上 下
1,865 / 2,083
蛇足編

死霊の浄化

しおりを挟む
「襲ってくる気配はなさそうだが……」
「ふむ……通常なら死霊は生者の気配に反応して襲い掛かってくるはずなんですが、石像が破壊された魂はどうやら完全な死霊にもなり損ねているようです」
「どういう意味?」
「石化していた間は生きていたのに、石化が解除された途端に肉体から魂だけが引き剥がされたんです。彼等は死んで霊になったというより、無理やりに魂が肉体から引き剥がされた存在……自分達が死霊と化した事も理解していないんですよ」
「……哀れだな」


地下迷宮に存在する全ての死霊は元々は石化されていた存在であり、石化中に肉体が崩壊した事によって魂だけが残されてしまった。死霊にもなり切れていない魂だけの存在と化した彼等を救うには浄化させる以外に方法はない。


「彼等を浄化させましょう。もうこの状態だと助ける事もできませんし……」
「浄化といってもどうするの?」
「レミア大将軍を呼ぶのはどうだ?彼女の力と聖剣ならばこれだけの魂も浄化できるだろう」
「そうですね、それが一番でしょうね」
「ぷるっくりんっ」


バルトロス王国の大将軍であるレミアは聖剣エクスカリバーに認められた存在であり、彼女ならば聖剣無しでも腐敗龍を打ち倒す程の聖属性の魔力を所有する。彼女の力と聖剣ならば地下迷宮に留まる死霊を全て浄化できるはずだった。

幸いにもここは王都なのでレミアも滞在しているはずであり、急いで彼女に連絡を取ってきてもらう事にした。レナ達は一旦地下迷宮から退散しようとしたが、ここでレナはある事に気付く。


「いや、待てよ……今回の依頼は俺達が引き受けてるんだから、これって外部者のレミアに頼んだら問題解決した事になるの?」
「え?あ~……どうですかね。そもそも依頼人はナオさんなんですし、そこら辺はナオさんを説得すればいいんじゃないですか?」
「どの道、我々にこれだけの死霊を浄化する方法は持ち合わせていない。これだけの数の死霊を浄化できるとしたらマリア様ぐらいしかいないだろう。それに今回の依頼は調査だ、討伐は指定されていない」
「それもそうか……」


死霊を浄化させるためにレミアに協力してもらった場合、レナは依頼達成した事になるのか疑問を抱く。だが、そもそも今回の依頼内容は討伐ではなく、あくまでも調査なので死霊の対処は含まれていない。そう納得する事でレナは立ち去ろうとしたが、突如として天井に浮揚していた死霊が一か所に集まり始めた。


「何だ!?」
「これは……嫌な予感がします!!すぐに逃げましょう!!」
「逃げるの!?」
「いいから早く!!」
「ぷるるんっ!?」


死霊が一か所に集まり始めたのを見てホネミンはレナに逃げる様に促し、即座にレナは掌を前に構えて空間魔法を発動させた。実は地下迷宮に入る前にレナは空間魔法を利用し、外に黒渦を作り出していた。


「この中に入ればすぐに外に出られるけど……」
「行きましょう!!ここに残ると大変な事になりそうです!!」
「おい、来たぞ!!」
『オアアアアッ!!』


複数の死霊が集結してやがて大きな黒い塊と化し、下に居るレナ達の元へ向かう。それを見たレナは黒渦に全員を避難させると、自分も中に入り込む――





――外に戻るとレナは即座に空間魔法を解除し、黒渦を閉じる事に成功した。死霊だけが地下迷宮に取り残され、どうにか危機を脱する事ができた。


「ふうっ……さっきのはやばかったですね」
「おい、どうなっている!!奴等は襲ってきたぞ!!」
「どうやら私達の存在を感じ取って自分達が死霊と化した事を自覚したようです。問題なのはあれだけの数の死霊が融合した事ですね」
「融合?」
「極稀に死霊が集結してより凶悪な存在と化す事があります。そもそも死霊自体が滅多に現れないんですけど、ともかく融合した死霊は面倒なんです。実体がないので物理攻撃は通じないし、強い光を放つ魔法しか聞きません」
「聖属性か火属性か雷属性の魔法で対処しろってわけか……」


急に死霊が襲い掛かるとは思わず、逃げ出してしまったがこれ以上はレナ達にはどうする事もできない。依頼人のナオに報告し、大将軍のレミアに対処してもらうのが一番だった。だが、ホネミンは地下迷宮の死霊が大人しく待ってくれるのか不安に思う。


「あの融合した死霊が地下迷宮に大人しく引きこもってくれるといいんですが……」
「どういう事だ?」
「あそこは完全な闇の世界です。死霊にとっては最高の環境なんですよ、闇の精霊を吸収してより凶悪な存在に育つかもしれません」
「じゃあ、早くレミアに知らせに行かないと……」
「間に合うと良いんですけどね……」


レナ達は急いで王城へと向かい、ナオに報告とレミアの派遣を願うために急ぐ。しかし、自体はホネミンの予想通りに面倒な展開へ発展した。
しおりを挟む
感想 5,087

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。