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放浪島編
東部監獄
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草原の芝生に身体を突っ込ませるハプニングに会いながらも、ソフィアは何とか「町」らしき場所に辿り着き、すぐに人影があることに安堵したが、すぐに様子がおかしいことに気付く。
(……兵士?)
木の柵で囲まれた寂れた町の出入口には、随分と古ぼけた鎧と剣を携えた兵士が待機しており、彼らのすぐ傍には長めの鎖で手足を拘束された「囚人」らしき白い布のシャツとズボンだけを着込んだ男たちが集まっている。全員が靴を履いておらず、素足のままだ。
草原の芝生に隠れながら様子を伺うと、兵士たちが囚人らしき者たちに指示を出して、町の外にある畑で農業させているらしい。
彼らは黙々と畑を耕し、中には老人や子供まで混じっており、兵士たちはそんな彼らを見張るように周囲を取り囲んでいる。
(囚人しか送られない島か……)
歴史の授業で、この島は現在「バルトロス王国」が管理しており、世界中から集められた死刑囚や重罪人を送り込み、彼らが逃げられない様に終始見張っていると習った。この島に来る方法は「転移魔法」か、もしくは学園都市に存在する「飛行船」を使う以外に地上との行き来は不可能であり、現にこの数百年間で地上に脱走した人間は皆無という。
ソフィアは囚人たちが自分と同じサイズの「黒い腕輪」をはめ込んでいることに気が付き、やはり自分もあの白髪の女に「囚人」として判断され、腕輪を付けられたのかと予想する。
すぐにでも外したいが、どうやっても自分の力では引きはがせない。このまま近づくのは危険と判断し、ソフィアは芝生に隠れながら見つからない様に移動する。
「……ここなら」
出入口から離れた場所に、兵士の姿が見えない事を確認し、ソフィアは町に近づく。幸い、兵士の見回りらしき姿は無く、あとはこの4メートルを越える柵を乗り越えるだけだが、運よく柵の一部分が壊れているところを見つけ出し、自分の身体を押し込む。
「んっ……胸がきつい……」
地面に匍匐前進で柵の隙間に身体を押し込む形になり、年齢の割には膨らんだ胸が隙間に挟まってしまい、それでも何とか力ずくで街の中に潜り込む。
「やった……潜入成功!!」
若干、男の時よりテンションが高く、すぐに周囲を警戒しながらもソフィアは奥に進む。
――入って早々に、ソフィアはこの町は「囚人」達の監獄なのだと気づく。何故なら、周囲には囚人服を纏った男たちが無気力でへたり込んでおり、ある者は地面の上で通行の邪魔にも関わらず、倒れたまま動かない。他の者も建物の壁を背もたれに座り込んだり、仰向けで虚ろな瞳で空を見上げる者もいる。
周囲を警戒したところ、兵士の姿は見当たらず、一応は警戒しながらも路地裏から出ると、何人かの囚人が彼女に気付くが、すぐに視線を一瞥させただけで興味を失ったように元の体勢に戻る。
不審に思い、ソフィアは近くにいる年老いた男に近づく。彼はどうやら草原地帯から刈り取ったのか、芝生で素足を保護するように巻き付いている。
「あの……」
「帰れ」
話しかけようとした瞬間、すぐに老人はソフィアに目もくれずに答え、黙々と作業を続ける。ソフィアは彼の態度に口ごもるが、諦めずに話しかける。
「すいません……少しだけでもいいので話を聞いて下さい」
「……何で儂なんだ?他にも人間は居るだろうが」
「多分、他の人に聞いても同じ返事しか返ってこないでしょうね」
「ちっ……何だ?」
老人は鋭い視線でソフィアを射抜くが、今まで散々な目に遭ってきた彼女がその程度で怯むはずがなく、質問を始める。
「聞きたいことがいろいろあるんですけど……」
「手短に話せ。こっちは暇じゃないんだ」
「……編むの手伝いましょうか?」
「お前がか?ふん、人の手は借りん」
老人は不機嫌そうに「用件を言え」と答え、ソフィアはすぐに質問する。
「ここは何処なんですか?」
「……放浪島の「東部監獄」だ。そんな事も知らずにこんな所まで連れ込まれたのか?」
どうやら目の前の老人はソフィアが同じ囚人だと思い込んでるらしく、敢えて否定せずに質問を続ける。
「えっと……ここに着たばかりで何分、何も分からない状態なので……その、これからどうなるんですかね?」
「どうもこうもないさ……死ぬまでこの監獄で暮らすしかない。もしくは、兵士たちに使い物にならないと判断されて嬲り殺されるか」
右足を芝生で覆うと、今度は左足に芝生を巻き付け始める老人。そんな彼に、ソフィアは次の質問をする。
「死ぬまで……という事は、もしかしてここの皆さんは……」
「ほとんどが、お前が来る前からずっと前からここに住んでいる奴等だよ……しかし、珍しいな。あんたみたいな五体満足なエルフの子供が送り込まれるとはな。よく見るとなかなかの上玉じゃないか。囚人の男たちに可愛がられるかもしれないから気を付ける事だな」
「あはははっ……」
外にも畑を耕す子供は居たはずだが、よくよく思い出すとここに居る囚人のほとんどは人間だ。中にはちらほらとポチ子と同じく獣人らしき種族も居るが、確かに老人の言う通り、エルフの姿は見えない。
(……兵士?)
