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弱肉強食の島編

アンジュとサーシャ

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「おい、なんだよあいつら……エロイ格好してるな」
「それ、ハルナも人の事言えないから」
「あ、本当だ」


レナの冷静な突っ込みにハルナは自分の格好に視線を向け、言われてみればアンジュとサーシャにも負けず劣らずの露出度の高い恰好をしている事に気付く。しかし、この時の二人の話し声が聞こえたのか、アンジュとサーシャは驚いた様に振り返る。


「姉者、何か聞こえたぞ」
「……目が覚めたのか」


サーシャは驚愕の表情を浮かべ、一方でアンジュの方は興味深そうな表情を浮かべて振り返る。この時に彼女達は背負っていた武器を手にした。アンジュはレナの退魔刀のような大剣を背負い、一方でサーシャの方は双剣を背負っていた。

武器を手にしているアンジュとサーシャに対して現在のレナとハルナは何も武器や防具は持ち合わせていない。強いて言えば脱出の際に利用した牙はあるが、こんな物では対抗するのは難しい。それにまずは相手の正体を確かめるため、レナは両手を上げて話しかける。


「ちょっと待って、争うつもりは……」
「うるさい、男の癖に馴れ馴れしく話しかけるな」
「うわっ!?」
「危なっ!?」


階段に降りてきたサーシャは双剣を振りかざし、狭い通路内にも関わらずに剣を振り抜く。この時に彼女は身体を回転させながら切り付け、激しく動いているにも関わらずに刃が壁に当てる事もなく、レナ達へと切りかかった。

無駄な動きがないからこそ双剣を壁や天井や床に当てる事もなく、サーシャは舞うように切り付ける。その姿を見たレナは直感で彼女が扱っているのは「剣舞」という戦技だと知る。


(母上が得意とする戦技か!!)


剣舞はレナの母親であり、剣姫の異名を持つアイラの得意技である。レナも使える戦技だが、彼女のように流麗な動作で扱う事は出来ない。剛剣を得意とするレナでは到底真似できない華麗な動きでサーシャは切り付けてきた。


「どうした?その程度か!!」
「うわっ!?ちょ、あいたぁっ!?角に切り付けるなよ!!」
「大丈夫かハルナ!?」
「はははっ!!悪いな、妹は私と同じで大の男嫌いなんでね!!」


階段の上の方から姉のアンジュが笑い声をあげ、サーシャは双剣を振り回しながらレナとハルナを追い詰める。しかし、いくら魔法を封じられていようと数多の技能を持つレナならば彼女の動作を見極める事は難しくはない。


(初心を思い出せ!!)


まだ碌に魔法を扱えなかった頃、深淵の森で暮らしていた時に魔物を相手に戦い続けて技能を身に付けてきた事を思い出したレナは観察眼を発動させ、更に剣鬼の能力を発揮させる。剣鬼の能力を発動すればレナは一時的に相手の動作がスローモーションのように見える。

普段ならば無意識に地属性の魔力を纏い、肉体を加速させる事が出来るが、生憎と現在のレナは魔法を封じられている。しかし、剣鬼の力は健在であり、レナは双剣の動作を見切って彼女の両手首を抑えた。


「ここだ!!」
「なっ!?」
「おおっ、やるじゃん!!」
「……馬鹿なっ」


サーシャの双剣を見事にレナは止めると、ハルナが嬉しそうな声を上げ、一方でアンジュの方は妹を止めた事に信じられない表情を浮かべる。サーシャの方は咄嗟に引き剥がそうとしたが、レナは手を外さない。


「こ、この……離せ、男が私に触れるなっ」
「落ち着け、まずは話を……」
「妹から離れろっ!!」


捕まったサーシャを救うためにアンジュが動き出し、彼女は大剣を構えながら階段を降りていく。だが、そんな彼女の前にハルナが前に出ると彼女は両手でアンジュの大剣を受け止めた。


「このぉっ!!」
「なっ!?」
「馬鹿な、姉者の剣を止めるなんて……」
「流石はハルナ!!」


正面から振り下ろされた大剣をハルナは真剣白刃取りで受け止めると、渾身の力を込めて抑え込む。ミノタウロス族であるハルナは人間を超越する力を持ち、魔法の力がなくとも素の身体能力は高い。

アンジュは大剣の刃を抑えられ、逆に押し込まれる。彼女は眉をしかめ、レナの方もサーシャの手首を掴んだまま話をしようとしたが、ここでアンジュの目元が「紅色」へと変化を果たす。


「あああああっ!!」
「なっ……何だ、この力!?」
「姉者!?駄目だ、その力は……!!」
「この感じっ……まさか!?」


レナは背筋が凍り付き、嫌な感覚を抱く。それは前に覚えの有る感覚であり、和国に赴いた時に「剣鬼」の称号を持つ老人と出会った時と同じだった。信じられない事にアンジュは剣鬼の力を持っているらしく、彼女は瞳を紅色に変色させた瞬間にハルナは逆に押し込まれる。

大剣の刃を掴まれた状態でアンジュは力を込めると、その様子を見てレナは彼女が剣鬼が放つ最強の剣技「鬼刃」を繰り出そうとしているのではないかと考える。剣士が扱う戦技の中でも最強を誇る「一刀両断」に匹敵する剣鬼の技であり、このままではハルナが危ない。
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