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蛇足編

観光気分

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「もうすぐ森を抜けるけど、そのまま大迷宮に直行するの?」
「いいえ、その前に食料だけは調達しておきましょう。このまま冒険都市に行きましょう」
「え?大丈夫なのそれ?もしも俺達の縁がある人達と遭遇したらやばくない?」
「大丈夫ですよ。仮に知り合いと出会ったとしても相手は私達の事を知らないんですから。それに大迷宮へ向かうにしても準備が必要です。飲まず食わずで行くわけにはいきませんからね」
「確かに地味に遠いしな……」


ウルに乗ったとしても塔の大迷宮へ向かうまでにはかなりの時間を要するため、何処かで食料や水は調達しなければならない。人目を避けるために森の中で食料や水を調達するという方法もあるが、ホネミンは街へ向かう事を提案する。


「過去の世界に行けるなんて機会は滅多にありませんからね。この際に色々と見て回りたいんです」
「大丈夫かな……とんでもない事をしでかして未来に影響があったらやばいんじゃない?」
「それを言い出したらレナさんがアイラさん達を倒した時点で既に手遅れの可能性もありますし」
「怖い事を言うなよ……」
「もしも元の世界に戻れなかったら私達仲良く暮らしましょうね」
「プロポーズかっ」
「ぷるんっ(それはそれで楽しそう)」


ホネミンと雑談しながらもレナはウルに乗って深淵の森を抜け出そうとした時、不意に違和感を覚えた。森の中から気配があまり感じられず、元の世界と比べて魔物に襲われる事なく移動できていた。


「おかしいな、この森の魔物はしょっちゅう襲ってくるはずなのに出てこないや」
「ウルさんを怖がっているんじゃないですか?」
「いや、魔物の気配自体が少ない気がする」
「別に私達にとっては都合がいい事じゃないですか」
「……それもそうか」
「ウォンッ!!」


会話の際中にウルは森を抜け出し、遂に外の世界へ進出した。このまま冒険都市へ向かおうとした時、不意にレナはある事を思い出す。


「あ、駄目だ。このまま冒険都市へ向かっても入れないや」
「どうしてですか?ウルさんも一緒だからですか?」
「そうじゃなくて、俺達は金持ってないじゃん。いつも異空間に入れっぱなしだったから財布なんて持ち歩いてないし、金目になりそうな物も異空間に預けていたから売る事もできない……どうしよう」
「何だ、そんな事ですか」


説明を聞いたホネミンは懐から小袋を取り出し、中身を確認すると大量の金貨が入っていた。そんな物を何処で手に入れたのかとレナは驚くが、ホネミンは自慢げに応える。


「こう見えても私は結構なお金持ちなんですよ。これだけあれば十分でしょう?」
「おお、流石だな!!でも、そんなお金何処で……」
「リーリスさんに外に出る事を話したら制作してくれました」
「いや、偽金かい!!」
「まあ、細かい事はいいじゃないですか」


リーリスの研究所には金貨を製作する機械も存在するらしく、旅に出る前にホネミンは大量の金貨を製造して貰った事を話す。地球での偽金は犯罪ではあるが、この世界ではそのような法律はないため、仕方なく金貨を使う事にした(実際の所はレナも監獄都市で銀貨を別の通貨に偽造しているので強くは言い出せない)――





――冒険都市へ到着すると、レナはウルを外で待機させた。彼を連れて行くと警備兵に警戒されてしまうため、残念ながら連れて歩く事はできない。一人では可哀想なのでプルミンも一緒に置いていくと、レナとホネミンは冒険都市へ入る。


「へえ、あんまり今と雰囲気は変わりないね」
「そうですね。強いて言えば氷雨のギルドが存在しないので目立つ建物がないぐらいですね」


マリアが後の時代に作り出す冒険者ギルド「氷雨」が存在しないため、この世界では氷雨に関連する建物は存在しない。現実では世界で一番優秀な冒険者を抱えている冒険者ギルドが存在するため、彼等との交流を計ろうとする商人は多い。そのために冒険都市に新しい商売を始める人間が増え、氷雨との交流の場を深めるために店を経営する人間も多い。

しかし、この時代では氷雨が存在しないために氷雨と交流のあった店は殆ど存在せず、前にレナが色々と世話になったドルトン商会は存在したが、今ほどの規模ではなかった。歴史ある商会だとは聞いていたが、氷雨と関わる前はそれほど大きな商会ではなかったのかもしれない。


「こうしてみると本当に昔の世界へ来たんだな……」
「レナさんの住んでいる屋敷もありませんから寂しいでしょう」
「そうだね。あ、でもウルと一緒に暮らしていた元々の家はあった」


レナは冒険都市に訪れたばかりの頃、ウルと共に暮らしていた建物を発見した。この時代にはどうやらまだ人が住んでいるらしく、建物も汚れてはいなかった。


(何だか変な気分だな、自分の家に他人が住んでるなんて……いや、今は俺の家じゃないけど)


昔暮らしていた建物に別の人間が住んでいる事にレナは違和感を感じるが、今は感傷に浸っている暇はないので食料の調達を優先する。
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