木の柵で囲まれた寂れた町の出入口には、随分と古ぼけた鎧と剣を携えた兵士が待機しており、彼らのすぐ傍には長めの鎖で手足を拘束された「囚人」らしき白い布のシャツとズボンだけを着込んだ男たちが集まっている。全員が靴を履いておらず、素足のままだ。
草原の芝生に隠れながら様子を伺うと、兵士たちが囚人らしき者たちに指示を出して、町の外にある畑で農業させているらしい。
彼らは黙々と畑を耕し、中には老人や子供まで混じっており、兵士たちはそんな彼らを見張るように周囲を取り囲んでいる。
(囚人しか送られない島か……)
歴史の授業で、この島は現在「バルトロス王国」が管理しており、世界中から集められた死刑囚や重罪人を送り込み、彼らが逃げられない様に終始見張っていると習った。この島に来る方法は「転移魔法」か、もしくは学園都市に存在する「飛行船」を使う以外に地上との行き来は不可能であり、現にこの数百年間で地上に脱走した人間は皆無という。
ソフィアは囚人たちが自分と同じサイズの「黒い腕輪」をはめ込んでいることに気が付き、やはり自分もあの白髪の女に「囚人」として判断され、腕輪を付けられたのかと予想する。
すぐにでも外したいが、どうやっても自分の力では引きはがせない。このまま近づくのは危険と判断し、ソフィアは芝生に隠れながら見つからない様に移動する。
「……ここなら」
出入口から離れた場所に、兵士の姿が見えない事を確認し、ソフィアは町に近づく。幸い、兵士の見回りらしき姿は無く、あとはこの4メートルを越える柵を乗り越えるだけだが、運よく柵の一部分が壊れているところを見つけ出し、自分の身体を押し込む。
「んっ……胸がきつい……」
地面に匍匐前進で柵の隙間に身体を押し込む形になり、年齢の割には膨らんだ胸が隙間に挟まってしまい、それでも何とか力ずくで街の中に潜り込む。
「やった……潜入成功!!」
若干、男の時よりテンションが高く、すぐに周囲を警戒しながらもソフィアは奥に進む。
――入って早々に、ソフィアはこの町は「囚人」達の監獄なのだと気づく。何故なら、周囲には囚人服を纏った男たちが無気力でへたり込んでおり、ある者は地面の上で通行の邪魔にも関わらず、倒れたまま動かない。他の者も建物の壁を背もたれに座り込んだり、仰向けで虚ろな瞳で空を見上げる者もいる。
周囲を警戒したところ、兵士の姿は見当たらず、一応は警戒しながらも路地裏から出ると、何人かの囚人が彼女に気付くが、すぐに視線を一瞥させただけで興味を失ったように元の体勢に戻る。
不審に思い、ソフィアは近くにいる年老いた男に近づく。彼はどうやら草原地帯から刈り取ったのか、芝生で素足を保護するように巻き付いている。
「あの……」
「帰れ」
話しかけようとした瞬間、すぐに老人はソフィアに目もくれずに答え、黙々と作業を続ける。ソフィアは彼の態度に口ごもるが、諦めずに話しかける。
「すいません……少しだけでもいいので話を聞いて下さい」
「……何で儂なんだ?他にも人間は居るだろうが」
「多分、他の人に聞いても同じ返事しか返ってこないでしょうね」
「ちっ……何だ?」
老人は鋭い視線でソフィアを射抜くが、今まで散々な目に遭ってきた彼女がその程度で怯むはずがなく、質問を始める。
「聞きたいことがいろいろあるんですけど……」
「手短に話せ。こっちは暇じゃないんだ」
「……編むの手伝いましょうか?」
「お前がか?ふん、人の手は借りん」
老人は不機嫌そうに「用件を言え」と答え、ソフィアはすぐに質問する。
「ここは何処なんですか?」
「……放浪島の「東部監獄」だ。そんな事も知らずにこんな所まで連れ込まれたのか?」
どうやら目の前の老人はソフィアが同じ囚人だと思い込んでるらしく、敢えて否定せずに質問を続ける。
「えっと……ここに着たばかりで何分、何も分からない状態なので……その、これからどうなるんですかね?」
「どうもこうもないさ……死ぬまでこの監獄で暮らすしかない。もしくは、兵士たちに使い物にならないと判断されて嬲り殺されるか」
右足を芝生で覆うと、今度は左足に芝生を巻き付け始める老人。そんな彼に、ソフィアは次の質問をする。
「死ぬまで……という事は、もしかしてここの皆さんは……」
「ほとんどが、お前が来る前からずっと前からここに住んでいる奴等だよ……しかし、珍しいな。あんたみたいな五体満足なエルフの子供が送り込まれるとはな。よく見るとなかなかの上玉じゃないか。囚人の男たちに可愛がられるかもしれないから気を付ける事だな」
「あはははっ……」
外にも畑を耕す子供は居たはずだが、よくよく思い出すとここに居る囚人のほとんどは人間だ。中にはちらほらとポチ子と同じく獣人らしき種族も居るが、確かに老人の言う通り、エルフの姿は見えない。
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