上 下
1,514 / 2,083
真・最終章 七魔将編

勝負を汚すな

しおりを挟む
「…………」
「なっ!?ま、まだ立てるのか!?」
「何!?」


立ち上がったオウガに気付いたミレトはロンギヌスを構え、ゴウライはゴンゾウを担いだ状態で振り返る。完全に気絶したと思われたオウガが立った事に二人は警戒するが、様子がおかしい事に気付く。

立ち上がったにも関わらずにオウガは瞼を閉じたまま動く様子がなく、その姿にミレトは無意識のまま立ち上がったのかと思った。しかし、次の瞬間にオウガの肉体に黒い紋様の様な物が浮き上がり、彼の胸元の部分に人の顔を想像させる影が出現した。


『くくくっ……まさかこの時代にこの男を追い詰める者が居たとはな』
「なっ、何だ……!?」
「貴様……オウガではないな!!」


オウガの身体に浮き上がった紋様の正体は「ブラクの影」であり、彼は事前にオウガの肉体に影の一部を纏わせていた。そしてオウガの意識が失われた瞬間、彼はオウガの肉体を乗っ取った。

オウガの全身に浮き上がった紋様はブラクの影であり、徐々にオウガの肉体は黒く染まっていく。その光景を見てゴウライは目つきを鋭くさせ、ミレトも禍々しい魔力を感じて表情を歪ませる。


「うっ……」
「下衆がっ……その男は最後まで立派に戦い抜いた!!どこの悪霊だか知らんが勝負を汚すな!!」
『ふん、勝負など関係ないわ。ようやく最強の肉体を手に入れた……この肉体ならば何者にも負ける事はない。貴様等も殺してやろう』


完全にオウガの肉体が影に覆い込まれると、それを見たミレトは咄嗟にロンギヌスを構える。ゴウライもゴンゾウを地面に横たわらせると、彼女はデュランダルを抜いて向き直った。


「こんな形で戦う事は不本意だが、悪霊に取り憑かれたまま操られるのは恥だろう……吾輩が楽にしてやる」
「待ってください!!ここは僕に戦わせてください!!」
『やかましい奴等だ。まあいい、二人まとめてかかって……ぐうっ!?』


ゴウライとミレトに襲い掛かろうとした瞬間、ブラクは突如として苦しむような声を上げる。ゴウライもミレトもまだ何も仕掛けておらず、ひとりでに苦しみ始めたブラクに戸惑う。


『ば、馬鹿な!?貴様、まだ意識が……止めろ、止めんかっ!?』
「何だ?何をしている?」
「まさか……」


ブラクはその場で倒れ込み、胸元をかきむしると、身体のあちこちから赤色の亀裂のような物が浮かんだ。その亀裂は徐々に全体に広がっていき、身体の表面を覆い込んでいた影を消し去る勢いで輝きは強くなる。

赤色の光を見た時にミレトは直感でオウガの意識が目覚めたと気付き、彼は内側から抗っているのだ。自分を取り込もうとするブラクを引き剥がそうと彼は魔鎧術を発動させ、闇の魔力を打ち払おうとしていた。しかし、ブラクは内側から抵抗するオウガに対して叫ぶ。


『邪魔をするな!!抵抗すればあの女がどうなるのか、分かっているのか!?』
「あの女?」
「何を言っているのか分かりませんけど……今が好機です!!」


オウガはどうやらブラクに完全には取り込まれておらず、内側から抗っていた。それならばミレトはロンギヌスに視線を向け、この魔槍でブラクを仕留めるために彼は動く。


「喰らえっ、ロンギヌス!!」
『グオオオオッ!?』
『ぬおっ!?』


ロンギヌスをミレトがオウガの胸元に向けて突き立てた瞬間、刃が黒く染まってオウガの肉体の表面に張り付いていた影を吸収し始める。ミレトのロンギヌスは魔力を喰らう能力を持ち、如何に意思を持っていようと魔力の塊でしかないブラクの影はロンギヌスに抗えずに吸収される。


『止めろ、ヤメロ、ヤめロぉオオオッ!?』
「はああああっ!!」


ミレトのロンギヌスを引き剥がそうとブラクはオウガの両腕を動かして槍を掴むが、その掴んだ箇所からも魔力を吸収される。やがてオウガの目元の部分が元に戻ると、瞼を開いてオウガは雄たけびを上げてブラクの影を振り払う。




――がぁああああああっ!!




獣を想像させる咆哮が街中に響き渡り、オウガの身体に取り着いていた影が完全に消え去った。この時にロンギヌスの刃から黒い煙のような物が舞い上がり、吸収した魔力をミレトは上空へ吐き出させる。


「やああっ!!」
『ウギャアアアアッ!?』
『ふんっ!!』


槍から解き放たれたブラクの影は太陽の光に晒されて身体が煙と化し、その光景を見たゴウライはデュランダルを振りかざす。デュランダルが斬りつけた瞬間、ブラクの影は完全に消滅した。デュランダルは聖剣であるため、悪霊などの存在を断ち切る力を持つ。

ブラクの影が完全に消滅すると、オウガは立ち尽くしたまま動かず、そんな彼を見てミレトは背筋が震えた。まだ戦うつもりなのかと思ったが、オウガはゆっくりと口を開くとミレトに告げた。


「たいした……小僧だ……」
「えっ……」


誉め言葉とも受け取れる一言を残してオウガは前のめりに倒れ込み、それを見たミレトは唖然とした――
しおりを挟む
感想 5,087

あなたにおすすめの小説

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

“金しか生めない”錬金術師は果たして凄いのだろうか

まにぃ
ファンタジー
錬金術師の名家の生まれにして、最も成功したであろう人。 しかし、彼は”金以外は生み出せない”と言う特異性を持っていた。 〔成功者〕なのか、〔失敗者〕なのか。 その周りで起こる出来事が、彼を変えて行く。

魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです 魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。 「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」 「ええっ!?」 いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。 「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」 攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。