上 下
1,977 / 2,083
蛇足編

意外な参加者

しおりを挟む
「おらおら!!全員まとめてかかってきな!!」
「待ってください!!それだと試験にならないのでは……」
「いいんだよ、体力を使い果たした奴と一対一で戦うなんて性に合わないからね!!」
「はあっ、はあっ……や、やってやる!!」
「全員でかかれ!!」
「うおおおおっ!!」


バルの言葉を聞いて体力試験を合格した者達は一斉に試験官たちに襲い掛かり、それに対してバルは意気揚々と大剣を構えた。最近はギルドの仕事が忙してく碌に身体を動かせなかったため、彼女は嬉しそうに大剣を振りかざす。


「本気で行くよ!!撃剣!!」
『うわぁあああっ!?』


バルの一振りで数名の剣士が吹き飛び、それを見た他の者達は慌てふためく。引退したとはいえ一時期はアイラに迫る剣士にまで上り詰めたバルに勝てる人間は早々おらず、彼女は持ち前の怪力を生かして大剣を振りかざす。


「おらおらおらぁっ!!」
「ひいいっ!?」
「つ、強い!?」
「まるで巨人族だ!?」


あまりのバルの強さに入団希望者は距離を取るが、そんな彼等に対して他の試験官も動き出す。真っ先に攻撃を仕掛けたのはシュンであり、彼は剣を振り抜くと風の斬撃を繰り出す。


「よそ見してんじゃねえ!!もう試験は始まってるぞ!!」
「ぎゃああっ!?」
「な、何だこの攻撃!?」
「魔法剣!?」


シュンが繰り出す風の斬撃を受けて次々と人が吹き飛び、誤って殺さないように斬撃の威力を抑えている。しかし、厳しい体力試験を合格した人間の中にはシュンやバルの猛攻を耐え凌ぐ猛者も何人か含まれていた。


「くそっ、人間如きに負けるかよ!!」
「そんな攻撃当たるかよ!!」
「へえ、威勢の良いのが来たね!!」
「おっ、ちょっとはやるじゃないか。面白いから相手をしてやるよ!!」


巨人族の剣士がバルの元へ向かい、獣人族の剣士が風の斬撃を躱しながらシュンの元へ向かう。王国以外にも他国から訪れた武芸者も数多く、中には剣聖に迫る実力者もちらほらといた。

バルとシュン以外の試験官の元にも腕利きの戦士が募り、その中には王国には存在しない流派の剣士や戦士も多い。しかも参加者の中には見知った顔もあった。


「行くぞ女!!私が勝てば団長は私がなるぞ!!」
「な、何を言い出すんですか!?」
「姉者が団長なら私は副団長だ!!」
「わわわっ!?」


ジャンヌの元に大剣を構えた褐色肌の女剣士が挑み、ミナの元には双剣を構えた褐色肌の女剣士が挑む。この二人の正体はアンジュとサーシャであり、二人ともレナの騎士団に入るために参加していた。


「私が勝てば団長の座を譲れ!!もしも私が負けたらお前の手下になってやる!!」
「それだと負けても合格を認めたことになるのですが!?」
「細かいことは気にしなくていい」
「気にするよ!?」


アンジュとサーシャが参加していたことにジャンヌとミナは驚くが、その一方で彼女達以外にも見知った顔の参加者が居た。その人物は圧倒的な力で試験官であるロウガを吹き飛ばす。


「ふんっ!!」
「ぐはぁっ!?ば、馬鹿な……何故、貴様がここに!?」
「お久しぶりですね。闘技祭以来ですか?」


ロウガを殴り飛ばしたのは女性であり、彼女とロウガが戦うのは初めてではなかった。闘技祭の本選にてロウガを破った「イリア」も試験に参加していた。彼女の正体はリーリスが外の世界を調べるために作り出したアンドロイドであり、塔の大迷宮から遠隔操作で操っている。

元々は外の世界の情勢を調べるために作り出したアンドロイドだったが、レナ達が塔の大迷宮を去った後にリーリスは騎士団の募集の情報を聞きつけて参加していた。闘技祭の頃よりも改良を加えた武装でイリアはロウガを圧倒した。


「レナさんの騎士団に入れば連絡も取れやすくなるので悪いですが本気で行かせてもらいます」
「何をわけのわからんことを……前の時のように簡単に敗れると思うな!!儂の真の実力を見せてやる!!」
「それは楽しみですね」


余裕の態度でイリアはロウガと向かい合い、彼女に対してロウガは激高しながら斬りかかった。その様子をガロは唖然とした表情で見つめる。


「な、何だあの女……ロウガさんを相手にあそこまで戦えるなんて何者だ!?」
「ガ、ガロ!?お前も手伝えよ!!こいつら結構やるぞ!?」
「おらぁっ!!」
「俺達を舐めるんじゃねえっ!!」


他の参加者の中にも最初の試験で体力を消耗しているはずなのに勇猛果敢に挑む人間も多く、予想外にも腕利きの試験官たちを相手に善戦していた。その様子をナオは驚いた表情を浮かべ、彼女の隣に立つ仮面の女剣士は満足そうに頷く。


「良かったわねナオちゃん、思っていたよりも気合の入った子が多いわ」
「は、はい。まさかここまで腕が立つ者が集まるとは……」
「そろそろ私も参戦しましょうか。大切な息子を守れるに値するかどうか……確かめて来るわね」


仮面の剣士の正体はアイラであり、彼女は笑みを浮かべて参加者の元に駆け出す。そんな彼女にナオは冷や汗を流す。


(本当はレナのためじゃなくて自分の腕を磨き直すために参加してるんじゃ……)


アイラが試験官に加わった本当の理由は鈍った肉体を鍛え直すためであり、息子に敗れて剣士を辞める決意をしたのに一か月も経たぬうちにアイラは再び剣を握っていた――
しおりを挟む
感想 5,087

あなたにおすすめの小説

“金しか生めない”錬金術師は果たして凄いのだろうか

まにぃ
ファンタジー
錬金術師の名家の生まれにして、最も成功したであろう人。 しかし、彼は”金以外は生み出せない”と言う特異性を持っていた。 〔成功者〕なのか、〔失敗者〕なのか。 その周りで起こる出来事が、彼を変えて行く。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。