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外伝 ~ヨツバ王国編~

世界最強の魔術師

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「一刀、両断!!」
「オアッ――!?」


全身の力を込め、更に精霊の力だけではなく最強の剣技を発動したレナの退魔刀が空振りしただけで強烈な三日月の形をした衝撃波を生み出す。アースゴーレムは胴体に衝撃波を受けた瞬間、全身が粉々に吹き飛ばされてしまう。その結果、アースゴーレムの傍に存在したマリアも影響を受け、吹き飛ばされた。


「え、やった!?」
「倒しちゃったの?」
「……まさか、この程度で勝てる相手じゃないよ」


地面へと落下していくマリアの姿を見てダイン達が心配した声を上げるが、彼女は空中で杖を掲げると、足元に渦巻のような風の魔力を発生させて浮き上がる。レナも扱う「風圧」の初級魔法の応用版であり、しかもレナよりも使いこなしている。

風圧の魔法を利用して飛び上がる事はハンゾウも行えるが、彼女の場合は衝撃波を足の裏から繰り出して移動しているだけに過ぎず、空中へ完全に停止する事は出来ない。しかし、マリアの場合は足元の風の渦巻によって完全に浮かんでいた。魔法の力が強いだけでは行える芸当ではなく、魔法の技術に関してもマリアはレナやハンゾウの遥か上を行く。


(前にアイリスが叔母様の事を世界最強の魔術師だと言ってたけど、本当にその通りだな……)


アイリス曰く、マリアは魔術師としてこの世界でも最上位に位置しており、わずか20年足らずであらゆる魔法を極めたという。そんな彼女が扱えない魔法があるとしたら「闇属性」のみであり、他の6つの属性は極めたといってもいい(但し、職業上は聖属性の回復魔法は使用できない)。

レナも全ての属性を扱えるが、その中で得意とするのは「土属性」と「風属性」である。本来は種族的には「火属性」の方が適性が大きいのだが、自分の大剣を扱う際に重力を操作する土属性と風属性を頻繁に扱い、他の属性に関しては残念ながら使いこなしていない。昔は水属性もよく多用していたが、退魔刀を手に入れた時期から気付けば使い機会は減っていた。


(さてと、そろそろ避難しないとまずいなこれは……)


マリアが体勢を整えて攻撃を仕掛ける前にレナは退散するために仲間達に振り返り、頷く。仲間達はレナの行動を見て意図を察し、一か所に集まる。マリアが次の攻撃を加える前にレナは「空間魔法」を発動させ、先に仲間達の足元に黒渦を作り出して事前に王都から離れた場所に設置した黒渦と繋げて避難させる。


「じゃあね、叔母様!!」
「っ……!?」


レナは仲間達の元と共に黒渦に飛び込むと、完全に姿を消してしまう。それを確認したマリアは黒渦が閉じ込められる前に攻撃を仕掛けようとしたが、レナ達が消えた瞬間に黒渦は一瞬で消失してしまう――





「――ぷはぁっ!!し、死ぬかと思ったぁっ!!」


王都から離れた森の中で逃げ帰る事に成功したレナ達はその場に膝を付き、無事にマリアから逃げ切れた事を安堵する。もしも、あのまま戦い続けたら間違いなくマリアに殺されていただろう。


「はあっ……だけど、十分時間は稼げたよな。体感的には2時間か3時間ぐらいは粘った気がするけど……」
「実際の所は1時間程度だとは思うでござるが、これで敵の注意は十分に引き付ける事は出来たと思うでござる」
「王都で問題が起きれば当然だけど王都付近に配置されている兵士達も集まってくるはず……その間にティナ達が西聖将の領地へ近づければ十分だよ」
「けど、この作戦きつかった……スラミンもアインもミノよく頑張った」
「ぷるぷるっ♪」
「キュロッ♪」
「ブモォッ……」


コトミンに褒められてスラミンとアインは嬉しそうに鳴き声をあげ、ミノも頷く。レナ達の作戦は王都で大暴れを行い、王都付近の注意を引く間にティナとエリナを乗せたウルとユニコーンを西聖将の元へ向かわせる。結果としては王都ではレナ達が暴れた事で大騒ぎになっているはずであり、しかもレナがクレナイの事を触れ回ったせいで兵士や民衆の間にカレハに対して疑念を抱く者も現れただろう。

事前にアイリスからキラウが王都の近くには存在しない事を聞かなければ成り立たない作戦だったが、結果としては囮役は上手く成功した。後はティナ達がどれほど西聖将の領地へ近づけたかであり、彼女達の後を追うためにレナ達も動かなければならない。


「むっ……あちこちで狼煙が上がっているでござる。どうやら森の中で見張りを行わせている兵士達を呼び寄せているようでござる」
「それなら俺たちも急いで移動しよう。兵士達に見つかる前にティナ達に追いつかないと……」
「ええっ……もう動くの?こっちは影魔法を使いっぱなしで疲れてるんだけど……」
「もたもたしていると叔母様が追手として派遣されるかもしれないけど……」
「何してんだよ皆!!早く逃げるぞ!!」
「ブモォッ!?」
「は、早い!?拙者の目でも見切れなかったでござる!!」


レナの言葉を聞いてダインは何時の間にかミノの背中にしがみつき、両角を捕まえて逃げる準備を行う。そのあまりの反応の切り替えにハンゾウは驚くが、早急に立ち去らなければならないのは事実であり、疲労を堪えてレナ達も出発した。
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