上 下
1,979 / 2,083
蛇足編

巨人の農園

しおりを挟む
「へえ、あそこから通れるのか」
「いいえ、この城壁にはいくつも門が存在するわ。あそこはその一つにしか過ぎないわ」
「シズネちゃん詳しいね~」
「傭兵時代に何度か通ったからよ」
「流石はシズネ。さすシズ」
「どういう意味よそれは……」
「では行きましょうか」


レナ達は門に向かうと改めて門の大きさに驚かされる。巨人族が通り抜ける事も考えられて設計されており、王都の城門よりも巨大な門だった。門を通過するには通行料を支払わなければならず、城壁には巨人族と人間の兵士が配置されていた。


「門を通過する方はこちらで発行している通行許可証を購入してください!!」
「通行許可証か……ちなみに高かったりする」
「大丈夫よ。他の国に入国するよりも安い方よ……それに貴方なら無料で通れるはずよ」
「え?どうして?」
「S級冒険者は特権で他国への通行を無料で許可されるのよ。知らなかったの?」
「あ、すっかり忘れてた」


世界でも10人しかいないと言われるS級冒険者であることをレナは忘れており、彼はS級冒険者の証であるメダルを持っている。そもそもレナは王族なので国内ならば何処に行っても通行料を支払う義務はない。


「すいません、ここを通してください」
「ん?貴方は……レ、レナ王子!?どうしてこちらに!?」
「何だって!?」
「お、王子様!?」
「あれ?俺のことを知ってるんですか?」


レナは兵士に話しかけると正体を見破られ、慌てて兵士達はレナの前に集まって膝を着く。まさか自国の王子が来るなど夢にも思わず、兵士達は緊張した様子で訪問の竜を尋ねた。


「どうして王子様がこちらに……」
「ちょっと巨人国に用があってね。悪いけど通してくれる?」
「え!?いや、それは……」
「護衛の兵士はおられないのですか?」
「護衛なんて必要ないわよ。何があろうと私が守ってみせるわ」
「貴女は……確か闘技祭にも出ていた傭兵の方ですか?」
「……今は妻よ」


シズネは兵士の言葉に恥ずかしそうな表情を浮かべながらレナに抱きつく。レナはそんな彼女に照れくさく思い、兵士達は呆気に取られるが闘技祭でも活躍していた人物がレナの傍にいるのを知って納得してくれた。


「わ、分かりました。何やら事情があるのですね?ではすぐに馬車を用意いたしましょう」
「ああ、それは助かるかも」
「昔と比べたら巨人国の領地は減ったとはいえ、乗り物無しの移動は流石に勘弁ね」
「馬車か~どんなユニコーンさんが引いてくれるんだろう」
「姫様……王国ではユニコーンに馬車を引かせてはいませんよ」
「そうなの!?」


ヨツバ王国の王族であるティナが乗る馬車はユニコーンが引くのは当たり前なのでリンダの言葉に驚き、そんな二人のやり取りを見ていたレナは苦笑いを浮かべた――





――急遽用意してくれた馬車にレナ達は乗り込み、御者はシズネに任せることにした。実は馬車を運転できるのは彼女だけであり、レナもウルが引く狼車なら運転できるが普通の馬車を運転したことはない。コトミンとティナも経験がないのは当たり前だが、意外なことにリンダも普通の馬車に乗ったことはない。


「申し訳ございません。ユニコーンの馬車なら運転に慣れているのですが、他の国の馬車の運転はしたことがないので……」
「気にしないで頂戴。この機会に貴方達も馬車の運転を覚えればいいわ」
「う~ん、やっぱりウルが引いてないと違和感があるな」
「私も~」
「ウルはお留守番だから仕方ない」
「ヒヒンッ(文句あんのか)」


ウル以外の動物が馬車を引くことにレナ達は違和感を抱くが、普通は馬車は馬が引く乗り物である。シズネは慣れた様子で馬車を操作して全員を乗せる。彼女は傭兵時代によく馬を扱っていたらしく、乗馬だけではなく馬車の運転もお手の物だった。

城壁を通過してレナ達は巨人国の領地へ入ると、城壁を抜けた途端にレナ達は驚かされた。城壁を潜り抜ける前は広大な草原が広がっていたが、城壁を越えた途端にレナ達の視界に広大な畑が広がっていた。


「うわっ!?どうなってるのこれ!?」
「こ、これはいったい……」
「驚いたかしら?城壁の内側と外側はまるで別世界でしょう」
「ど、どうなってるの?」
「……あれを見て」


コトミンが何かに気付いて指差すと、そこには巨人族の兵士が畑作業に没頭していた。人間よりも体躯が大きくて筋力に優れているだけはあり、圧倒的な速さで大地を耕す姿にレナ達は呆気に取られた。


「この周辺には魔物は滅多に現れないのよ。だから城壁の守護を任されている兵士達は自分達の食料を確保するために畑仕事を行っているのよ」
「えっ!?では兵士達は自給自足で生活しているのですか?」
「肉や魚などの食料は流石に取れないから送り届けられているわ。それと余った分の野菜や果物は王都に送って売買を行っているらしいわね」
「へえ……この植物の育ち方、栽培の技能を持っている巨人族もいるね」


レナは栽培の技能を持っているので農園を見ただけで栽培の技能持ちの巨人族が混じっていることに気が付く。馬車は農園を通過する際、巨人族の兵士が畑を耕している光景がちらほらと見えた。
しおりを挟む
感想 5,087

あなたにおすすめの小説

“金しか生めない”錬金術師は果たして凄いのだろうか

まにぃ
ファンタジー
錬金術師の名家の生まれにして、最も成功したであろう人。 しかし、彼は”金以外は生み出せない”と言う特異性を持っていた。 〔成功者〕なのか、〔失敗者〕なのか。 その周りで起こる出来事が、彼を変えて行く。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。