種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
18 / 1,095
幼少編

黒猫盗賊団

しおりを挟む
――草原で黒猫盗賊団と出会ってから2年の月日が経過し、年齢が10才を迎えたレノは街中で「男」の姿で疾走していた。後方には、この街の自警団らしき鎧を被った人間の男たちが追いかけてくる。


「まて貴様ぁっ!!止まれぇええええっ!!」
「領主様の金を返せぇええええっ!!」
「嫌だよっ……っと!」


後方の自警団の兵士が投げ込んだ槍を軽く躱し、レノは一気に街路を走り込む。周囲の人間達が、彼らに驚きの表情を上げて、慌てて道を開く。レノは前方の人間達の間を抜け、少しずつ自警団との距離を開く。元々人間と比べればハーフエルフは身体能力が優れているため、このまま逃げ切れるだろう。


「ちっ……おい!!」
「はっ、はい!!」


兵士たちの一番後列で走っていたフードを纏った男が、兵士に指示されてレノに向けて掌を向け、呪文を唱える。男は懐から縄を取り出し、遥か前方のレノに向かって放り込み、


「バインド!!」
「くっ……!!」


空中に浮揚していた「縄」が地面に落ちた瞬間、まるで生きている本物の蛇のように移動し、レノの身体に纏わりつき、彼を地面に倒れこませる。縄はまるでレノの身体に纏わり付き、力ずくでは引き剥がすのは難しいだろう。口元に笑みを浮かべた自警団が近づいてくるが、逆に彼は口元に笑みを浮かべる。


「……馬~鹿」
「何っ!?」
「そんなっ!!」


レノはフードからナイフを取り出し、完全に拘束される前に縄を切り落とす。魔法で操作されているとはいえ、縄そのものが強化されているわけではない。すぐに拘束が外れると、レノは立ち上って即座に足元に風の「魔力」を送り込んで跳躍する。



「届けっ!!」


目の前の建物に向かって勢いよく風の力を利用して跳躍し、一気に屋上まで飛び上がる。


「くっ……!!すぐに追いかけろ!!」
「は、はい!!」


建物の下からはまだ諦めの悪い自警団の兵士たちの声が聞こえ、レノは足に魔力を纏わせて建物の上を疾走する。下からは彼を追いかける自警団の姿があり、何処までもしつこい。


「くっ……あの跳躍力、獣人だったか!!」
「己……獣無勢が!!」


(……ハーフエルフだけどね)


フードで身を隠しながら、レノは懐に忍び込ませたこの街の領主の館から盗み出した「金貨袋」を見ると、何としても奪われない様に腰に縛りつけ、大きく跳躍する。風の魔力を最大限にまで練り込ませ、レノは建物の下に降りる。既に自警団との距離は随分と開けている。すぐ傍の路地裏に駆け込むと、レノはフードを脱ぎ捨てる。



「ソフィア……!!」



そして「彼女」は身体が一瞬だけ青く光り輝き、肉体に変化が起きる。腰元まで伸びた髪の毛は白く変わり果て、10歳にしてはかなり胸元が膨らんでおり、瞳の色も「碧眼」へと変色する。


「ふうっ……」


金貨袋をフードに隠し持っていた鞄の中に隠しこみ、腰に巻き付けると、そのまま路地裏から人気の多い街路に堂々と姿を現す。


「わあっ……エルフだ……」
「何でこんな所に……」
「珍しいな……人間の街にやってくるとは」


周囲の人間達が驚いたように彼女に視線を向けるが、その瞳に軽蔑や恐怖は含まれていない。基本的に人間と森人族の種族間は妬みあっているのだが、この街では滅多に「エルフ」が訪れないのか、ほとんどの人間が彼女に奇異の視線を向けるだけだった。


「探せ!!ここいら辺で降りたはずだ!!」
「何としても見つけ出せ!!」
「くそっ……私の魔法をいとも容易く……」


ソフィアの横を無数の自警団が横切り、彼女に驚きの視線を向けるが、すぐにレノの捜索を始める。彼女は口元に笑みを浮かべない様に気を付けながら、堂々と彼らの横を素通りする。



――やがて、何事もなく街を覆う外壁に辿り着き、自警団が厳重な警備で外壁の門を取締りしており、ソフィアは辺りを見渡して、目当ての人間を見つけ出す。



「――お、来た来た!!」
「遅いよレノ……いや、ソフィア~!!」


城門から少し離れた場所で、途轍もなく巨大な「黒馬」に繋がれている馬車が止まっており、車の中から青年2人が顔を出す。


「……どうやら上手くいったようだね、ソフィア」


すぐにレノは馬車の元に駆け出し、中に入り込むと馬車の奥には商人風の格好をした「バル」が座り込んでおり、その手にはトランプ(現実世界の物とは大きく絵柄が違う)カードを持っており、どうやら自分が来るまで3人で遊んでいたらしい。


「また、人が必死で盗んでいる時に遊んでたのか?」


溜息を吐きながら、レノは鞄から金貨袋を取り出し、バルに投げ込む。彼女は嬉々として袋を片手で受け止め、満面の笑みを浮かべる。


「おほ~!!やっぱり、あの領主溜め込んでたんだね~!!」
「一応は男の姿で盗み出したよ……この姿なら怪しまれることは無い」
「ふふん……あんたを売り払わずに育てたかいがあったね」
「何言ってんすか。子供を奴隷商人に売り渡した事なんてないくせに……あいてっ!?」
「余計な事言ってんじゃないよ!!ほら、さっさとこれを着けな。怪しまれないように振る舞うんだよ」


バルは金貨袋を近くの果物箱に隠しこみ、ソフィアに首輪をはめ込む。この首輪は奴隷を拘束するための物であり、主人の命令1つで首輪が締め付けられる特殊な魔法が掛けられている。


「……また俺はあんたの奴隷に逆戻りか?」
「形だけに決まってるだろう?ま、今更あんたを奴隷にしたって、誰にも売りはしないよ」
「お頭、行きますかい?」
「ああ……いいかい、今の私達は商人だよ。間違えても城門でお頭何て呼ぶんじゃないよ」
「分かってますって!!姉御!!」
「その呼び方も十分に可笑しいだろうが!!」
「あいたぁっ!?」


軽く青年の頭を小突き、バルは馬車を走らせる。この2年の間で、あの少年たちも大きくなり、今では立派な青年に成長したのだ。まあ、中身は全く変わってはいないが。



――城門まで移動すると、すぐにバルたちは所持品検査と、領主の屋敷に逃げ込んだ「黒髪の男の子」が居ないかを確認されたが、検査を通過して何事もなく街から抜け出した。エルフの集落から追放されてから2年の間、レノは「バル」を中心とした盗賊団ギルド「黒猫(ブラック・キャット)」の一員として働いていた――
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21,321pt お気に入り:3,267

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,884pt お気に入り:3,825

異世界転生令嬢、出奔する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:9,592pt お気に入り:13,936

処理中です...