不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません？

弱肉強食の島編

嫉妬

「アンジュ、サーシャ！！どうしてそんな男にくっ付いている！！」
「バルカン……お前には関係ない」
「関係ある！！俺はお前達の婿になる男だぞ！！」
「まだそんな事を……」


バルカンと呼ばれた男性はダークエルフの中でも体格が小さく、身長の方もレナよりも少し小さい。それでも彼が現れると他の男性衆は黙り込み、アンジュとサーシャはため息を吐き出す。

二人の婿になる事を告げるバルカンに対してレナはどういう関係なのか気になったが、ここでアンジュが前に出ると彼の前で腕を組む。その態度にバルカンは圧倒されるが、どうにか踏み止まる。


「バルカン、お前は確かに里の男共の中では一番に強い。だけど、前にも言ったはずだ。私とサーシャに勝てなければお前の夫にはならない。何時、何処で私達は負けた？」
「ぐうっ……けど、その島の外から来た男が俺よりも強いとは思えない！！その男と戦わせろ！！」
「いいだろう、レナに勝てたら私達はお前の妻になってもいいぞ。そこにいるハルナという女もな」
「はっ！？」
「おい、何を勝手な事を言ってんだ！？」


アンジュの言葉にレナもハルナも驚愕し、その一方でバルカンはハルナの言葉に驚くが、すぐにハルナの方に視線を向け、アンジュと同等かそれを上回る大きさの胸を見て喉を鳴らす。


「……本当だろうな？その男に勝てたらお前達は俺の嫁になるのか？」
「嘘は言わない」
「約束してやる……お前如きに負けるような男なら私達の見込み違い」
「勝手に決めるな！！」
「そうだそうだ！！ていうか、なんであたしまで巻き込まれてんだ！？」
「決闘だ！！決闘が始まるぞ、バルカンとあの島の外から来た男が戦う！！」


勝手に話を進めるアンジュ達にレナは抗議するが、それに対して他の者達は騒ぎ出す。様子を伺っていた族長も止める様な真似はせず、配下に命じた。


「良かろう、ならばお主等の決闘を認めよう。バルカンが勝てばアンジュとサーシャはお主の物じゃ、但し負けた場合は対価として何を支払う？」
「それは……負けたら俺は部族から追放しろ！！こんな男に負けるようならここにいる価値はない！！」
「だから、勝手に決めるな！！」


威圧の技能を発動させてレナは怒鳴りつけようかと考えたが、既にバルカンは戦闘準備を整え、彼は握りしめていた槍を振り回す。この時にレナは気づいたのは彼の装備している槍が赤色の金属の刃で構成されている事に気付く。

赤色の金属など滅多に見ないため、疑問を抱いたレナは鑑定眼を発動させて調べる。鑑定眼は他の人間のステータスを見抜くだけではなく、物体も調べる事が出来た。そして彼が所持する槍の正体が「ヒヒイロカネ」と呼ばれる魔法金属で構成された槍だと知る。


(ヒヒイロカネ？確か、前に聞いた事があるような……思い出した、オリハルコンと同じく希少価値が高い魔法金属か)


ヒヒイロカネはオリハルコンと同等の魔法耐性を誇り、大陸の方ではもう殆ど手に入らない代物である。聖剣レーヴァティンを作成する際に利用された素材でもあり、そんな伝説の聖剣にも利用されるヒヒイロカネで構成された槍を持つバルカンに驚く。


「……ちょっといい？その槍、どうやって手に入れた？」
「槍？この槍が気になるのか？これは我々の部族に伝わる槍だ！！この村で最も強い男が所持する事を許される！！」
「最も強い男ね……」
「誰か、この者に武器を渡してやれ。決闘ならばお互いに正々堂々と戦うべきだ」


バルカンにレナが質問している間に族長は指示を出すと、すぐにダークエルフ達は駆け出し、そしてレナが捕まる際に回収されていた装備を用意した。レナの元に「退魔のローブ」「退魔号」が返却され、これで万全な状態で戦える事が出来た。


「どうぞ、お使いください」
「あ、俺の装備……良かった、全部ここにあったのか」
「ふん、そんなでかい大剣をお前みたいに痩せ細った男に使えるのか？」
「馬鹿にするな、レナは私と同じぐらい力があるんだぞ」
「後悔するのはそっちの方、降参するなら今の内」
「レナ、本当にやるのか？正直、こいつら全然人の話を聞かないから全員ぶっ飛ばしたいくらいだけど……」
「我慢しろ……すぐに終わらせやる」


いい加減に我慢の限界を迎えそうなハルナを抑えてレナは装備を整えると、ここで腕輪の存在に気付く。この腕輪がある限りはレナは魔法も魔法剣の類も使えず、族長に尋ねる。


「この腕輪は外してくれないの？」
「駄目じゃ、その腕輪はお主が逃げ出さない様にあくまでも付けてもらう。儂等の部族に仲間入りすれば外してやっても構わんが……」
「おい、早く勝負しろ！！怖気づいたか！！」


族長はレナの腕輪を外す気はないらしく、彼が正式に自分達の仲間にでもならない限りは取り外すつもりはないらしい。その間にもバルカンの方は槍を振り回し、レナを挑発する。補助魔法も初級魔法も使えない状態でレナは戦いを強いられる事になるが、彼にはまだ「技能」という心強い味方がいた。