不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
1,816 / 2,090
蛇足編

閑話 《囚われのキラウ》

しおりを挟む
「――忌々しい夢ね」


薄暗い部屋の中でキラウは目を覚まし、彼女は両手と両足に鎖で拘束された状態で横たわっていた。大罪人である彼女は現在はヨツバ王国に囚われており、恐らくは死ぬまでは解放される事はない。彼女の両目は失われ、もう二度と戻る事はない。

本来であるならばキラウは処刑されてもおかしくはないが、彼女の母親であるハヅキは数多くの功績を残しており、また現在のハヅキ家の当主であるマリアが彼女の処刑に反対した。どうしてマリアがキラウを庇ったのかと言うと、亡き母親がキラウが死ぬ事を望んでいないと思ったからである。

ヨツバ王国はキラウを一生地下牢の中に閉じ込める事を決め、現在の彼女は魔封じの効果を持つ鎖に拘束されて暗い地下の中で閉じ込められていた。だが、仮に明るい場所に閉じ込められたとしても今の彼女には関係ない。もう両目を失ったキラウは光を見る事はできない。


「あの時の子供、やはり似ている……」


昔の夢を見たキラウは自分をこんな状態にまで追い詰めたレナと、昔に自分と戦った少年が瓜二つである事を思い出す。今の今まで忘れていたのが不思議な程であり、彼女はため息を吐き出す。


(……いい加減にここも飽きてきたわね)


地下牢の中でキラウは退屈を感じ、そろそろこの場所から抜ける方法を考えた。魔封じの鎖で彼女は魔法は使えないが、鎖から抜け出す事ができればどうにでもなる。


「……まずは両目を何とかしないといけないわね」


魔眼を失ったキラウは自分の新しい両目の代わりを手に入れるつもりだった。彼女は普通の人間ではなく、誰かから目を奪ってそれを自分に嵌め込めば自分の物にできる。だから七魔将のメデューサの魔眼も手に入れる事ができた。


(満月が近い……外に出られれば後はどうにでもなる)


キラウは本格的に脱出への計画を考える中、地下牢に足音が鳴り響く。食事の時にしか兵士はこの場所にはやってこないため、鳴り響く足音にキラウは不思議に思う。


(誰かが近付いている?マリア?それとも……)


この場所に兵士以外に訪れる者はマリアぐらいしかおらず、定期的に彼女はキラウの様子を確認しに訪れる。マリアはキラウの事は嫌ってはいるが、母親のためにキラウの面倒を見ており、定期的に訪れて彼女が生きているのかを確かめていた。

マリアが訪れる時は常に誰かが傍にいるので複数の足音が聞こえるはずだが、今回は足音の数は一人だけだった。キラウは身体を起き上げると、誰が訪れたのかを尋ねた。


「誰かしら?私に何か用?」
「……貴女がキラウね」
「その声は……」


聞えてきた声にキラウは不思議に思い、地下牢に訪れたのはもう一人の妹のアイラだった。バルトロス王国で暮らす彼女がここに居る事にキラウは驚くが、アイラはキラウの姿を見て痛々しそうな表情を浮かべる。


「私の名前はアイラ……貴女の妹という事になるわね」
「アイラ……忌々しい名前ね」


アイラという名前にキラウは表情を歪ませ、その名前は彼女にとっては呪いに等しい。ハヅキ家では長女はアイラという名前を受け継ぐ事が決まっており、かつてはキラウもアイラという名前だった。


「どうして貴女がここへ来たのかしら?優秀な妹に連れて来てもらったのかしら?」
「その通りよ。マリアの転移魔法でここまで連れて来てもらったわ」
「そう、貴女の事はよく知っているわ。夫に見限られた哀れな女だとね」
「…………」


キラウはアイラの事は噂で知っており、彼女はレナを産んだがために国を追い出されてしまう。実際の所は深淵の森で彼女は隔離されていただけだが、事情を知らない人間からすればアイラは国から追放されたとしか思えない。しかし、だからこそキラウはアイラに対して同情していた。


「お互いに苦労するわね……追放される気持ちはよく分かるわ」
「……姉さん」
「私を姉と呼ぶのは止めなさい。もう私はハヅキ家のアイラじゃない……吸血鬼のキラウよ」


自分の事を姉として呼ぶアイラにキラウは否定し、もう彼女は自分を追い出したハヅキ家を家族とは認めない。いくら彼女の母親が自分を追い出した事に後悔していたとしても、彼女は母親の事を許すつもりはない。

しかし、お互いに国から追放された立場としてキラウはアイラに対してはマリア程の敵意を感じず、彼女が憎きレナの母親だとしても恨むつもりはない。レナに敗れたせいで自分がこんな目に遭いながらも、彼女は何処かレナの事を認めていた。


「……良い息子を持ったわね」
「えっ……」
「でも、優れた力を持つ者は必ず利用しようとする者も現れる……せいぜい気を付けなさい」
「……私が守ってみせるわ」


キラウの言葉を聞いてアイラはレナの事を守ると誓うが、そんな彼女にキラウは笑みを浮かべた――
しおりを挟む
感想 5,092

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。