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外伝 ~ヨツバ王国編~

樹肉の秘密

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「むっ……確かにこれはいけるな」
「へえ、思っていたよりも美味いじゃないかい!!酒のつまみにもなりそうだね!!」
「あ、本当だ。凄く美味しい!!」
「美味い!!」
「……私はいらない、魚がいい」


全員がギンタロウの調理を真似して樹肉を食すと、その予想外の食感と旨味に驚く。人魚族であるコトミンだけは口に合わなかったようだが、他の者達は何とも言えぬ美味しさに夢中にかじりつく。


(へえ、本当に果物というよりも肉のような味だな。それに食べているだけで体力も魔力も回復しているような……?)


レナも樹肉を味わう度に身体の疲労が徐々に抜けていく感覚を覚え、どうやら樹肉は肉体の疲労回復を促すだけではなく、魔力を急速に回復させる効果も持つらしい。ギンタロウは両手に樹肉を抱えながらこの果物の価値を話す。


「どうだ、驚いただろう!?この樹肉は食べるだけで力も付き、疲れた身体も一気に楽になる!!あまり食べ過ぎると身体に毒になるが、適量ならば問題はない!!取り扱いの難しい食材ではあるが決して害のある食べ物ではないぞ!!」
「うむ、確かに先ほどまでの身体の疲れが消えたな」
「それだけじゃないでござるん。魔力の方も回復しているでござるん……これ程の効果は上質な魔力回復薬に匹敵するでござる」
「信じられんな、まさかこのような食べ物があるとは……」


樹肉を1つだけ食べただけでレナ達は体力だけではなく、消耗した魔力も取り戻す事に成功し、全員が樹肉の食用価値を思い知らされる。ギンタロウの言う通りに食べ過ぎないように気を付ければ決して身体に害を与える食べ物ではなく、使い道を誤らない限りは下手な魔力回復薬よりも効能が高い食べ物だった。


「はっはっはっ!!どうやら全員気に入ってくれたようだな!!だからこそ分かっただろう、この樹肉の価値を!!」
「まあ、驚かされたのは事実だけどね。それにしても本当に不可思議な果物だね……こんなに不気味な外見をしているのにこんなに美味しいなんて」
「ふむ、これほど即効性の高い果物など聞いた事もないな」
「それは仕方ないな!!この果物はヨツバ王国内でしか流通が許されていない果物だからな!!それに人工栽培も出来ないし、魔物を引き寄せる性質を持つ事から取り扱いも難しい!!だから王国内でも樹肉を知るのは俺の領地の人間か、王都のお偉方ぐらいだ!!」
「なるほどな。だが、どうしてそれほど重要な情報を儂等に教えた?それは国の重要機密ではないのか?」


ギンタロウの説明を受けてロウガが疑問を抱くと、ギンタロウは陽気な表情から一変して顔を引き締め、真剣な表情で向かい合う。


「これから共に戦う仲間として行動する以上、隠し事は出来ないと思ったからだ。君達の信用を得るために俺は秘密を明かした!!君達は俺の事を信用してくれるか?」
「ふっ……面白い漢だ。黙っていてもいい事を……」
「はっ!!あたしはあんたみたいな男は隙だよ。馬鹿正直なのは嫌いじゃないね!!」
「……私もです」


東聖将という立場から考えれば重要な隠し事を自ら明かしたギンタロウに対してロウガ、バル、ジャンヌは笑みを浮かべ、3人ともギンタロウの人となりを知って彼に対して好感を抱く。レナ達も元々エリナの叔父であるギンタロウの事は信用していた。

ここからは冒険者と東聖将軍が協力して動かなければならない以上、お互いの信頼関係を築かなければならず、ギンタロウがこの魔の草原を狩猟勝負の場に選んだのは自分の秘密を明かす事で冒険者達と良好的な関係を築こうと考えていたらしい。結果としては功を奏したらしく、少なくとも冒険者達はギンタロウが隠し事が出来ない清々しい男だと認識する。


