種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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幼少編

逃走計画

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「ふうっ……ついにやったね!!」


レノが「8歳」の誕生日を迎える前日、ビルドの内心は喜びに満ちていた。明日になれば自分の懐に大量の金貨が手に入る手筈だった。8年前、あの赤ん坊であったハーフエルフの赤ん坊をここまで育て上げ、そして数日中に彼を迎えに「エルフ」の使者がここに訪れるのだ。

ビルドは数枚の金貨と引き換えに、レノを使者に渡す約束を8年前の赤髪の女と約束していた。何故、ハーフエルフの存在を忌み嫌う純粋なエルフ賊がわざわざ赤ん坊を人間の自分に育て上げ、そして迎えに来るのかは分からないが、彼女にとって肝心なのは自分が得をするかどうかだった。


「あのガキともお別れかい……寂しくなるね~」


硝子のグラスに酒を注ぎこみ、心にもない事を告げながら笑みを浮かべ、ちびちびと酒を味わい、彼女は先日に送り込まれた書類を見る。

そこには、ここから大きく離れた場所にある「街」に住む貴族が、レノを「明日」の時間帯に買取するという内容が書かれており、ビルドはあろうことか赤髪の女生徒の約束を反故し、この貴族に「50枚」の金貨と引き換えに売り払うつもりだった。

この世界の金貨は1枚に付き、だいたい日本円で「10万円」近くの価値が在り、つまり50枚の金貨は「500万円」相当の価値が在るのだ。


「はっ……上手く行けばさらに値上げできるね」


レノに魔法を教え込んだのは「奴隷」としての存在価値を上げるためであり、あの年齢で魔法を扱えるハーフエルフなどは滅多にいない。最も、ハーフエルフ自体が非常に数が少ないのだが。


「……うっ……はしゃぎすぎたかね」


不意に酒を飲み干した途端、視界が歪む。気付けば随分と遅くまで飲んでおり、明日の朝早くから買取り人との約束があるため、大人しくビルドは自分のベッドに向かう。念のために、レノが逃げ出さない様に孤児院を囲む鉄柵には事前に防衛用の魔道具を仕込んでおり、もしも鉄柵に誰かが指一本でも触れた瞬間、孤児院中に激しい警戒音が鳴り響くように設定している。


「ぐがぁああああっ……」


まるで熊の鳴き声のような寝言を立てながら、ビルドは深い眠りについた――




――基本的にこの孤児院の子供部屋は、1つの部屋に5、6人ほどの人間が寝泊りしており、部屋の数は軽く100を超える。現在の孤児院に居る子供の数は300名ほどであり、先日に「奴隷商人」に年齢が13歳を超える人間全員がビルドに売り払われた。基本的にこの世界での成人年齢は「15歳」であり、彼らは主に奴隷商人を通して隣国の兵士として育てられるだろう。

そして、子供部屋の「012号室」には、準備を整えたレノと、複数の種族の子供たちが集まっていた。夜の時間帯に勝手に動き回るのは禁じられているのだが、彼等は絶好の好機を逃さないために集まった。


「ほ、本当に抜け出すの?」
「や、やっぱり止めようぜ……マザー(ビルド)に殺される」
「今更何言ってんだよ!やるしかないんだよ……!!」
「………」
「キュロッ……キュロロッ……!」
「お前は黙ってろ!!」


全員でレノを含めて6人であり、人間ヒューマンが4人、ハーフエルフ(レノ)が1人、最後に全身が青い鱗で覆われた一つ目の「魔人族」が1匹だった。



――この魔人族は「サイクロプス」と言う名前で有名な魔物でもあり、大きさはまだ8歳程度にも関わらず、身長は150センチを超え、体重は100キロを軽く越しており、人種よりも魔物に近い種族である。



サイクロプスは異様に恐ろしい外見とは異なり、非常に心優しい性格の種族であり、少し前に森の中に住んでいたところをビルドに攫われたのだ。主に労働目的でビルドに捕まって以来、彼女(雌)はレノの居る部屋に住み込み、毎日孤児院の中では力仕事を行っている。

子供ながらにサイクロプスは何百キロもの荷物を運び込める腕力があり、一度だけ激昂してビルドに逆らったのだが、彼女の魔法には敵わず、お仕置きされて以来、臆病な性格になってしまった。


「フゴゴッ……フゴ?」
「よしよし……」


部屋の中で一番小さいレノに抱き付き、彼が頭を撫でてやると嬉しそうにレノの身体を持ち上げる。子供たちの中では一番に仲が良い2人だ。


「おい……じゃれている場合じゃないだろ?どうするんだ?」


一番の年長者らしき少年がレノに不安そうに尋ねると、サイクロプスの背に乗り込んだレノは頷き、


「抜け穴を使おう」



――数分後、孤児院の隅にある鉄柵の前に様々な植物が植えられた庭の前に6人は集まり、レノが草むらを掻き分けて、抜け穴を露わにする。



この抜け穴は鉄柵の下まで通じており、この穴を抜ければそこは孤児院の外である。小さい頃からレノが毎日のように掘り起し、最近になってサイクロプスにも協力してもらい、全員が通れるほどの抜け穴となった。

孤児院の中で脱走計画を考えたのはレノ1人であり、彼以外にビルドを敵に回すような真似をする考えに思い至った者は少なかった。それでも彼は比較的にこの脱走計画に参加してくれそうな人員を集め、何とか今日という日まで5人の同志を集める事に成功した。


「こんなもの何時の間に……」
「いいから、早く行こう」
「あ、ああ……」
「キュルルッ……」


まずは身体が小さいレノを先頭に次々と穴の中に入り込み、最後に一番身体が大きいサイクロプスが体勢を低くして入り込む。


「キュロロォッ……!!」
「我慢しろよ……たく、デカい図体しやがって……」


一番後列のサイクロプスがきつそうに声を上げて穴の中を突き進む中、ついに6人は穴から抜け出し、孤児院からいとも簡単に脱出してしまう。ビルドの油断は子供達が鉄柵を通り抜ける方法を考えられるはずがないという安易な判断して満足してしまったことであり、地面を掘って外に出るなど考えても居なかったことだ。

念のため、彼女のお酒の中に森の中で取れる睡眠効果がある木の実を仕込み、すくなくとも半日は深く眠り込むだろう。この日の為に誰にも気づかれずに準備を進め、やっと孤児院を抜け出すことに成功したのだ。


「やった……!本当に外に出られた!!」
「よ、よし……あとは町に逃げるだけだ!!」
「お母さんに会える……!!」
「キュロロロロッ!!」


ドスドスとゴリラのように胸板を叩いて喜ぶサイクロプスに、他の5人は笑みを浮かべるが、すぐに全員の顔色が暗くなる。


「ちょ、ちょっと待てよ……ここからどうするんだよ?」
「帰り道が分からない……」
「も、森の中を抜けるのか……?危険すぎじゃないのか!?」
「キュルッ?」


外に出られたのは良いが、殆どの人間が抜け出した後の事を考えておらず、サイクロプスの場合は元々の孤児院の外の森の中に住んでいたので問題は無いが、他の人間はどうすればいいのか分からない。それはレノも例外ではなく、自分は元々捨てられた立場なので、帰る場所がない。だが、ここに居れば自分は奴隷として売り出されてしまう。


「取りあえず、森を抜けよう」
「そ、そうだな……いざとなったらこいつも居るしなっ」
「あ、ああ!!」
「キュロロ……?」


全員が巨体のサイクロプスを見つめ、取りあえず歩み始める。



――この数十分後、彼らに悲劇が訪れるなど現時点では誰もが予想していなかった。
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