上 下
1,564 / 2,083
真・最終章 七魔将編

うちの子を返せ!!

しおりを挟む
――川を氾濫させ、そのどさくさに紛れてコトミンを誘拐したバクは配下のイカとタコの魚人と共に水中を移動していた。コトミンはタコ型の魚人に捕まり、彼女は口元を塞がれる。


「んん~……!!」
「あいたぁっ!?こら、噛みつくな!!」
「馬鹿、手荒な真似は止せ!!怪我をしたらどうする!?」
「そうだ、もしもそいつを傷つけたら魚人王様が何と言われるか……」


タコ足に噛みつくコトミンにタコ型の魚人は怒鳴りつけるが、他の魚人が即座に注意する。彼等がコトミンを誘拐したのは彼女が「人魚姫」だからであり、何としても魚人王の元に連れ帰らなければならなかった。

魚人王の目的は海を支配し、そのためには人魚族の力が必要不可欠だった。特にだけは何としても手に入れなければならず、バクは宝玉の力を利用して連れ帰る。


「バク様、宝玉はどうですか?」
「……流石に力を使いすぎた。もうこれでは使い道にならん」


バクは自分が手にしていた宝玉に視線を向けると、完全に色を失っていた。宝玉はただの水晶玉と化してしまい、彼は口の中に放り込む。この宝玉は海底王国に封じられた古の兵器であり、これを使えば魔法が扱えない魚人族でも水の精霊魔法を扱う事ができる。



――この宝玉の正体はを封じ込めた特別な魔水晶であり、これを利用すれば精霊魔法が扱えない者でも精霊魔法を扱える。しかも相手が精霊魔法の使い手だとしても宝玉を持つ人間にしか精霊は従わず、コトミン程の精霊魔法の使い手でも宝玉を扱う人間には抵抗は出来ない。




但し、宝玉の力は無制限に引き出せるわけではなく、封じ込めた水の精霊の力を使い切れば宝玉は力を失う。魔石が魔力を使いすぎれば効果を発揮できなくなるのと原理は同じのため、宝玉も精霊の力を使い切れば効果を失ってしまう。

この宝玉を作り出したのは人魚族であり、かつて人魚族は勇者と呼ばれる存在と協力するためにこの宝玉を作り出した。しかし、この宝玉を悪用されて海底王国が滅んだという伝承も存在し、途轍もなく恐ろしい兵器でもある。

そんな兵器をバクが持ち歩く事が許されたのは彼が魚人王の右腕だからだった。魚人王は彼に信頼を置いており、将来的には海底王国を復活させた際はバクは大将軍の地位に就く約束をしていた。しかし、海底王国を築くためにはまずは海を支配する必要があるため、そのためには人魚姫の力が必要だった。


「大人しくしてください、人魚姫……我々に従うならば手荒な真似はしません」
「むぐぐっ……」
「あいたたたっ!?か、噛みつくな!!」
「だから止めろ!!」


コトミンはバクの言葉を無視してタコ足に噛みつき、今にも引きちぎらない勢いだった。そんな彼女にタコ型の魚人は怒ろうとしたが、不意に後方から何かが近付いてくる気配を感じ取る。


「バク様、後ろから何かが接近していますが……」
「何だと?」
「まさか、奴等では……」
「馬鹿な……人間如きが我々に追いつけるはずがない」


現在のバクたちは草原に流れる川を移動しており、このまま海まで逃げるつもりだった。だが、後方から音が聞こえてきたので不思議そうに振り返ると、そこには予想外の光景が映し出される。


「待てこらぁああああっ!!」
「シャアアアッ!!」
「「「な、なにぃいいいっ!?」」」


バク達の後方から接近してきた物体の正体はシークに乗り込んだレナであり、彼は半裸の状態でシークにしがみついていた。シークは凄まじい勢いでバク達に追いつき、それを見たバク達は慌てふためく。


「な、何故奴が!?」
「くそ、あのガキめ!!我々を裏切ったか!!」
「ちいっ、裏切り者が!!」
「んんっ……!!」


シークがレナを乗せて追いかけてきた事にバクは舌打ちし、彼は元々はバク達に従っていた。シークはレナ達と別れた後にバク達に見つかり、そのまま半ば強制的に彼に連れまわされていた。

同じ魚人族という事でバクはシークを連れ出し、自分の配下に加えようとしていた。同じ鮫型の魚人という事もあって一人ぼっちの彼に同情心を抱いたが、よりにもよって人間に従う彼を見て怒りを抱く。


「お前達は人魚姫を連れていけ!!ここは俺が食い止める!!」
「バク様!?」
「しかし……」
「案ずるな、陸上ならばともかく、水中ならば我々に敵う奴はいない!!」


先ほどの戦闘ではバクは一方的にレナ達に圧倒されたが、水中戦ならば魚人族の自分が負けるはずがないと思い込み、配下にコトミンを連れて逃げるように促す。バクの言葉に従って魚人達は先を急ぐ。

シークに乗り込んで現れたレナに対してバクは身構えると、鋭い牙を剥き出しにする。そして凄まじい速度で水中を移動して二人の元へ向かう。この時にシークも正面から突っ込み、2体の鮫型の魚人同士が衝突する。


「シャウッ!!」
「シャアアアッ!!」
「うわっ!?」


シークとバクが衝突した事で背中に乗っていたレナは危うく放り出される所だったが、どうにかしがみついて耐え凌ぐ。
しおりを挟む
感想 5,087

あなたにおすすめの小説

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

“金しか生めない”錬金術師は果たして凄いのだろうか

まにぃ
ファンタジー
錬金術師の名家の生まれにして、最も成功したであろう人。 しかし、彼は”金以外は生み出せない”と言う特異性を持っていた。 〔成功者〕なのか、〔失敗者〕なのか。 その周りで起こる出来事が、彼を変えて行く。

魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです 魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。 「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」 「ええっ!?」 いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。 「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」 攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。