上 下
975 / 2,083
真・闘技祭編

魔法を斬る

しおりを挟む
「あちっ……母上の魔刀術、まるで本物の炎みたいですね」
「ふふふ、その気になればもっと温度を上げる事は出来るけど……でも、私の魔刀術の本質は熱ではないわ」
「じゃあ、どんな能力があるんですか?」
「そうね、なら見せてあげるわ」


アイラは笑顔の表情から一変して真剣な顔つきになると、炎を想像させる魔力を宿した剣を構え、何もない空間へと切り裂く。その動作は明らかに現役を引退した剣士の物ではなく、剣を振り抜いただけで軽い衝撃波が発生した。

マリアが魔法の才能に恵まれた存在ならば、アイラは剣士としての才能に恵まれていた。この二人がヨツバ王国を離れなければ現在の六聖将の内の二人が入れ替わっていてもおかしくはない。アイラが結婚して剣士を辞めていなければ彼女は未だに現役の剣士として活躍していただろう。


「ふうっ……やっぱり、魔刀術は疲れるわね。でも、大分慣れてきたわ」
「あの、さっき言っていた魔法を斬るというのはどういう意味なんですか?」
「そうね、マリアがここにいれば協力して貰えるんだけど……あ、そうだわ。レナちゃんは攻撃魔法も使えたわね、お母さんに撃ってみてくれる?」
「ええっ!?」


とんでもない事を言い出したアイラにレナは戸惑い、確かに初級魔法を組み合わせた合成魔術ならばレナでも攻撃は行える。だが、母親に向けて魔法を撃つなど今まで考えた事もない。

しかし、アイラはやる気なのか彼女は久しぶりに剣を握れた事に興奮した様子で剣を構え、自分を信じろとばかりに剣を振り回す。その様子を見てレナは手加減を行えば大丈夫かと思い、とりあえずは軽く風属性の魔法を発動させる事にした。


「じゃ、じゃあ……本当に撃ちますよ?」
「ええ、本気で撃っても構わないわ!!」
「それは流石に……えっと、風刃!!」


威力を調整してレナは初級魔法と支援魔法を組み合わせて風属性の攻撃魔法を放つ。掌から三日月の形状をした風の刃が誕生し、剣を構えるアイラの元へ向かう。それを見たアイラは剣を冗談に構えると迫りくる風の刃を切り裂く。


「はああっ!!」
「うわっ!?」


アイラが風刃を切り裂いた瞬間、熱風が周囲へと広がり、彼女は言葉通りにレナの魔法を斬り裂いた。その光景を見てレナは驚き、仮に普通の剣士がマリアの真似をしたところで魔法を切り裂く事は出来ない。

仮にゴウライのように剛剣を極めた剣士ならばレナの風刃を斬り裂く事は出来るかもしれない。しかし、風の刃を切り裂いたところで魔法が消失するわけではなく、むしろ無理やりに打ち破ろうとすれば風刃は拡散して周囲に被害を及ぼす。

だが、アイラの場合は風の刃を斬り裂いた瞬間に熱風と共に魔法の力が消え去る。レナの所持する鏡刀や魔法耐性の高い武器ならば魔法を撃ち破る事は出来るが、生憎と彼女が使用した剣は兵士の訓練用の武器のため、魔法耐性どころか刃さえも鈍らであった。


「ふうっ……久しぶりね、この感覚」
「は、母上……大丈夫ですか?」
「ええ、平気よ。それよりも今の魔法、レナちゃんたら手加減したわね?もう、お母さんが心配だからって遠慮する必要ないのよ?」
「いや、遠慮って……」
「こう見えてもお母さん、マリアの上級魔法を斬った事もあるのよ?」
「嘘っ!?」


現役時代のアイラは当時から世界最強と呼ばれた魔術師のアイラの砲撃魔法も打ち破った事があり、彼女によると魔法を斬る技術を身に付けてからは魔術師との戦闘に置いてかなり役立ったという。


「魔術師との戦闘でこの魔刀術を使って魔法を斬り続けていたら、いつの間にか私は魔剣の剣聖と呼ばれていたの。でも、魔剣と言っても魔法拳を扱うわけじゃなく、魔法を斬り捨てる剣士だから魔剣士と呼ばれていた事もあったわね」
「魔剣士……母上が鎧化アムドしたらビキニアーマーになりそう」
「な、何の話かしら?」


魔刀術を維持するのはきついのか、アイラは用事を終えると剣に纏っていた魔力を消失させ、レナにも自分を真似して魔刀術を発動させるように促す。


「レナちゃんの魔刀術も見せて貰えるかしら?私も指導できるかもしれないわ」
「あ、はい……じゃあ、よろしくお願いします」


レナは訓練用の剣を構えると、魔刀術を発動させて「蒼炎」を生み出す。自分の魔刀術とは全く異なる色合いの炎を生み出した事にアイラは驚き、規模も密度もレナの方が上回っていた。

剣士であるアイラよりも魔術師として生まれたレナの方が魔力容量に関しては恵まれ、しかもレベルが上がったお陰で以前よりも魔力が増していた。今までと比べて剣に纏う蒼炎も荒々しく、迫力を増していた。


「凄い……これがレナちゃんの魔刀術なのね」
「はい、でも何故か青色の炎なんですよね。なんでも俺は火属性と水属性に適性があるらしいんですけど……」
「……あの人も水属性が得意だったわ」
「え?」


アイラはレナの言葉を聞いて亡き夫の事を思い出し、死んでしまったバルトロス13世も水属性の魔法の適性が高かったという。
しおりを挟む
感想 5,087

あなたにおすすめの小説

“金しか生めない”錬金術師は果たして凄いのだろうか

まにぃ
ファンタジー
錬金術師の名家の生まれにして、最も成功したであろう人。 しかし、彼は”金以外は生み出せない”と言う特異性を持っていた。 〔成功者〕なのか、〔失敗者〕なのか。 その周りで起こる出来事が、彼を変えて行く。

魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです 魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。 「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」 「ええっ!?」 いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。 「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」 攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。