「あんたの事は元々私は気に入っていたよ。妻子持ちじゃなければ口説いていたかもしれないね」
「はっはっはっ!!それは嬉しいが、俺は妻一筋だからな!!」
「ギンタロウ殿、これからは共に戦う仲間として頼りにさせてもらうぞ」
「うむ!!どんどん頼ってくれ!!俺も同じぐらいに君達に頼むかもしれないからな!!」
「よろしくお願いします。共にお互いの主のために戦いましょう」
「そうだな!!」


3人の代表者がギンタロウと握手を行い、友好的な関係を築く中、レナは最後の代表者が姿を現さない事に気付き、不思議に思う。ギンタロウの話では既に迎えの兵士が送り込まれているはずだが、どうして牙竜の代表冒険者達が未だに現れないのか疑問を抱く。


「あの……牙竜の人達は戻ってこないですけど、何かあったんですか?」
「あれ、そういえばあいつら来てないな?何処行ったんだ?」
「……迷子になったとか?」
「こんな見晴らしのいい草原でそれはないだろう」
「ぷるんっ?」


牙竜の冒険者達が見えない事に不思議に思ったレナ達は草原を見渡すが、彼等の姿は見当たらない。既に勝負の終了時間を過ぎても現れない彼等に疑問を抱いたギンタロウは配下の兵士に問い質す。


「おい、迎えに向かわせた兵士から報告は届いていないのか?」
「いえ、彼等も戻っていません。先ほど、キン、ギン、ドウ様が様子を見に向かったようですが……」
「何だと?一体どういう事だ……まさか、何かあったのか?」


どうやら牙竜の冒険者達だけではなく、ギンタロウの側近を務める3人の兵士長も戻っていない事が発覚し、不安を覚えたレナは風の聖痕を利用して風の精霊を呼び集めて草原の様子を伺う。


「ちょっと待ってください、俺が調べてみます」
「あ、兄貴!!私も調べます!!」


レナとエリナが風の精霊を呼び寄せ、牙竜の冒険者集団が戦闘を繰り広げていた大樹の付近に存在する風の精霊に呼びかけて様子を伺うと、二人は同時に目を見開く。


「こ、これは……!?」
「そんな!?」
「ど、どうした!?何が見えた!?」
「何かあったのかい?」


二人の反応に他の人間達が机から立ち上がると、レナとエリナは動揺しながらも自分達の視界に映し出された光景を冷静に説明した。


「牙竜の冒険者と、ギンタロウさんの兵士達が……」
「な、何だい!?勿体ぶらずにさっさと教えな!!」
「た、倒れてるんです!!血塗れの状態で全員が大樹の根本で倒れてます!!」
「何だと……!?」


エリナの叫び声にギンタロウは血相を変え、即座に背中の鉞を握り締めると牙竜の冒険者集団が挑んだ大樹の元へ駆け出す。その様子を見たレナ達も慌ててギンタロウの後に続き、大樹へと急ぐ。


「おい、どういう事だ!!血塗れで倒れているというのは本当か!?」
「魔物にやられたのですか!?」
「いや……全員に刀傷のような傷跡があった!!誰かに斬られて倒されたとしか思えない!!でも、他に人の姿は見えなかった!!」
「刀傷だと……馬鹿な、一体誰が!?」


移動の際中にレナは他の冒険者から質問攻めを受けるが、当のレナ本人も何が起きているのか分からず、今は一刻も早く負傷した彼等の元へ向かうために走る。そんな彼等の横をケンタウロス族の兵士達が追い付き、全員に話しかける。


「我々の背中に乗ってください!!そちらの方がずっと早いです!!さあ、早く!!」
「……いや、こっちの方が早い」
「え?」


ケンタウロス族の兵士の言葉にレナは首を振ると、両足に力を込めて「瞬動術」を発動させ、一気に速度を加速させて駆け抜ける。体力を消耗するので本来は連続使用は控えるべき移動術なのだが、緊急時なので仕方なくレナは瞬動術を繰り返して発動させ、一気に大樹へ向けて駆け出す。




※本日の12時にコミカライズ版4話が公開されます!!屋敷の秘密が遂に明かされる……!!
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