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蛇足編

壊れた指輪

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(流石に勘が鋭いな……ホネミンが付いて来てたら気付かれてたかもしれない)


ギランの勘の鋭さにレナは警戒しながらも尾行を続け、やがて彼はとある建物の前に立ち止まる。そこは酒場であり、まだ営業していない様子だったが彼は緊張した様子で扉の前に立つ。

何をしているのかとレナは不思議に思ったが、やがて扉の中から女性が現れた。その女性はシズネとよく似た風貌の人魚族であり、一目見ただけでレナは彼女の正体を察した。


「ギラン様……本当に来てくださったのですね」
「当たり前ではないか」


ギランの態度から相手の女性の正体はシズネの母親の「ミズネ」だと確信し、彼女は自分の元に訪れたギランに抱きつく。ギランも緊張した様子で彼女を抱きしめ、二人は人目もはばからずに抱きしめ合う。


「ギラン様のお気持ちは嬉しいです。しかし、やはり私のような異国の女が貴方様と結ばれるわけには……」
「何を言うか、貴女より愛する女性は私にはいない……貴女が望むのであればこの国を抜け出してもいい」
「それは駄目です、貴女はこの国の一番の希望……そんな貴女を私一人のために生きる事などあってはいけないのです」
「ミズネ殿……」


どうやらギランとミズネは両想いのようだがミズネの方はギランの立場を気にしており、素直に彼の好意を受け取れない様子だった。レナはミズネが酒場から出てきた事を思い出し、どうやら彼女はここで働いているらしい。

その後は二人は抱きしめ合っていたが、やがてミズネの方から離れる。彼女に対してギランは何度か話しかけるが、ミズネは首を振って涙を流す。


「どうか私の事は忘れてください」
「いいや、必ず貴女を妻として迎えます!!貴女以上に愛する人などいません!!」


ギランはミズネの両手を掴み、自分の気持ちが変わる事はないと伝えた。どんな事があろうとギランはミズネと結婚すると約束し、その場を去っていた。そんなギランにミズネは悲し気な表情を浮かべた――





――遂にミズネの居場所を特定したレナだったが、とてもではないが指輪を渡せる状況ではなかった。ミズネの居場所は分かったが指輪をどうやって返せばいいのか思いつかず、とりあえずは酒場の営業時間を訪れると客を装って酒場に入る事にした。


「ミズネちゃん、お酒を頼むよ!!」
「はい」
「こっちにもお願いするわ!!」
「分かりました、すぐにお持ちします」
「あの~注文したいんだけど……」
「すぐに行きます」


ミズネに大して客は次々と注文し、どうやら男性客からの人気が高いらしい。彼女がギランと恋仲である事は知らないのか、男性客の中にはミズネに大して口説こうとする者もいた。


「ミズネちゃん、俺と付き合ってくれよ~こう見えてもBランク冒険者なんだぜ?」
「申し訳ありません、私は好きな方がいるので……」
「いつもそういうけどさ、本当にそんなの居るの?ミズネちゃんぐらい可愛い女の子を放っておくような白状な男なんて忘れなよ」
「そ、そんな事はありません。あの御方は私の事を大切にしてくれます!!」
「うおっ……そ、そんなに怒らなくても」
「あ、ご、ごめんなさい……」


男性客の言葉にミズネは本気で怒った表情を浮かべ、彼女の態度を見ていたレナは本当にギランの事が好きなのだと知った。しかし、気になるのはミズネの名前が刻まれた指輪が本当に彼女の物なのかを尋ねる。


「……あの、すいません。彼女って指輪とかしてますか?」
「ん?なんだいお客さん、ミズネちゃん狙いか?」
「いえ、その……前に知り合いがここへ来た時に彼女が指輪を付けている姿を見たとか聞いたんですけど」


ミズネが他の客の対応をしている時にレナは店主に彼女が指輪を装着しているのかを尋ね、不審に思われないように知り合いが見たという少し苦しい言い訳をすると、店主は小声で答えてくれた。


「確かに少し前まで指輪をしていたね。だけど、この間に酔っ払い客に絡まれた時に彼女の指輪が壊れちゃってさ。だから今は知り合いの鍛冶師に直してもらっているのさ。でも、何故か送り返してこないんだよ。とっくに期日は過ぎているのに……」
「期日?」
「本当なら今日までに指輪を直して返してもらうはずだったのに全然来ないんだよ。まあ、冒険都市は遠いからね……手違いがあって配送が遅れているのかもしれないね」
「配送?それに冒険都市って……まさか、冒険都市の鍛冶師に指輪の修復を頼んだんですか?」
「そうだよ。あの都市には王都以上に腕のいい鍛冶師がいるからね」


店主の話を聞いてレナは確信を抱き、どうやらミズネの指輪は彼女本人の物で冒険都市の鍛冶師に修理を依頼していたらしい。しかし、指輪は冒険都市に運ばれる予定だったが、その前に移送の馬車が襲われた事で川に落ちてしまった。偶然にもそれをスライムが拾いあげ、そのスライムを釣ったレナが手に入れてしまったらしい。
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