種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
16 / 1,095
幼少編

反魔紋

しおりを挟む
「禁忌……?」
「そう……お主は知らぬとは言え、最も犯してはならぬエルフの掟を破った」


族長は縄の代わりにレノを拘束している蔓を指で空中を払う動作だけで振りほどき、今度は両側に立つレンとランが彼の両腕を掴みあげ、地面に抑えつける。地面に押し倒されたレノの背中に族長は右の人差し指に青い魔力を灯し、彼の服の上から背中に触れる。


「あぐぅっ!?」


その直後にレノの背中に3年前にビルドに刻まれた紋様が浮き上がり、背中に異常な激痛が入る。


「こ、これは……!?」
「なんと禍々しい……」
「汚らわしいっ……!!」


周囲のエルフ達に動揺が走り、一層にレノの背中に視線が集まる。レノ自身は何が起きているのか分からないが、痛みで意識が薄れていく。


「なっ何っ……!?」
「喋るでないっ……それにしてもあの女狐め……雑な術式を組み込みおって……」


今まで無表情を保っていた族長の顔が眉をしかめ、口元を食いしばる。しばらくの間、族長はレノの背中を見続けると指先を光り輝く紋様に触れさせ、ゆっくりと彼の背中に書き込む動作を行う。


「レノよ……お主の身体には、正確に言えばハーフエルフの肉体として生まれた者は産後すぐにある封印の術式を掛けられる」
「ふ、封印っ……ぐああっ!?」


指が動くたびに火鉢を身体を押し付けられたかのような感覚が広がり、レノは暴れようとするが、左右に控えるレンとランが抑えつける。


「ハーフエルフとして生まれた者は必ず「封印」を施される。大昔、儂や長老が生まれる遥か昔に大きな戦争が起きた。魔人族が全ての種族に戦争を仕掛けたのじゃ」


族長の言葉に、レノはビルドから聞いた話を思い出した。彼女も同じように大昔に起きた出来事だと語っていたはずだが、この少女にしか見えない族長がそんな昔の時代から生きていたという事に驚きを隠せない。


「その戦争で魔人族はハーフエルフを従え、我々に戦争を仕掛け、勝利した。その当時の魔族を支配していたという「魔王」という存在は、魔人族でありながらエルフである私達よりも凄まじい魔力の使い手であり「彼女」はハーフエルフという種全体にある種の「呪い」を施した……」
「の、ろっ……い……?」


背中の激痛で今にも気絶しそうなレノに族長は視線をやり、そして淡々と告げた。


「そう、今のお前が扱える「性別」を自由に変化させる能力を目覚めさせたのだ……しかも、全てのハーフエルフにな」
「そんなっ……」


自分のこの能力が元々はハーフエルフが生まれ持っている能力というのも驚きだが、まさか「魔王」という存在が関わっているなど思いもしなかった。レノ本人はビルドが遊び半分に自分の身体に施したと思っていたが、想像よりも非常に危険な能力だったらしい。


「性別を自由に転換できるという事は、即ち男として生まれたハーフエルフも女の肉体ならば子供が産めるという事。それは決してあってはならない行為……我々、エルフは血筋を重んじる。これ以上、ハーフエルフなどという存在を増やすわけにはいかないのじゃ!!」
「うぁああああっ!?」


レノの背中の発光が一段と強まり、まるで背中全体に炎が走った感覚に陥る。あまりの激痛に、最早気絶する事さえもできない。抑えつけられた事で真面に悲鳴を上げることも出来ないレノに周囲の者達は笑い声を浮かべ、まだ年端も行かない子供が苦しんでいるのに笑みを浮かべる彼等にレノは唇を噛み締める。


「お主には悪いが……森人族に伝わる秘法「反魔紋」を施した。これで2度とお主は「魔法」が使えない身体になった」
「ひぃっ……うぐっ……げほっ!!」
「ふん、良い気味ね!!」
「生かして貰えるだけ、有りがたく思うがいい!!自分が子供だった事を喜ぶんだな!!」


周囲のエルフ達、中にはレノよりも小さな子供も含まれており、悲鳴を上げるレノに向けて笑い声を上げる者や、彼を乏しめる言葉を放つ者が大半であり、誰一人として彼の事を心配するエルフは居ない。頼りのフレイと長老に関してはフレイは歯を食い縛りながらレノから顔を背け、長老は既に意識を失っているのか、目を閉じたまま動かない。


「命だけは取らぬ……しかし、2度と子供は「産めぬ」であろう」


やがて族長はレノを開放し、何時の間にか彼女の手には「扇」が握られており、族長は扇を翻して指示を与える。


「この者を追放しろ!!2度とこの森に足を踏み入れさせる出ない!!」
「「はっ!!」」


彼女が宣言すると、屈強な肉体のエルフの1人がレノの身体を持ち上げ、何処かへと歩き始める。レノは背中の激痛と異様な疲労感が重なり、徐々に意識が遠くなる。



「レノぉおおおおおおおっ!!」



最後に自分の名前を悲痛な表情で叫ぶフレイの顔を見た途端、ゆっくりと瞼を閉じた――
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:19,794pt お気に入り:3,267

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,929pt お気に入り:3,825

異世界転生令嬢、出奔する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:9,492pt お気に入り:13,936

処理中です...