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学園編
魔石
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リノンに連れられ、鳳凰学園の中を案内してもらい、すぐに職員室へとたどり着く。小学校すら通っていないレノだが、学園自体も多いせいか職員室も中々に広い。中には100人をこえる教師の姿が見えた。
すぐにも彼の入学手続きは終わり、今回は学生寮に移り住む準備と、これからの学園での規則を教えるために新任の教師が案内してくれる事になった。
「いやいや、初めましてレノ君。私が今日一日、貴方の面倒を預かりましたクズキと申します」
「………何でお前が居るの?」
――学園の廊下にて、レノは新任教師を名乗る「クズキ」と顔を合わせていた。どういう訳か、服装はこの学園の男性教師が纏うスーツを着込んでおり、両手で教鞭をぱんぱんと叩いている。
彼が何故、目の前に居るのか理解できないが、おおよその予想はすぐについた。
「保険か……?」
「何を言っているのは良く分かりませんねぇ。ですが、まあ否定はしませんよ」
今回の任務はそれほど重要なのか、レノが「情報」を掴む前に失敗した場合、彼が代わりに任務を続行するという訳だろう。
「まあ、言っておかなかったのは悪いと思いましたが、私としても急な指令でしてねぇ……お互いに仲良くしましょうか」
「お前……絶対嘘だろ……」
馴れ馴れしく肩に手を掛けるクズキを睨み付けながら、レノはすぐに懐に何かを押し付けられている事に気が付く。視線を合わせると、クズキがウィンクしてきたため、内密に受け取ると、
(……宝石?)
彼に手渡されたのは掌サイズの赤色の「水晶」であり、クズキは受け取るのを確認すると、小声で、
(魔石と呼ばれる奴ですよ……特注品ですから、大切に扱ってくださいね)
(魔石……)
――魔石とは文字通り、魔力が込められた石の事であり、魔法使いが扱う「杖」などに取り付けられるものだ。主に「魔法」を強化させたり、または相性が悪い属性魔法も扱えるようになる。また、この世界ではガスや水道の変わりとして利用されることも多い。
例えば「火属性」の魔石をコンロのような道具に取り付けることで火を点けたり、逆に魔力を込めれば「手榴弾」のように魔石を爆発させたりも出来る。「水属性」の魔石は品によるが数十リットルの水を貯水する事も可能であり、魔力を扱えぬ一般人でも扱えるように加工されて販売されている。
但し、魔石というのは本来はかなり希少な物であり、一番安いものでも日本円単位で数万円は下らない(その分に長持ちする)。
(これを使って学園を火の海にでも変えるのか?)
(それはまた今度にしましょう……この魔石は貴方の身体に埋め込んで隠し持ってください)
(埋め込めって……おい?)
クズキは魔石を持っているレノの手を掴み、彼の左腕に魔石を押し当てた瞬間、魔石に魔法陣らしき紋様が浮かび上がり、レノの腕の中に入り込む。
「うわっ……!?」
「静かに……よし、成功しましたねぇ」
魔石が完全に入り込み、レノの腕には魔石に浮かんだ紋様が現れ、すぐに掻き消えた。
「これは……」
「便利なものですよ……貴方の身体に魔石を埋め込みました。足音を消すぐらいは出来るんでしょうが、この魔石を発動させればさらに完全に存在感を殺すことが出来ますよ」
「存在感……」
「要するに気配を消すことが出来る魔石ですねぇ」
レノの頭の中に、「現実世界」で見たアニメの中に、青い狸型ロボットが持っていた「石」を模した帽子を思い出す。あの帽子は姿を消すわけではないが、それに似た効力を持っていたはず。恐らくはこの魔石も同じような能力なのだろう。
「他には……簡易的な転送魔法が使えますね」
「転送?」
転移魔法とどう違うのかは分からず、尋ねてみると、クズキは学園内を案内するのも兼ねて、廊下を歩きながら説明を始めてくれた。
「転移魔法はご存知ですね?自分の肉体と身に着けている物を遠方に移動させる魔法、それに比べて転送魔法は自分の周囲の空間ごと移動する魔法ですよ」
「どう違うんだ……?」
「分かりやすくいえば、転移魔法は自分の身にまとう物だけを一緒に転移できますが、この転送魔法は周囲1メートルの空間に存在するものを全て強制的に転移させてしまうんですよ。つまり、転送魔法を使う場合は周囲1メートルに存在する障害物まで巻き込むので気を付けてください」
「つまり、壁に背もたれした状態で転送魔法を使った場合は……後ろに存在する壁ごと巻き込むわけか……」
思ったよりも使い勝手は悪いのかもしれない。また、転移魔法の移動距離は使用者の魔力で自由自裁に操れるらしいが、転送魔法の場合は視界の範囲内の場所にしか移動できないらしい。
しかも、魔力の消費量に関わらず、魔石を使用した「転送」は1日に3度しか使えないとのこと。
「便利なのか……不便なのか……」
「慣れれば悪くは無いですよ……それに、この魔石を介して魔法は発動するので「反魔紋」も発動しませんしねぇ」
「半径1メートルという事は……まさか地面も含まれるのか?」
「当然でしょう?屋根裏で下手に発動させれば、屋根ごと転送されますよ」
「本当に面倒だな……」
レノはクズキと会話しながら、校舎の外に出ると、学園内に存在する「学生寮」に出向くこととなった。
すぐにも彼の入学手続きは終わり、今回は学生寮に移り住む準備と、これからの学園での規則を教えるために新任の教師が案内してくれる事になった。
「いやいや、初めましてレノ君。私が今日一日、貴方の面倒を預かりましたクズキと申します」
「………何でお前が居るの?」
――学園の廊下にて、レノは新任教師を名乗る「クズキ」と顔を合わせていた。どういう訳か、服装はこの学園の男性教師が纏うスーツを着込んでおり、両手で教鞭をぱんぱんと叩いている。
彼が何故、目の前に居るのか理解できないが、おおよその予想はすぐについた。
「保険か……?」
「何を言っているのは良く分かりませんねぇ。ですが、まあ否定はしませんよ」
今回の任務はそれほど重要なのか、レノが「情報」を掴む前に失敗した場合、彼が代わりに任務を続行するという訳だろう。
「まあ、言っておかなかったのは悪いと思いましたが、私としても急な指令でしてねぇ……お互いに仲良くしましょうか」
「お前……絶対嘘だろ……」
馴れ馴れしく肩に手を掛けるクズキを睨み付けながら、レノはすぐに懐に何かを押し付けられている事に気が付く。視線を合わせると、クズキがウィンクしてきたため、内密に受け取ると、
(……宝石?)
