種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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幼少編

クズキ

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「ぐあっ……!!」


身体全身に襲い掛かる爆風に吹き飛ばされ、レノは遥か後方の枯れ木の群まで押し込まれ、そのまま大木をなぎ倒し、倒壊した枯れ木が彼の身体に倒れ込んだ。



「……っ……はあ、はあっ……!」


残されたダークエルフは、膝をついて予想以上に苦戦したことを実感し、口元に笑みを浮かべた。薙刀を振るい、杖代わりに立ち上がると、彼女は完全に燃え尽きた洋館を確認する。


「面白い……まさか、ただのガキにここまで追い詰められるとは……これだから、旅は止められないな。結局は無駄足だったか……奴の情報は掴めなかったが、面白い物は発見した」


レノを押し潰したと思われる枯れ木の大木を一度だけ見つめ、獰猛な笑みを浮かべる。


「これでもまだ生きていたら、本当に化物だな……」


彼女は懐から水晶を想像させる魔道具を取り出し、そのまま水晶を砕く。水晶の欠片が周囲に飛び散り、しばらくの間待つと、彼女の足元に複雑な紋様の魔方陣が発動する。



「……じゃあな」




――魔法陣が発光したかと思うとダークエルフの姿が光に飲み込まれて消え去り、しばしの静寂が訪れる。



「ぶはっ……!!」


枯れ木の間から、全身火傷を負いながらも生き延びたレノが現れ、彼はダークエルフが消えた地面を睨み付ける。地面には魔方陣の焼けこげた痕が残っており、彼はその光景を見ながら歯を食いしばり、


「逃がすか……!!」


拳を握りしめ、地面を這いずりながら、レノは彼女が消え去った場所に近づこうとするが、身体は限界だった。


「……うっ……」


ダークエルフが目の前から居なくなったことで集中力が途切れたのか、身体の限界が迎え、今度こそ間違いなく意識を失う――









――次にレノが目を覚ました瞬間、見知らぬ天井が視界に広がっていた。


(……なんだ、ここ……?)


どうやら、自分はどこかの建物に居るようであり、少なくとも「黒猫(ブラック・キャット)」が管理している屋敷の類ではない。ベッドに眠らされていたらしく、身体を起き上げると、すぐに全身の火傷が治療されている事に気が付く。驚くべき事に治癒というよりは時間が巻戻ったように身体が完全に元に戻っており、あれほどの黒焦げになった身体をここまでに完璧に治療するなど、並大抵の治癒魔導士の仕業ではない。


「やっと目覚めたましたねぇ?ハーフエルフ君」
「っ!?」


ベッドのすぐ傍には今まで気付かなかったが、教会などに居る「神父」の格好をしている男が座っていた。年齢は20代半ばほどであり、種族は人間らしい。黒い髪の毛は短めに揃え、不自然なほどに細目で笑顔を浮かべている。体格は長身の割には華奢であり、神父の姿をしている割には妙に宝石の類を身体中に取り付けている。


「あんたは……」


レノはこの男には見覚えがあった。そう、一度だけ、レノが「孤児院」に居た頃に出会っている。名前は確か「クズキ」か「クズノキ」と名乗っていたはず。まるで現実世界の苗字のような響きであり、そのお蔭で根強く記憶に残っていた。


「久しぶりですねぇ……あの日以来ですから、2年ぶりくらいですかねぇ?」
「……あんたが治療を?」
「年上には敬語を使ってほしいですが……まあ、おっしゃる通り、私が直々に治療しましたよ」


クズキは優秀な治癒魔導士であり、五大属性のどれにも属さない特殊な「聖属性」と呼ばれるの属性魔法を使える。教会が発行している「聖水」を使い、治療を施すことが出来るのだ。


「黒焦げの貴方を見つけ出し、ここまで治療をしたのは私なのですから、少しは敬意を払ってほしいですねぇ」
「黒焦げ……か。どうして俺を救い出した?」
「私としては、元々あなたを探してたんじゃないんですけどね……「黒猫」を追っていたら、燃焼した洋館の傍で倒れているあなたを発見したんですよ」
「黒猫を探していた……?」


まさか王国の人間が黒猫の捜索を彼に依頼したのかと身構えると、クズキは彼の意図に気が付いたのか、あからさまに首を振り、


「貴方たちが王国に敵対しているのは承知してますよ、今回我々が黒猫を探していたのは、他の理由がありましてね」
「理由?」
「黒猫というよりは、バル本人を探していましてね。彼女に聞きたいことがあるんですよ」
「聞きたいこと……」
「そう、彼女が以前に所属していた「組織」にね」


クズキの「組織」という言葉に、レノはダークエルフの事を思い出す。2年前にも、孤児院を襲撃した際に彼女が倒れこむビルトに問い質していた。


「何の組織を探してるんだよ……」
「それは答えられませんね。強いて言うなら、今私が所属している「闇ギルド」と敵対している存在としか」
「闇ギルド……」


「闇ギルド」とは、この世界でいうところの犯罪者たちが手を組んで作り出した大規模組織であり、今までの歴史の大事件は全て彼らが裏で関わっているという。この闇ギルドの数は無数に存在し、レノの所属している黒猫のような盗賊ギルドとは違った異色の存在でもある。


「最近、この組織を狙って妙な行動を起こすダークエルフが現れましてね……バルが以前にこの組織に加入していた情報はありましたから、もしやと思って久しぶりに尋ねてみたら……という訳ですねぇ」
「……その口ぶりだと、バルは見つけていないのか?」
「そうですねぇ……一応は捜索していますが、何せ、あの王国に手を出してしまったのですから、生きているとは思いませんけどねぇ」


不気味な笑みを浮かべるクズキに、レノは眉をしかめる。
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