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外伝 ~ヨツバ王国編~

追放者の使い道

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「げほげほっ……な、何だ、誰だ……?」
「どうやら目覚めたばかりで混乱しているようね」
「よくやったぞスラミン、ヒトミン、今日の晩御飯は氷水だ!!」
『ぷるぷるっ♪』
「本当に餌代のかからないペット達だな……」


スライム達をコトミンに渡すと、レナは意識を取り戻した女性に振り返り、現在の状況を説明する。


「ここは王城であんた達は捕まった。それで、どうしてティナを狙った?」
「そういう事か……殺せ」
「レナ殿、尋問なら拙者たちに任せるでござる」


レナの言葉に女性は何も話すつもりはないのか顔を逸らすと、ハンゾウが口を挟む。忍でもある彼女とカゲマルは捕虜に対しての尋問術を心得ており、自分達が取り調べを行おうとしたがレナはそれを制す。


「いや、ちょっと待って……あんた達に聞きたいことがある。一体どんな罪を犯して追放された?」
「……我々は罪人ではない!!」


自分の事を犯罪者扱いされた事に女性は激高するが、現に彼女達の首の裏には焼印が刻まれているのは事実のため、罪を犯していないのならばどうして焼印を刻まれたのかを尋ねる。


「罪人でもないのならどうして焼印を刻まれた?国を追放される程の罪を犯した森人族にしかその焼印は与えられないんだろう?」
「違う!!我々は罪を犯してなんかいない、あの王女に逆らった事で追放されたんだ……!!」
「王女……カレハ様の事っすね」


案の定と言うべきかカレハが関わっていたらしく、女性の話によると彼女達はヨツバ王国で暮らしていた兵士らしく、カレハに逆らった事が原因で国から追放されたという。


「我々は元々はカレハ様を監視するために選抜された騎士だ。元々はツバサ様に仕えていたが、あの方の命令で我々はカレハ様の監視を行っていた……だが、ある時に王都から報告が届き、国王様がこのバルトロス王国で消息を絶ったという連絡が届いた。それでカレハ様の監視が解かれ、王都へ急遽招き入れられた」
「闘技祭で誘拐された時か……それで?国王が不在の間にカレハは何をした?」


闘技祭が開催された当日、ヨツバ王国の一行は王妃の策略によって拘束され、数日間ほど王都で拘束されていた。その間に連絡がヨツバ王国にも届いたらしく、王族の中で一人だけ残っていたカレハが王都へ呼び出され、国王の代理を務める事になった。

ヨツバ王国では王族の権力が強く、国王の不在の間は王位継承権を剥奪されたとはいえ、他の王族が不在である以上はカレハが一時的に王国の実権を握ったらしく、彼女はまず最初に行ったのはこれまで自分を冷遇してきた人材の排除らしい。


「我々は任務としてカレハ様を監視し、逐一報告を行っていた。だが、それがカレハ様の逆鱗に触れたのだろう。すぐにカレハ様は監視役を務めていた騎士達を呼び集め、全員を追放処分にした……罪状は王族不敬罪と告げてな」
「そんな……酷すぎるっす!!任務に忠実に従っていただけなのに……」
「無論、我々も抗議した。六聖将の方々もカレハ様の判断に反対はしたが、代理とはいえ国王の座に就いたカレハ様に逆らう事は出来ず、我々はこの焼印を刻まれた……しかも我等だけではなく、我等の家族全員も追放処分の対象として焼印を刻もうとしてきた」
「無茶苦茶な奴だなおい!?」
「暴君ね……」
「王妃の方がまだまともに思えてくるな」


カレハは自分を監視していた女騎士達だけではなく、騎士達の家族にまで罰則を与えようとしたが、とある条件と引き換えに彼女達に罪を償う好機を与えた。


「カレハ様は我々にある約束してくれた。もしもティナ様の首を持ち帰れば我々の罪を許すと……だから私達はここへ来た。家族を救うために……!!」
「そんな……」
「酷すぎる……カレハ様は森人族じゃないっす!!」


