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真・闘技祭 本選編

執念の一撃

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「何故、そこまで……」
「……私は、負けるわけにいかないんです」


旋斧を構えたジャンヌは顔色が青く、他人から見てもこれ以上に彼女が魔力を消耗すれば危険な状態だと分かった。それでもカンエンはそんな彼女を見て、このまま何もせずとも時間を稼ぐだけで自分が勝利できると確信した。

しかし、武人としてジャンヌの覚悟を踏みにじるような真似など出来ず、カンエンは覚悟を決めた様に青龍刀を構える。その構えを見た特等席のヨクヒはカンエンが本気を出そうとしている事に気付く。


「姉者、まさか……あの技を!?」
「ほう……そこまでの相手と認めたのですか」


カンエンの構えを見てヨシテルも興味を抱き、自分の右腕として仕えさせているカンエンが奥の手を出す相手かとジャンヌに興味を抱く。一方でジャンヌの方もカンエンの気迫を感じ取り、次の攻撃で決めるつもりだと知る。


「貴女が負けられない理由があるのならば……私も負けられぬ理由があります。この一太刀で終わらせましょう」
「望む、所です」


青龍刀を横に構えたカンエンに対してジャンヌは紅斧を上段に構えると、互いに次の一撃で確実に仕留める準備を整える。しばらくの間は誰一人として言葉を口にする事も出来ず、試合場に静寂に包まれた。


「――兜砕き!!」
「――飛燕一閃!!!!」


ジャンヌが旋斧を振り下した瞬間、カンエンも同時に横薙ぎに青龍刀を振り払う。その結果、ジャンヌが振り下すよりも早くに青龍刀の刃がジャンヌの腹部へと迫り、その光景を目にしたカンエンは勝利を確信した。だが、ジャンヌは迫りくる刃に対して彼女は紅斧の真の力を発揮させる。


「ああああっ!!」
「なっ……!?」


振り下ろされた旋斧の刃が途中で加速し、青龍刀へと叩き込まれる。最初からジャンヌの狙いはカンエンではなく、彼女の武器であった。攻撃の途中で異常な加速を見せた旋斧にカンエンは驚くが、彼女は大きな勘違いをしていた。

紅斧に青龍刀が弾かれた際、カンエンは紅斧の周囲に魔力を纏う事でジャンヌは刀身に「重力の結界」のような物を纏っていると彼女は考えていた。刀身に近付ければ外部に放たれる重力によって弾かれる、それがカンエンの考えであった。

しかし、ジャンヌの生み出した紅斧は本来は相手の攻撃を弾くために重力を纏うのではなく、刀身に押しかかる重力を強化させて攻撃の威力を強化させるために編み出した魔刀術である。即ち、上段から刃を振り下ろす際にジャンヌは刀身に加わる重力を増幅させ、一気に加速させる。


「やああっ!!」
「くぅっ!?」
『カンエン選手の青龍刀がっ……砕け散ったぁっ!!』


ジャンヌの渾身の一撃を受けた青龍刀は砕け散り、カンエンは武器を失う。彼女は呆然とした表情を浮かべ、一瞬だが隙を見せてしまう。その隙を逃さず、ジャンヌは最後の一撃を繰り出す。


「せいやぁっ!!」
「うあっ!?」


カンエンに向けてジャンヌは旋斧を振り抜くと、反射的にカンエンは攻撃を避けようと後ろに下がってしまう。しかし、二人が立っていたのは試合場の端であり、足場を踏み外したカンエンは場外へと落ちてしまう


「しまっ……うぷぅっ!?」
『カンエン選手、場外負けです!!この試合、勝者はジャンヌ選手です!!』
『うおおおおっ!!』


まさかの大番狂わせに観客席は盛り上がり、特等席のヨクヒは悔し気な表情を浮かべる一方、ヨシテルの方はジャンヌに視線を向け、彼女の思わぬ強さに興味心を抱く。一方で勝利を手にしたジャンヌは呆然とした表情を浮かべ、やがて膝を崩して試合場に垂れ込む。

試合場に倒れたジャンヌを見て慌てて試合場に兵士が駆けつけ、すぐに彼女は試合場から運び出される。最後の一撃で体力を使い果たしたらしく、闘技場内に存在する医療室へと彼女は運び込まれる――





――しばらく時間が経過すると、医療室のベッドの上にてジャンヌは目を覚まし、彼女は身体を起き上げる。そして自分がベッドに上に横たわっている事に気付き、戸惑う。


「こ、ここは……試合はどうなって……」
「落ち着きなさい、ここは医療室よ」
「えっ!?し、シズネ、さん?」


ジャンヌは自分の傍にシズネが座っている事に気付き、驚いた表情を浮かべる。一方でシズネはジャンヌが起きるまで傍にいたのか、目を覚ました彼女に声をかける。


「安心しなさい、試合は貴方の勝利よ」
「試合……そうか、勝ったんですね」
「実戦だったのならば気絶した時点で貴方の負けだったわ。運が良かったわね」
「うっ……」
「冗談よ、ほらこれを飲みなさい」


シズネの言葉にジャンヌは罰が悪い表情を浮かべるが、そんな彼女にシズネは水が入ったコップを渡すと、耳元に呟く。


「魔力が少ないのなら、それに見合った戦法を使いなさい」
「えっ……」
「あんな方法で戦い続ければ命を落とすわよ。ちゃんと頭を使いなさい」
「あ、あの……」
「これ以上は好敵手に助言はしないわ……お互いに試合に勝ち続ければいずれ戦い合う宿命、私と戦うのであれば無様な姿を見せないで欲しいわ」
「っ……!?」


好敵手という言葉にジャンヌはシズネが自分の事を対等な相手だと認めてくれた事に気づき、彼女は心の中で抱えていた不安がかき消される気分に陥る。一方でシズネの方はそれ以上に何も言わず、控室に引き返した――
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