レノは何とか杖代わりに槍を手に握りしめると、狼男の群れは彼がまともに動けないと判断し、笑みのような表情を浮かべる。

だが、レノはあることに気付く。嘗てエルフの集落での修行中に、弓矢に風の魔力を送り込んで強化を試みたことを。

あの時は魔力をコントロールできずに失敗してしまったが、今ならば適量の「嵐」を纏わせることが可能ではないのか。


(上手くいってくれよ……)


掌に嵐を形成させ、すぐに周囲の狼男達が警戒するが、レノは「嵐」を槍に纏わせる。昔は風の魔力を送り込んで「矢」を破壊してしまったが、3年以上も魔力だけで形成した無詠唱魔法を扱ってきたのだ。



ゴォオオオオッ――!!



「ぐぐっ……」


槍全体に魔力を送り込むのではなく、先端の部分にだけ嵐を纏わせると、昔は数秒も持たずに壊したが、今回は上手く成功した。


ビュオォオオオッ……!!


槍の先端に螺旋状の嵐が形成され、レノは何とか両手で支える。思えば、ナイフや弓等は扱ったことはあるが、このような長物は使ったことは無い。


「「ガァアアアアアアアッ!!」」


レノは槍を構えると、すぐに周囲を取り囲んだ狼男たちが一斉に飛びかかる。彼は瞬時に風の魔力を足元に送り込み、



ダァアンッ!!



「っと……!!」


上空に跳躍し、すぐに足元に狼男たちが集まり、一斉に下から槍を投擲してくる。だが、先ほどの時と違い、レノは向かってくる槍の群に掌を向け、一発だけ嵐弾を放つ。


「はっ!」


ズドォオンッ!!


嵐の弾丸は無数の槍を吹き飛ばし、レノはソフィアで行ったようにそのまま地面に衝突した嵐弾の突風に乗り、より高く上昇する。


「いっ……けぇっ!!」


嵐を纏わせた槍を、地面の狼男の群れに向けて放つ。予想外の速度で槍は落下し、先端に纏わせた螺旋状の嵐が解き放たれ、


ズガァアアアンッ!!


「ガァアアアアアアアッ!?」
「ギャゥンッ!?」


地面に衝突した瞬間に先端がかまいたちへと化し、無数の牙の欠片を周囲に飛び散らせながら狼男を数匹吹き飛ばす。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

結婚して5年、初めて口を利きました

宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。 ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。 その二人が5年の月日を経て邂逅するとき

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...