上 下
1,303 / 2,083
弱肉強食の島編

罠に嵌められたのは……

しおりを挟む
「あれ?兄貴、あいつら戻ってきましたよ」
「何だと?」


配下の言葉を聞いて白牛将は慌てて起き上がると、そこには確かに慌てた様子で戻ってくる男達の姿が存在した。戻ってきた彼等を見て白牛将は訝しみ、何事かを問い質す。


「おい、何で戻って来た!!奴等に追い返されたのか!?」
「はあっ、はあっ……ち、違います!!誰も、誰もいないんだ!!」
「何だと!?そんなわけがあるか!!」
「ほ、本当ですって!!確かに洞窟の奥には里がありましたけど、誰も見当たらないんだ!!」


男達の言葉を聞いて白牛将は訝しみ、彼等が嘘を吐いていたらすぐに臭いで気づくのだが、どういうわけなのか彼等からは嘘の臭いは感じない。だが、隠れ里の中にダークエルフがいないなど有り得ず、すぐに白牛将は確かめる事にした。


「中に入るぞ!!半分はここへ残れ、もしも逃げ出そうとする奴等がいたら捕まえろ!!」
『へいっ!!』


白牛将は半分の仲間を残して自ら滝の裏の洞窟に入り込み、その奥に存在する隠れ家へと向かう。この際に強制的にダークエルフの男達も連れ出し、一緒に隠れ里へ向かう。

周囲を岩壁に覆い込まれた隠れ里を確認した白牛将は驚き、先に入らせた男達の言う通りに中には誰もいなかった。だが、確かにここに他のダークエルフの住民がいた事は間違いなく、臭いは残っていた。


「おい、何処に隠れている!!逃げても無駄だぞ、大人しく出てくれば命だけは助けてやる!!」


白牛将は怒鳴り散らすが、隠れていると思われるダークエルフたちが現れる様子はない。ここで待ち伏せして中に入り込んできた自分達を襲うつもりかと思ったが、どうにも様子がおかしい。


「アンジュ、サーシャ!!聞こえるか、この臆病者共!!白牛将である俺が来てやったぞ!!恐れずに出て来い、この腰抜けめ!!」
「……出て来やせんね」
「本当に隠れているのか……?」


ダークエルフの戦士長達が短気なのは白牛将も良く知っており、もしもこの場にアンジュが隠れていたら挑発に我慢できずに襲い掛かって来ただろう。しかし、いくら怒鳴り散らしてもダークエルフ達が現れる様子がない。


「くそ、どうなっている……おい、お前等!!隈なく探し出せ、もしもダークエルフを見つけたらすぐに俺に知らせろ!!」
「へいっ!!」
「それと洞窟もしっかりと見張っておけ!!もしも誰か逃げ出そうとしたり、出入口を塞ごうとしたらすぐに俺を呼べ!!」


万が一にも洞窟を塞がれると隠れ里に閉じ込められてしまい、逃げ場を失う。そうならないために白牛将は洞窟を見張らせ、里の中を隈なく捜査した。敵が潜伏している事を想定し、慎重に行動を心掛ける。

だが、牛人族の心配とは裏腹に本当に里の中には誰も存在せず、確かにここにダークエルフが存在した証拠は残っているが、肝心のダークエルフの姿が見えない。しかも罠を張っている様子もなく、白牛将の元に牛人族は集まって報告を行う。


「北側、調べつくしましたが見当たりませんでした!!」
「西側も同じです!!」
「東側もいませんでした!!」
「そんな馬鹿な……なら、奴等は何処に消えた!?他に隠れ家あるのか!?」


白牛将は部下からの報告を聞いて苛立ちを隠しきれずに近くの建物に拳を叩きつけ、その衝撃だけで壁に罅が入り、その様子を見ていた他の牛人族は恐れを抱く。白牛将は連れてきたダークエルフの男達に視線を向け、首根っこを掴んで問い質す。


「おい!!本当にこの場所の事は知らないのか!?何処かに隠れられる場所があるんじゃないのか!?」
「ぐええっ……!?」
「や、止めろ!!離せよ、死んじまう!!」
「俺達は本当に何も知らないんだよ!!こんな場所があるなんて聞いてない!!嘘じゃない、信じてくれよ!!」


ダークエルフ達を痛めつけて問い質しても彼等は何も知らないと言い張り、しかも自分の鋭い嗅覚が彼等が嘘を吐いていない事を知らせる。それだけに白牛将は混乱し、どうして隠れ里に誰もいないのかと考える。


(くそっ、隠れ里は本当にあったのに何故奴等はいない!?俺達を呼び寄せて罠に嵌めようとしていたんじゃないのか……まさか、外に隠れていたのか!?)


ここで白牛将は洞窟の外に待機させている他の仲間の事を思い出し、もしや最初からダークエルフ達は隠れ里の外で待ち伏せし、まんまと隠れ里に入り込んだ自分達を襲うつもりではなかったのかと考える。

洞窟の見張りのために白牛将は半数の仲間を外に待機させたが、自分達が里に入っている間に外に待機させた仲間の身を案じた彼は洞窟を駆け抜け、外へ飛び出す。すると、そこには異様な光景が広がっていた。


「お前等、無事か……!?」
「あれ?兄貴、どうかしたんですか?」
「何か忘れものですか?」


そこには洞窟の外で見張りを行いながら座り込むミノタウロス達の姿を確認し、白牛将は唖然とした。外に待機させていた仲間も無事である事から彼は本当にダークエルフ達が隠れ里を放棄して逃げ出したと知る。
しおりを挟む
感想 5,087

あなたにおすすめの小説

“金しか生めない”錬金術師は果たして凄いのだろうか

まにぃ
ファンタジー
錬金術師の名家の生まれにして、最も成功したであろう人。 しかし、彼は”金以外は生み出せない”と言う特異性を持っていた。 〔成功者〕なのか、〔失敗者〕なのか。 その周りで起こる出来事が、彼を変えて行く。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。