不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません？

真・闘技祭編

監獄島の主

――闘技祭に備えて各地の武芸者が修行に励む中、大陸から離れた場所に存在する孤島でも異変が起きていた。この島は「監獄島」と呼ばれ、世界中の囚人が送り込まれる別名は「海獄島」と呼ばれる島だった。

この島には世界中の国々が飛行船などを利用し、死刑判決が下された囚人を送り込む。どうして海路ではなく、空路を利用して運び込むのかというと、島の周囲の海域には「海竜リバイアサン」と呼ばれる竜種が生息しているからである。

囚人たちが船を作り出して海にでも逃げ出そうとすれば海竜の逆鱗に触れ、船ごと海に沈められてしまう。海竜は全長が１００メートルを超える巨大なウミヘビのような生物であり、その強さは並の竜種の比ではない。恐らくは海に生息る魔獣の中でも頂点に位置する危険な生物だった。

海竜の存在によって監獄島は飛行船などの船の類でしか移動する事は出来ず、囚人たちも自力での脱走は不可能。そもそも大陸からも離れた場所に存在するため、奇跡的に海竜の目を逃れて船を出しても大陸に辿り着く保証などない。

そんな危険極まりない場所に存在する孤島に囚人達は送り込まれ、自給自足の生活を強要される。囚人たちは島で畑を耕し、漁を行い、時折飛行船を通じて運び込まれる補給物資だけを頼りに生活を送っている。


「ふうっ……よし、朝の作業はここまでだ！！全員、休憩を取れ！！」
「や、やっとか……」
「たくっ、疲れたぜ」
「あ～あ、農作業は楽じゃないぜ」


島に存在する農場には１００名を来れる囚人が存在し、彼等はこの島に送り込まれた死刑囚だった。彼等の殆どが島に送り込まれる前は凶悪犯罪に手を染め、死刑判決を下された者達ばかりだが、現在は互いに協力し合って生活を送っていた。

監獄島に送り込まれた囚人は助け合って生き延びるしか方法はなく、この島の囚人たちは全員合わせても２００名程度しか存在しない。昔と違い、現在ではこの監獄島に送り込まれる犯罪者の数も激減していた。囚人たちは自分達が生き残るために協力するしかない。


「結局、今月は誰も送り込まれなかったな」
「それだけ、世の中が平和という事だろうよ」
「でも、三か月か四か月ぐらい前は一気に入ってきただろ？ほら、バルトロス王国の連中がよ」
「ああ、そうだったな。なんでも王妃様の部下とか言っていたな、まあ、本当かあやしい所だがな」


囚人たちは休憩時間に入ると話し合い、意外な程に彼等は仲睦まじい様子だった。この島に送り込まれる前は凶悪犯罪を仕出かした者達ばかりだが、過酷な環境下を共に過ごす事で自然と仲は深まるらしい。

この監獄島では人間は貴重な労働力のため、無暗に争って殺し合うような真似はしない。この方針は数百年前から続いており、どんなに危険な人物であろうと力を合わせなければこの島で生き延びる事は出来ない。一応は囚人を監視する存在はいるが、基本的に他の監獄と違ってこの島の囚人たちは行動に制限は設けられていなかった。


「はあ、それにしても毎日毎日農作業だと飽き飽きしてくるぜ。あ～あ、いやになってくるぜ」
「笑わせるな、この状況がどれだけ恵まれてるのか分かってるのか？少し前まで、ここでは派閥争いが激しかったんだぞ」
「派閥争い？そんなのがあったのか爺さん？」
「そうか、お前はここへきてまだ半年だったな。なら知らないか……」


休憩時間中に年老いた囚人が若い囚人を相手にかつて監獄島がどれだけ無法地帯であったのかを語る。一時期、この監獄島では凶悪な人格の囚人たちが派閥を組み、暴力で支配しようとしていた時期があるという。


「１年ぐらい前の話になるが、その頃のこの島には今よりも人数が多かったし、それに大物が何人かいたんだ。お前も聞いた事があるだろう？２０年ぐらい前に活躍していた剣鬼アイラに手傷を負わせた野郎がいたんだよ」
「なっ！？アイラだと！？あの鬼剣士、いやビキニアーマーの鬼と言われた……！？」
「お、おう……良く知ってるな。その二つ名はよく分からんが……」


冒険者時代のアイラは有名人であり、しかもバルトロス王国の国王と結ばれたので有名人だった。そんなアイラに手傷を負わせたという囚人がいたという事に若手の囚人は驚く。


「名前はジンという奴なんだが、こいつのせいで本当に大変だったんだよ。俺はこの島に１０年は暮らしているが、このジンという男は俺よりも前にここにいたんだ」
「ど、どんな奴だったんだ？」
「とにかく、頭がおかしかったとしか言いようがないな。普段は大人しいんだが、一度切れる見境なく人を殺しまくる。そのせいで皆から恐れられていたんだが、１年と少し前に訪れた囚人が奴を利用してこの島を掌握しようとしたんだ」
「えっ！？でも、監視は何してたんだよ！？そんな事すれば奴等も黙ってないだろ？」
「無駄だ、監視といってもこの島の兵士は基本的には俺達に興味はないんだ。囚人同士が勝手に殺し合おうとあいつらにはどうでもいい話なんだよ。それに噂だと、兵士の奴等もその囚人の連中と繋がっていた噂もあった」


老人の囚人によるとジンが一部の囚人と手を組んだ事で監獄島の治安は崩壊し、囚人同士が争い合うようになったという。