不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
2,006 / 2,090
蛇足編

閑話 《ダインとバルの過去その1》

しおりを挟む
――監獄都市から転移魔法で帰還したダイン達は冒険都市に戻るとレナの屋敷へ訪れた。彼の屋敷ならば無料で泊めてくれるので宿代の節約のために訪れたのだが、ダイン達はレナ達が旅に出たことを初めて知った。


「ええっ!?レナ達が何処に行ったのか分からない!?」
「は、はい……行先も告げずに急に旅に出られたので我々も困っています。アイラ様はレナ様なら大丈夫だとおっしゃっているのですが……」
「あらら……当てが外れましたね」
「旅行か?それとも武者修行の旅に出たのか?」


屋敷の執事から話を聞いたダインはレナが不在だと知ってショックを隠せず、ミイネとゴンゾウはレナ達が何処に行ったのか気になった。だが、ダインは自分の手持ちを確認して顔色を青ざめた。


「や、やばい……今日はレナの家に泊まれると思って宿代なんて残してないぞ!?」
「だからあれほどお金の管理は僕に任せておけと言ったんですよ」
「悪いがダイン、俺も人に金を貸す余裕はない。今日は牙竜のギルドに戻って泊まってくる」


冒険都市の冒険者ギルドには冒険者専用の宿泊施設が存在し、事情があれば施設に無料で泊まることができる。この制度のお陰でレナも冒険都市に訪れたばかりの頃は宿屋を借りずに済んだ。しかし、他の街で冒険者登録したダインは何処のギルドにも泊まれない。


「ど、どうすればいいんだ……このままだと野宿になる!!」
「この街にレナさん以外に知り合いはいないんですか?」
「いるにはいるけど……絶対に頭を下げたくない奴しかいない」
「バルさんのことか?」


昔からダインと付き合いのあるバルならば事情を話せば彼を泊めてくれるだろうが、彼女が無料で泊めてくれるはずがなく、きっと面倒事を任せて来るのは目に見えていた。


「バルには頼れない!!絶対にまた僕をいじめてくるはずだ!!」
「いじめるって、そんなに意地悪な人ですか?」
「いや、わりとまともな人だと思うが……」
「それはゴンゾウがバルの正体を知らないからだよ!!あの女は身内に対してだけは異様に厳しいんだ!!僕が昔どんな目に遭わされたのか知りたいか!?」
「ど、どんなことをされたんですか?」


これまでにない気迫で怒鳴りつけるダインにミイネは圧倒され、小さい頃の彼がバルにどのような目に遭わされたのかを聞かされる――





――自分の家から逃げ出したダインは偶然にも冒険都市に向かう商団の馬車に紛れ込み、王都を離れて冒険都市へ辿り着いた。だが、子供の彼ではまともに働くこともできず、生き残るために影魔法の力を悪用して食べ物を盗もうとした。しかし、よりにもよって彼が盗みを働こうとしたのは若かりし頃のバルだった。


『ようやく捕まえたよこのクソガキ!!』
『うわぁっ!?は、離せよ!?』
『何が離せだっ!!あたしのサンドイッチを返しなっ!!』


ダインが食べ物を盗んだ相手は若かりし頃のバルだった。彼女はダインを捕まえるとボロボロの格好を見て疑問を抱き、痣だらけの肉体を見て心配する。日常的に暴力を振るわれていたダインは全身に怪我を負っており、訳ありだと察したバルは彼を地面に下ろす。


『どうしたんだいあんた、その汚い服は……よくみるとあちこち怪我をしてるじゃないか』
『う、うるさい!!離せよこの野郎!!』
『誰が野郎だ!!あたしは女だ!!』
『はぐっ!?』


生意気な口を叩くダインにバルは容赦なく拳骨を食らわせ、気絶したダインを連れて帰る。これがダインとバルの出会いだった――





――当時のバルはまだ冒険者を辞めて将軍職に就いていたが、他の将軍と揉め事を起こして辞めてしまった。実際の所は王妃が第一王女のナオと親し気な関係を築いていたバルを警戒し、彼女の将軍の座に就かせておくと後々に厄介な存在になり得ると判断して彼女を解雇に追い込む。

バルは将軍を辞めた後は冒険都市へと戻り、再び冒険者稼業を再開しようかと考えていた時にダインと出会う。当時のダインはまだ子供で他の人間に対して心を開かなかった。小さい頃から虐待されていたダインは他人を信じることができず、最初の頃は何度もバルの元を逃げ出そうとした。


『はあっ、はあっ……もう放っておいてくれよ!!』
『そうはいかないよ。あんたみたいな自分が一番不幸だなんて顔をしているガキを見てるとむかつくからね』
『な、なんだよそれ……分けわからないぞ!?』


いくらダインが逃げようとしてもバルは決して逃さず、彼を何度でも連れ帰す。結局はダインも逃げることを諦めて自分の素性を明かした。


『……僕はシャドウ家の子供だよ』
『シャドウ家?確か呪術師の家系かい?』
『よく知ってるな……けど、僕は呪術師なんかじゃない!!』


シャドウ家の存在はバルも噂で聞いたことがあり、彼女が王都に滞在していた時に存在を知った。シャドウ家はバルトロス王国を影から支えてきた存在だと聞いたことがあるが、バルが将軍に就いている間は幸か不幸か一度も顔を合わせたことがない。
しおりを挟む
感想 5,092

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。