姉であるカレハが本気で自分を殺すために刺客を送り込んだという事実を知ってティナは顔色を青ざめ、エリナは怒りを抱く。全てを吐き出した事で少しは落ち着いたのか、女騎士はティナに顔を向けて頭を下げた。


「ティナ様、申し訳ございません……本来ならば王族に仕えるはずの我々が貴女の命を奪うなどあってはならない事です。ですが、他に方法がなかったのです……!!」
「う、ううん……謝らないで良いよ。その、カレハお姉ちゃんが悪いんだよね……」
「自分に逆らう者は味方でも容赦しないか……その点は王妃と比べたら小物に感じるな」
「そうね、あの女は少なくとも味方には寛容だったわ」


王妃の場合は自分の味方が失敗したとしても見捨てる事はなく、味方に対しては寛容さを見せた。シズネが離反した時も彼女の命を奪うことはなく、再度捕縛した時も最後まで説得を試みた。敵対しているナオに関しても彼女の妹達を使って篭絡しようとしていた当たり、無暗に殺して解決するような手段は好まず、自らのカリスマで従えさせようとした節がある(どうしようもない状況のときは殺害も命じる事はあったが……)。

それに比べればカレハの場合は任務という名目で自分を見張っていた女騎士達に仕返しとばかりに厳しい罰則を与え、国の重鎮である六聖将から不満を受けても彼女達の罰則を実行した当たり、味方であろうと容赦しない。その点は王妃と比べると器が小さいようにレナは思えた。


「エリナ、この人達は守備将に仕えていた騎士らしいけど本当かな?」
「いや、どうですかね……あたしも王都に存在する全員の騎士の顔を覚えているわけじゃないので断言出来ませんけど、少なくともあたしがツバサさんの指導を受けていた時には見た事もない顔ですね。まあ、ツバサさんの指導を受けていたのは20年ぐらい前の話なのでその間に入って来た新人さんだとしたら顔に覚えがなくても当たり前ですけど……」
「20年って……ああ、そういえばエリナが何気にこの中で最年長者か」


外見が若いので忘れがちだが、エリナはアイラやマリアよりも年上の森人族である事をレナは思い出し、彼女の実年齢は70才を超えている。森人族は一定の年齢を迎えると肉体の成長(老化)が遅行化するため、エリナの場合は16才ぐらいから外見が殆ど変化していない。

襲撃を仕掛けた女騎士達はエリナが指導を受けていた時期には加入してきたらしく、年齢は彼女よりも下回るらしい。それでも新人でありながら一兵士から騎士にまで上り詰めた彼女達の実力は高いらしいが、暗殺などと言う騎士道から反した行為に躊躇してしまい、あっさりとレナ達に捕縛されたという。


「話す事は全て話した……殺せ、任務を果たせなかった以上、我々に変える場所はない」
「潔いわね……そこまでの事をされながらどうしてカレハに逆らおうとは考えないの?」
「お前達のような人間には理解出来ないだろうが……我々、ヨツバ王国の人間は王族には逆らえない。暴君であろうと今のヨツバ王国に残された王族はカレハ様なのだ。例え、この身が追放者の烙印を刻まれようと我々はあの方には逆らえない」
「王族に対しての忠誠心か……その覚悟は立派だが、使えるべき主人が暴君であるのは嘆かわしいな」
「拙者たちの主君は恵まれているのでござるな……」


犯罪者の烙印を刻まれようと女騎士はカレハに逆らう事は出来ず、自分達の事情を話すと黙り込む。そんな彼女に対してレナは腕を組み、彼女の話を聞いてある疑問を抱く。


「あのさ……聞きたいことがあるんだけど、あんたはカレハに忠誠を誓っているんじゃなくて、あくまでも王族に大して忠誠を誓ってるんでしょ?」
「……何が言いたい?」
「ならさ、王族に忠誠を誓うのならどうしてティナの命を狙った?ティナだって王族だよ?」
「えっ?」


唐突に話を振られたティナは驚いた表情を浮かべ、その一方で女騎士は顔色を青くした。
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