上 下
819 / 2,083
外伝 ~ヨツバ王国編~

キラウの暴走、ダインの切り札

しおりを挟む
「喰らえっ!!」
『ガアアアッ!!』


赤獣の集団が天井を破壊して出現すると、ダインに目掛けて飛び降りてきた。しかし、その赤獣の群れに対してエリナとハンゾウが動き出し、ミノタウロスも斧を掲げて迎撃を行う。


「そうはさせないっすよ!!連射!!」
「ダイン殿の邪魔はさせないでござる!!辻斬りっ!!」
「ブモォオオッ!!」
『ギャインッ!?』


降りてきた赤獣の群れに対してエリナたちが攻撃を仕掛け、ダインを狙わせないように奮闘する。その様子を見て身体の限界を迎えようとしながらもダインは笑みを浮かべ、渾身の一撃を繰り出す。


「おらぁっ!!」
「ぐふぅっ!?な、何故だ……何故効かないっ!?」


腹部に強烈な一撃を受けたキラウは混乱の極みに居たり、石化の魔眼は先ほどから発動させてダインと視線を交わしているにも関わらず、効果を発揮する様子が一切ない。何が起きているのか理解できないキラウはダインの攻撃に反応が遅れ、徐々に追い詰められていく。

その様子を結界越しに見ていたカレハも戸惑いを隠せず、結界越しならばキラウが石化の魔眼を発動させても彼女は影響を受けない。しかし、他の人間はキラウの確実に何度か彼女の魔眼を目にしているにも関わらずに石化する様子がない。

先ほど、石化されそうになった時はアインがスラミンとヒトミンを利用して精霊薬を放出して石化を解除したのはキラウもカレハも見ていた。しかし、逆に言えば精霊薬さえ浴びせる暇がなければ敵は石化を防ぐ手段はないと考えていた。しかし、現実にダインや他の人間は石化する様子がない。


(いったい何故……まさか、身体に浴びた精霊薬が消えていないからか?それとも精霊薬を浴びた服のせいか?)


キラウに先ほど石化されそうになった人間はスラミンとヒトミンが放った精霊薬を浴びて身体が濡れており、その際に多量の精霊薬が身体や服に付着していた。それが原因で石化の魔眼の効果が発動しても瞬時に石化が解除されるのかとキラウは考えたが、それでも違和感はあった。

回復薬の類は外気に晒し続けると効果を失う特徴を持ち、水晶などの特別の容器に入れなければ長期保存は行えない。それは精霊薬も同じはずであり、いくら伝説の秘薬といっても回復薬と同じ弱点を持つ。なので精霊薬を事前に浴びていようとキラウの石化の魔眼を無効化し続けるなど考えにくい。


「うらぁっ!!」
「がはっ!?」


しかし、現実にキラウを殴りつけるダインは石化する様子も見せず、他の者達も確実に赤獣と視線を合わせているはずだが、石化する様子がない。キラウは何が起きているのか理解できず、どうして彼等が石化する事が出来ないのかと身体をふらつかせながらダインに視線を向けると、何故かダインの首筋から緑色の物体が出現する。


「ぷるんっ」
「……す、スライム?」
「へへ、バレたかっ……けど、これで終わりだっ!!」



――ダインは服の中に分裂したスラミンを隠しており、事前に精霊薬を飲み込ませた分身体のスラミンが定期的にダインに精霊薬浴びせる事で石化の魔眼の効果を妨げるだけではなく、シャドウ・コントロールの肉体の負荷を緩和していた。スライムの分裂能力と水分を吸収して保管する能力を生かした作戦であり、実は全員の服の中にスラミンとヒトミンの分身が隠れていた。



まさか最弱の魔物であるはずのスライムが自分の石化の魔眼を無効化していたという事実にキラウは呆気に取られ、その隙にダインは最後の力を振り絞り、バルに教わった戦技を繰り出す。


「撃、拳!!」
「あぐぅっ!?」
『き、キラウ!?』


全身の力を込めて繰り出されたダインの一撃がキラウの顔面を打ち抜くと、彼女は悲鳴をあげて倒れ込み、そして赤獣たちが力を失ったように床に倒れた。赤獣を支配していたキラウが強制的に意識を失った事で操られていた死霊人形も解放されたらしく、同時にダインも限界が訪れて倒れ込む。


「か、勝った……後は任せたぞ皆」
「駄目、もう少し頑張る」
「ぷるっしゃあああっ!!」
「ぶほぉっ!?」


そのまま疲れて気絶しようとしたダインに対してコトミンが近寄ると、ダインの身体に張り付いていたスライムの頭を小突いて体内の精霊薬を吐き出させる。精霊薬を浴びた事で肉体の負荷が完治したダインは慌てて起き上がると、頑張った自分にあまりの仕打ちをするコトミンに喰ってっ掛かる。


「ちょ、何するんだよコトミン!?今のは頑張った僕が気絶して後は他の人間に任せる流れだったじゃん!?」
「そんな事を言っている場合じゃない、まだラスボスが残ってる」
「ラスボスって何だよ……って、うおおおっ!?」


話している間に二人の間に「光線」が通過すると、驚いたダインは顔を振り向くと、そこには世界最強の魔術師であるマリアとレナ達が激戦を繰り広げる光景が視界に映し出された。
しおりを挟む
感想 5,087

あなたにおすすめの小説

“金しか生めない”錬金術師は果たして凄いのだろうか

まにぃ
ファンタジー
錬金術師の名家の生まれにして、最も成功したであろう人。 しかし、彼は”金以外は生み出せない”と言う特異性を持っていた。 〔成功者〕なのか、〔失敗者〕なのか。 その周りで起こる出来事が、彼を変えて行く。

魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです 魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。 「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」 「ええっ!?」 いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。 「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」 攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。