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世界の異変編

聖痕と槍の継承

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――実年齢は6才程度の子供のミレトがどうやって生き延びてきたのか、それはカゲマルと別れた時まで遡る。カゲマルに誘拐された後、ミレトは城へ戻る事はなかった。その理由は彼が戻る前にミドルは討たれ、イレアビトは捕縛されていたからである。

城に戻ろうと思えばミレトも戻る事は出来た。しかし、母親が捕まって父親を失ったミレトは幼いながらに自分の変える場所は城ではない事を悟る。王国の反逆者である二人の子供である自分を受け入れてくれるはずがない、幼いながらにその考えに達したミレトは一人で生きていく事を決意した。

普通に考えれば5才程度の子供が一人で生き抜いていくなど不可能に等しい。しかし、イレアビトの死後に彼はある能力に芽生えた。それは彼の右腕に時計を想像させる紋様が誕生し、この力のお陰でミレトは今日まで生き延びる事が出来たと言っても過言ではない。



この不思議な能力に関してはミレト自身もどうして目覚めたのかは分からず、何故かこの力を発揮させる度に母親が傍にいる様に感じた。だが、母親のイレアビトは自分に対して一片の愛情も抱いていなかった事はミレトも知っていた。それでもミレトは母親に愛されたいという気持ちはあった。

彼はこの力を利用して生き延び、そしてある時に彼の前にロンギヌスが現れた。この現れたというのは本当に唐突に目の前に出現し、彼を守るようにどんな場所へ行っても何処に捨てていこうとミレトの元に戻って来た。この得体のしれない槍にミレトは最初は不気味に思ったが、槍に関しては実はミドルから指導を受けた事がある。


『王子様、よく見てください。槍は剣よりも長く、戦場においては最も利用される武器の一つです』


まだ5才だったとはいえ、ミドルはミレトの元に度々と訪れては彼に自分の稽古を見せてくれた。実際に武器に触れさせる事はなかったが、ミドルは自分の極めた槍の武技を見せてくれた。

イレアビトと違ってミドルは自分の息子であるミレトに本当に愛情を抱いており、関係を明かす事は出来ないが彼の事を非常に可愛がっていた。ミレトが風邪をひいた時は任務を途中で切り上げて戻ってくるほどであり、それが問題になった事もある。


『ねえねえ、父上はどうしてここへ来ないの?』
『それは……国王様はご多忙なのです』


最初の頃は誰よりもミレトの事を可愛がっていたバルトロス13世だったが、彼はミレトが攫われる1年ほど前から彼の前に現れる事はなくなった。理由を聞いても誰もが忙しいからと答えるが、子供のミレトも自分が避けられていると分かっていた。

国王がミレトの前に現れなくなったのは彼も薄々とイレアビトの本性に気付き、そしてミレトが自分の子供ではない事に気付いていた。精神的にも肉体的にも追い詰められていた国王は実の息子のレナに看取られて死亡した。国王が死んだと聞いた時、ミレトは悲しくは思ったがミドルが死んだと聞いた時の方が寂しかった。


『……これからどうすればいいのかな』


イレアビトの能力とミドルの槍を継承したミレトは一人で生きていくには十分すぎる程の力を手に入れた。しかし、彼はこれから自分が何をしてどう生きていけばいいのか分からなかった。最初は自分をこんな目に追い詰めたレナ達を恨みもしたが、その恨みも徐々に薄れていく。

話に聞くところによるとレナは自分が生まれたせいで赤ん坊の頃に追い出され、しかも10才の頃に暗殺者が送り込まれて殺されそうになったという。そんな話を聞かされてはレナが暗殺を指示した母親を殺そうとして文句は言えず、母親を守ろうとしたミドルを討つのも当然の事である。

それでもミレトからすればレナとその仲間達は実の両親の命を奪った相手である。ならば自分が仇を討つべきかと思ったが、闘技祭でレナの戦いぶりを見せられたミレトは到底敵わない相手だと思った。


『あの人……不遇職じゃなかったの?』


不遇職として生まれたはずのレナが数多の強敵を打ち倒し、遂には闘技祭の優勝を果たした姿を見てミレトは信じられない想いを抱く。彼に対する復讐心は消え去り、その代わりに憧れさえも抱いてしまう。自分もあんなふうになりたい、そう思ったミレトは彼と同じように冒険者を志す。

レナがミドルを討ち、結果的にはイレアビトを死に追い込んだ存在である事は間違いない。しかし、ミドルとレナの間に何が起きたのかは知らないが、ミドルはこう言っていた。武人であるならば戦場で死ぬ覚悟を抱いて生きろと、そしてミドルは正々堂々と戦い、彼に倒されたのならば恨む筋はない。

ミレトは冒険者になってからは依頼をこなし、彼の様に強くなるためにとにかく失敗を恐れずに仕事を受けてきた。何の目的もなく生きる事よりも、目標が出来た事でミレトは嬉しく思い、いつの日かレナやミドルに並ぶような存在になるために頑張る。




※闇落ちも考えましたが、やはり境遇を考えるとミレトはどうしても敵として描きたくはありませんでした。
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