彼に手渡されたのは掌サイズの赤色の「水晶」であり、クズキは受け取るのを確認すると、小声で、
(魔石と呼ばれる奴ですよ……特注品ですから、大切に扱ってくださいね)
(魔石……)
――魔石とは文字通り、魔力が込められた石の事であり、魔法使いが扱う「杖」などに取り付けられるものだ。主に「魔法」を強化させたり、または相性が悪い属性魔法も扱えるようになる。また、この世界ではガスや水道の変わりとして利用されることも多い。
例えば「火属性」の魔石をコンロのような道具に取り付けることで火を点けたり、逆に魔力を込めれば「手榴弾」のように魔石を爆発させたりも出来る。「水属性」の魔石は品によるが数十リットルの水を貯水する事も可能であり、魔力を扱えぬ一般人でも扱えるように加工されて販売されている。
但し、魔石というのは本来はかなり希少な物であり、一番安いものでも日本円単位で数万円は下らない(その分に長持ちする)。
(これを使って学園を火の海にでも変えるのか?)
(それはまた今度にしましょう……この魔石は貴方の身体に埋め込んで隠し持ってください)
(埋め込めって……おい?)
クズキは魔石を持っているレノの手を掴み、彼の左腕に魔石を押し当てた瞬間、魔石に魔法陣らしき紋様が浮かび上がり、レノの腕の中に入り込む。
「うわっ……!?」
「静かに……よし、成功しましたねぇ」
魔石が完全に入り込み、レノの腕には魔石に浮かんだ紋様が現れ、すぐに掻き消えた。
「これは……」
「便利なものですよ……貴方の身体に魔石を埋め込みました。足音を消すぐらいは出来るんでしょうが、この魔石を発動させればさらに完全に存在感を殺すことが出来ますよ」
「存在感……」
「要するに気配を消すことが出来る魔石ですねぇ」
レノの頭の中に、「現実世界」で見たアニメの中に、青い狸型ロボットが持っていた「石」を模した帽子を思い出す。あの帽子は姿を消すわけではないが、それに似た効力を持っていたはず。恐らくはこの魔石も同じような能力なのだろう。
「他には……簡易的な転送魔法が使えますね」
「転送?」
転移魔法とどう違うのかは分からず、尋ねてみると、クズキは学園内を案内するのも兼ねて、廊下を歩きながら説明を始めてくれた。
「転移魔法はご存知ですね?自分の肉体と身に着けている物を遠方に移動させる魔法、それに比べて転送魔法は自分の周囲の空間ごと移動する魔法ですよ」
「どう違うんだ……?」
「分かりやすくいえば、転移魔法は自分の身にまとう物だけを一緒に転移できますが、この転送魔法は周囲1メートルの空間に存在するものを全て強制的に転移させてしまうんですよ。つまり、転送魔法を使う場合は周囲1メートルに存在する障害物まで巻き込むので気を付けてください」
「つまり、壁に背もたれした状態で転送魔法を使った場合は……後ろに存在する壁ごと巻き込むわけか……」
思ったよりも使い勝手は悪いのかもしれない。また、転移魔法の移動距離は使用者の魔力で自由自裁に操れるらしいが、転送魔法の場合は視界の範囲内の場所にしか移動できないらしい。
しかも、魔力の消費量に関わらず、魔石を使用した「転送」は1日に3度しか使えないとのこと。
「便利なのか……不便なのか……」
「慣れれば悪くは無いですよ……それに、この魔石を介して魔法は発動するので「反魔紋」も発動しませんしねぇ」
「半径1メートルという事は……まさか地面も含まれるのか?」
「当然でしょう?屋根裏で下手に発動させれば、屋根ごと転送されますよ」
「本当に面倒だな……」
レノはクズキと会話しながら、校舎の外に出ると、学園内に存在する「学生寮」に出向くこととなった。
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