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蛇足編

誤解ですけど!?

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「馬鹿野郎!!何してんだ、傷一つ付けるなと言われただろうが!!」
「そ、そんな事を言われても……うぐぅっ!?」
「ホネミンアッパー!!」
「普通のアッパーだろ」


ミズネを落とした男に他の者が注意するが、その間にホネミンはプロボクサーのように顎を打ち抜く。一方でレナは男達に対して大剣を振りかざし、戦技で一気に吹き飛ばす。


「旋風!!」
「ぎゃああっ!?」
「ぐああっ!?」
「て、てめえら!?何してるんだ!!」


一撃でレナは男二人を吹き飛ばすと、最後に残ったのは片目に傷がある男だけとなった。レナは男と対峙すると、ホネミンは気絶したミズネの様子を伺う。


「その人は大丈夫?」
「問題ありません。意識を失っているだけです」
「く、くそっ……覚えてろ!!」
「逃がすわけないだろ」


逃げ出そうとした男に対してレナは掌を構えると、氷塊を発動させて男の頭部に目掛けて小さな氷の塊を放つ。逃げようとした男の後頭部に氷塊は的中し、情けない悲鳴を上げて倒れ込む。


「ぎゃいんっ!?」
「あ、ちょっと!!全員気絶させたら駄目じゃないですか!!誰か何の目的で攫おうとしていたのか聞けないですよ!!」
「あ、しまった……」


全員を気絶させてしまったが故にレナ達はどうしてミズネを連れ去ろうとしたのか理由を問い質せず、仕方なく彼等を捕まえて縄で縛り付ける。意識を取り戻すまで待つのも面倒だが、ミズネを誘拐しようとした理由を聞き出さねばならない。

ミズネの方は気絶しているだけで命に別状はなく、ホネミンが調べたところによると彼女は元から弱っていたらしい。人魚族は外で活動する場合はスライムなどの協力がなければならず、すぐに脱水症状を引き起こす。今のミズネは碌に水分補給していないので力が衰えている様子だった。


「彼女、大分お疲れの様ですね。目を覚ましたら水を飲ませないといけません」
「そんなに弱ってるの?」
「コトミンさんと違って普通の人魚族は本来なら陸上で生活する事なんてあり得ないんですよ」


人魚族は本来は地上で生活する生き物ではなく、コトミンのような存在は滅多にいないらしい。コトミンもスライム達がいなければ地上で長く行動はできず、ミズネも定期的に水分補給を行わねば脱水症状を起こして倒れてしまう。


「こいつらはどうして攫おうとしたのかな」
「奴隷商人に売るつもりだったのかもしれません。人魚族は高く売れると聞いた事があります」
「でも、傷一つ付けないように命令されてるみたいだけど……誰か別に黒幕がいるのか?」
「さあ、そこまでは分かりません。でも、これでまた過去に干渉してしまいましたね。困りましたね……」


ホネミンとしてはこれ以上の過去の干渉は避けたい所だが、攫われようとする人を見逃す事などできず、仕方ないので捕まえた男達は警備兵に突き出してミズネは安全な場所に避難させる事にした。


「とりあえずはミズネさんは酒場の方に任せましょう。他の男達は警備兵に突き出すしかないですね」
「それしかないか……ミズネさん、少し失礼します」
「んっ……」


レナは倒れているミズネの身体に触れ、彼女を担いで運び出そうとした時、異様な殺気を感じ取った。まるで大型の獣と相対したような感覚に陥り、嫌な予感がしたレナは振り返ると、そこには花束を持ったギランの姿があった。




――ギランは花束を抱えた状態で街道に立ち尽くしており、彼の視線の先には倒れているミズネとそれに手を掛けようとするレナの姿があった。それを見ただけでギランは憤怒の表情を浮かべ、即座にレナは彼女から離れて慌てて声を掛けようとした。




「ちょ、ちょっと待ってください!!これは……」
「貴様ぁあああっ!!」
「レナさん!?危ない!!」


完全にミズネを襲おうとしたと誤解されたレナはギランに本気の殺意を抱かれ、ギランはレナの元へ向かう。背中に抱えていたデュランダルを引き抜き、容赦なくレナに目掛けて振り下ろされる。

迫りくるギランの迫力にレナは反射的に大剣を構え、正面からギランのデュランダルを受け止める。街中に金属音が鳴り響き、二人は鍔迫り合いの状態となって向かい合う。


「何だと!?」
「ぐぎぎっ……!?」
「ご、互角!?」


自分の攻撃を正面から受け止めたレナにギランは驚愕し、一方でそれを見ていたホネミンも驚きの声を上げる。レナはこれまでに数々の強敵と戦ってきたが、ギランの攻撃を受けた際に瞬時に理解した。


(この一撃……未来のゴウライさんにも劣らない!?)


かつてシズネはギランとゴウライは互角に戦い、毒さえ仕込まれなければ父が負けるはずがないと言っていた。その言葉に嘘偽りはなく、若かりし頃のギランはゴウライにも勝ると及ばぬ膂力を誇る剣士だった。一撃を受け止めただけでレナの両腕は震え、この時代においては最強の剣士と戦う羽目になる。
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