種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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幼少編

弓矢

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「フレイ……この1週間の間、レノの面倒はお前が見るがいい。特別にこの集落に住むことを許そう」
「……はい、族長」
「長老よ……聞いての通りじゃ。お主の家を貸してやれ、どうせ1人暮らしで無駄に部屋を持て余しておったじゃろ」
「分かりました……あの、それと報告が……」
「分かって居る……レノ、お主が住んでいた場所で何が起きた?」
「っ……!?」


族長の言葉にレノの身体が小さく震え、孤児院を焼失させたあの「エルフ」の事を思いだし、恐怖で身体が身震いする。それを見たフレイが彼の小さな体を引き寄せ、その豊満な胸に埋めさせる。


「族長……あの「ダークエルフ」が現れた」
「何じゃと……?」
「私が辿り着いた時には、もうレノ以外の奴等はもう……」
「そうか……どうりで儂の千里眼でもよく見通せないはずじゃな……あの者が……」
「ダークエルフ……?」
「お主の母親と同じ、な」


――この世界に置ける「ダークエルフ」とはエルフの中でも特に身体能力が優れたエルフであり、彼らは魔法よりも剣で戦う事を得意とする。


ダークエルフは「ハーフエルフ」と同じくエルフ族に迫害されており、その理由は「魔人族」の血を引いているからだと言われている。魔人族とエルフの混血である「ダークエルフ」は、普通のエルフよりも身体能力が優れており、実際にレノの母であり「ダークエルフ」だったレイアは戦士たちの中でも最強を誇っていた。そんな母親の血を引き継ぐレノは彼女からの才能を引き継いでいる可能性が高い。


「正確に言えば、お主はハーフエルフではなく、ダークエルフのハーフエルフ、クォーターエルフとでも言うのかな」
「クォーター……」
「まあ、どちらにしろ寿命は我々と大差は無いがな……まあ、背中の事は「契約の儀式」が終わり次第に話そうか……」
「はいっ……」






一通りの話を終えると、レノ達は屋敷を後にし、「長老」が住む家に向かうことにした。長老の家は、集落の外れにあり、こちら側にはエルフの数は少なく、滅多に彼の家に訪れる者も居ない。族長と比べれば、こじんまりとした屋敷だが、それでも3人が住むには十分の広さだった。屋敷に入って早々に、フレイは壁に立て掛けられた「弓」を取り出し、レノを引き連れていく。


「ど、どこに行くんですか?」
「森だ!!狩りを行うぞ!!」
「え、で、でも……」
「大丈夫だって、族長からはちゃんと許可をもらっているから!!」


レノに子供用の弓を渡し、フレイは彼を抱えて集落を囲む森の中を疾走する。





――そこから先は、彼女のスパルタな訓練が何日も続いた。



弓の扱い方、森での気配の殺し方、魔獣の発見する方法、そして弓矢で獲物を射るタイミングなど、短期間で教えられることは全て叩き込まれた。剣を使って魔獣を殺す技術を教え込むなど、「1週間」だけでは到底不可能のため、彼女は遠距離から狙える弓矢の技術を叩き込む。

また、儀式は長引くと普通に何日も森の中で過ごすこともあり、出来るだけレノは森の中で暮らすことにした。ちなみにフレイは魔法の類は苦手らしく、集落に戻って食事を取ると「長老」から短い期間で覚えられる魔法を教えてもらう。


――5つの属性の中で、最も覚えやすいのは「無」属性の魔法だが、その分に他の「火」「水」「風」「雷」の魔法と比べたら攻撃性の高い魔法は遥かに少ない。


長老は魔獣の肉体にダメージを与えられる魔法ではなく、この世界に存在する「光石(常に輝く鉱石)」と呼ばれる魔道具を使用する事で魔獣を怯ませる効果が高い「フラッシュ(眩い閃光を放つ)」を教え、3日目にしてレノは習得に成功した。









そして、ついに試験前日の「6日目」の夜、レノは草むらに隠れながら、たった1人で森の中を歩く「鹿」に向けて弓を引き絞り、


(……行けっ!!)


フレイに教わった「風属性」の魔力を先端の鏃に纏わせた矢は真っ直ぐに鹿の頭部に目掛けて発射する。この短期間で身に着けた「魔力付与」と呼ばれる魔法の力を物体に宿す技術であり、魔法の才覚があったのかレノはたった数日で覚える事が出来た。


「ッ……!?」


正確に鹿の額を貫き、そのまま悲鳴を上げる暇もなく、その場を数歩ほど歩くが地面に倒れ込んだ。


「……やった……」


初めて自分で「獲物」を狩ることに成功し、達成感と同時に初めて自分の意思で生き物を殺したことへの罪悪感が芽生える。


「今度こそ……」


それでも鹿の死体を見下ろし、自分が放った矢を引き抜くと、鏃の部分がレノが事前に纏った「風」の魔力で潰れていた。それを見たレノは溜息を吐き、試しに近くに存在する大木に弓矢を引き絞り、再び矢の先端に風を纏わせ、


「ふっ!!」



矢は大木に深く突き刺さるが、結局は矢の半分ほどしかめり込んでいない。フレイ曰く、この「矢」で大木を貫通させるほどの威力を引き出さない限り、魔獣の分厚い肉体を貫くことは不可能と言われている。レノはこの6日間、ずっと「風」の魔力を操作して弓矢に纏わせているが、どうも彼はエルフ族にしては「風属性」の魔法とは相性が些か悪いらしく、魔法の修得には至っていない。
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