不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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弱肉強食の島編

次代の長

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「レナよ、お主がその気ならば……儂の代わりに長を引き継いでくれぬか?」
「えっ!?」
「勿論、お主が大陸から訪れた人間である事は知っている。しかし、いずれ儂では牛人族を収める事が出来ない時が訪れる。それならばいっその事、お主に牛人族の未来を託したい」
「そんな事を言われても……だいたい俺は大陸に戻るんですよ」


思いもよらぬ長の提案にレナは断ろうとしたが、長もふざけて言っているわけではなく、牛人族の未来のためには自分よりも力を持つ人物が相応しいと考えた上でレナに頼み込む。


「無茶を言っている事は分かっておる。しかし、このままではいずれ牛人族は滅びの道を辿る……今回の一件でよく分かった、力だけでは部族を守り切る事は出来ぬ。力だけではなく、豊富な知識と優れた知恵を持つ者が長にならなければ牛人族は近い将来に滅びてしまう」
「そ、そんな事を言われても……」
「お主は人間だが、ミノタウロスよりも非力な身でありながら儂等を圧倒する武力を持っておる。それにまるで未来を見透かしているように面識もない白牛将の考えを読み取り、奴を出し抜いた。そして何よりもあの狂暴なダークエルフ達を従えた……お主ならば牛人族だけではなく、ダークエルフも上手く纏められるだろう」
「いや、それは俺だけの力じゃないというか……」


出会ってもいない白牛将に罠を仕掛ける事が出来たのはレナが事前にアイリスから情報を引き出し、彼女と相談した上で罠を仕掛けたからに過ぎない。定期的に白牛将の同行をアイリスを通じて把握していたからこそ今回の罠も上手く嵌める事が出来たに過ぎない。

しかし、牛人族の長からすればレナは人間でありながら白牛将を越える武力と知恵を誇り、何よりも狂暴で恐ろしいダークエルフ達を従え、あのハルナでさえもレナには頭が上がらない。これほどの力と頭脳に恵まれたレナならば牛人族の未来も託せると彼は本気で思う。


「頼む、レナよ……どうか我々を導いてくれ。どうしても大陸に戻るというのであれば我等も一緒に連れて行ってくれぬか?」
「そんな事を言われてもな……まあ、考えておきます」
「おお、本当か!?」
「でも、今は竜人族との交渉に集中させてください」


今にも土下座しそうな長を見て仕方なくレナは希望を与える言い方をするが、レナ本人はダークエルフも牛人族を収める立場になるつもりはなかった。しかし、大陸に戻るにしても彼等の協力は必要不可欠であり、それに黒龍も放置するわけにはいかない。


(とりあえず、島の外へ抜け出すには竜人族の力も必要だし……まずは黒龍の件も伝えないとな)


竜人族はまだ黒龍が復活した事を知らない可能性もあるため、まずは彼等に黒龍が目覚めた事を知らせた上で協力を申し込む。竜人族が力を合わせれば大陸の三部族が団結し、黒龍との戦闘に挑める。

レナとしては竜人族が所持している魔封じの腕輪を回収し、それで自分の腕輪を解除すれば本気で戦う事が出来る。魔法が使えるようになれば島からの脱出も出来るかもしれず、まずは竜人族との交渉を成功させなければならない。

しかし、どういう事かいくら待とうと竜人族が訪れる気配がなく、もうまもなく夜明けを迎えようとした。長はいつもならば夜が明ける前に竜人族の受取人が来るはずなのだが、一向に来る気配がない事に不思議に思う。


「おかしいのう、いつもならばもっと早くここへくるはずだが……」
「何かあったのかな……?」


レナはいつまでも竜人族が訪れない事に疑問を抱き、アイリスと交信して状況を把握しようとした時、ここでやっと上空から近付いてくる影を発見した。二人の視界に全体が灰色の鱗に覆われた小さな火竜のような竜種が数匹現れ、浜辺の方へと降りたつ。

小型の竜種の背中には以前にレナが闘技祭や王都の地下で見かけた「竜人将ガイア」なる存在と酷似した姿の生物が背中に乗っており、彼等は牛人族の長を目にした後、隣に立っているレナを見て警戒心を抱く。


「牛人族の長よ、遅れてすまなかったな……だが、その者は何者だ?見た所、牛人族には見えぬが、肌の色合いからダークエルフとも思えん」
「久しぶりだな……この者は島の外から訪れた人間じゃ。現在は牛人族の客人として迎え入れている」
「人間だと……」
「まさか、レミアと関係があるのか?」


長がレナの紹介を行うとここで「レミア」の名前が上がり、やはりアイリスの言う通りにレミアが彼等の元で世話になっている事を知ったレナはレミアの知り合いである事を告げる。


「俺はレミアの仲間です。いや、正確に言えば……上司かな?」
「じょうし?」


レミアは王国の臣下であり、王子であるレナからすれば彼女はある意味では部下みたいな存在に近い。しかし、竜人族には上司という言葉は上手く伝わらなかったらしく、とりあえずは彼女の仲間だとレナは伝えた。


「とにかく、レミアとは知り合いです。レミアは無事ですか?」
「レミアの事を知っているのか?」
「待て、同じ人間と言っても本当に仲間とは限らないぞ。人間だって島の外には大勢いると聞いている」


レナの言葉に竜人族達は納得しかけるが、ただ一人だけ疑り深い竜人族が存在した。彼は本当にレナがレミアと知り合いなのか確かめるため、質問を行う。
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