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外伝 ~ヨツバ王国編~

犯罪者の焼印

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「王女はそこだ!!殺せっ!!」
「死ねっ!!」
「え、えっ!?」
「ティナ様、下がって!!」


エリナに庇われているティナは何が起きているのか分からずに混乱するが、その間にも部屋の中に入り込んできた暗殺者たちは武器を構えた。だが、彼女達がティナに近付く前に全員の肉体に影の触手が絡みつき、肉体を拘束する。


「シャドウ・バインド!!」
「何だとっ……!?」
「こ、これは!?」
「そこまでよ」


ダインの影魔法によって動きを封じられた暗殺者の元にシズネが接近し、レナから借り受けた反鏡剣を握り締め、鞘を装着した状態で暗殺者達の急所を撃ち抜く。


「刺突・五連突き!!」
「うぐっ!?」
「あうっ!?」
「がはぁっ!?」


一瞬にして暗殺者集団の肉体に強烈な突きを放ち、意識を奪い取る。「乱れ突き」と「刺突」の戦技を組み合わせた複合戦技で抜き身の状態ならば彼女達の肉体も貫通する事は容易かったが、正体を確かめる必要があったので手加減を行う。

シズネの攻撃を受けた暗殺者達は意識を失ったらしく、ダインが影魔法を解くと床に倒れ込む。他に敵がいない事をカゲマルは確かめると扉を閉め、中に誰も入り込まないように鍵を閉めた。


「全員無事か?」
「あ、ああ……誰も怪我してないよな?」
「ティナ様、大丈夫っすか?」
「う、うん……何ともないよ?」


全員が無事である事を確認すると即座にカゲマルは倒れた暗殺者の元へ向かい、彼女達の服装を確認すると兵士の恰好をした女性を見てある事に気付く。


「衣服と鎧のサイズが合っていない……恐らく、この城の人間から強奪したか、あるいは盗み出した物を着込んで忍び込んだのだろう。だが、こんなガサツな方法で忍び込むあたり、こいつらは本職の暗殺者ではないな」
「確かにそうね。暗殺者の職業の人間と比べると動作も鈍くて隙だらけだったわ。でも、どうして部屋の前にこれだけの人数が隠れていたのに気付かなかったのかしら?」


部屋の中に存在する人間の中で本職の暗殺者であるハンゾウやカゲマル、それに武人としては極めて高い実力を持つレナとシズネでさえも最初に暗殺を仕掛けた女性の後に姿を現した者達が隠れていた事に気付くのに反応が遅れた。全員が彼女達の存在に気付いたのは部屋の中に入り込んだ瞬間のため、寸前まで部屋の前に待機していたはずの4人の女性の存在に気付かなかった事が不思議でならない。


「多分、これのせいだと思うよ」
「……マント?」
「正確には身隠しのマントという魔道具、緑影の人間がよく使用していた」


レナは床に落ちた緑色のマントを拾い上げて皆に見せつけ、以前に何度か見かけたことがある魔道具である事を説明する。緑影の隊員が愛用する魔道具の一種でこれを装備した人間は身動き一つ取らずに待機していると他の生物から認識されなくなり、存在感を完全に消す事が出来る。


「このマントを使ってどうやらここまで忍び込んできたらしい。でも、このマントの効果は時間制限があるからきっと用心のためにこの城の使用人や兵士の恰好をしていたんだと思う」
「ほう、そのような魔道具があるのか……ヨツバ王国の技術は侮れんな」
「忍である拙者たちでさえも気付けぬとは……面目ないでござる」
「それよりもこの女たちが何者なのかが重要よ。エリナ、見知った顔はある?」


シズネは気絶している暗殺者集団の手首を縛りあげながらエリナに尋ねると、恐る恐るエリナは近づき、顔を確認するが誰一人として見覚えはない。


「すいません、記憶力には自信がありますけどこの人達は見た事もないっす」
「そう……レナ、こいつらは緑影だと思う?」
「いや、それはないよ。緑影の隊員ならもっと慎重に行動するはずだし、こんなに弱いはずがない」


先ほどの話を思い出したシズネがレナに確認するが、実際に緑影と何度か交戦したことがあるレナから見れば今回襲撃を仕掛けた者達は弱すぎた。第一に緑影の面子が暗殺を仕掛けるのならばレナ達が不在の時にティナを狙うはずであり、わざわざ他の人間が彼女と行動を共にしている時に襲撃を仕掛けるはずがない。

ハンゾウが女性の一人の身体検査を行い、何か手掛かりになるような物はないのかと探していると、不意に彼女達の首筋の部分に焼印のような物が刻まれている事に気付き、皆に知らせる。


「これを見て欲しいでござる。首の裏に焼印があるでござるよ?」
「これは……」
「えっ!?これって!?」
「そ、それ!!追放された人にしか刻まれない紋章だよ!?」
「追放……?」


ティナとエリナは女性達に刻まれた焼印に見覚えがあるらしく、激しく動揺する。一体この焼印にどのような意味があるのかと二人に尋ねる前にカゲマルが答えた。


「なるほど、これが噂に聞くヨツバ王国の犯罪者に施される焼印か」
「兄者、知っているのでござるか!?」
「ああ、過去に一度だけマリア様に教えて貰った。ヨツバ王国の中で重罪を犯した森人族にのみ刻まれる焼印だ」


カゲマルは女性達の首筋に刻まれた朽ち果てた「枯れ木」を想像させる形状の焼印を示しながら説明を行う。まだカゲマルがマリアに仕えたばかりの頃に教わり、その時のマリアの表情は苦々しかった事から記憶に根強く残っていた。


「この焼印を刻まれた森人族はどのような理由であれ、ヨツバ王国の領地に滞在する事は禁じられている。追放された者が国へ戻る事は許されず、もしも領地内でこの焼印を刻んだ森人族を発見すれば即刻に処刑される……焼印を刻まれた森人族を仮に誰かが殺したとしても、その者が罪に問われる事はない」
「酷い……」
「し、信じられん……」


説明を受けたコトミンとゴンゾウは憐れむように気絶した女性達に視線を向けるが、シズネは淡々と告げる。


「同情は不要よ。どんな理由があるにせよ、彼女達は人の命を狙った。なら自分の命を狙われても仕方がない事よ」
「それはそうかもしれないけど……」
「それよりも私が気になるのはどうしてそんな焼印を刻まれた森人族がこの城の中に忍び込んでティナ王女の命を狙ったのかよ」
「確かにそれは気になるでござるな」


シズネの言葉にハンゾウも同意し、気絶している者達を抱きかかえて一先ずは壁際の方に移動させる。運び出す際、首筋の印に気付いたレナはカゲマルに問う。


「でもさ、こんな傷跡なんて回復薬や回復魔法で簡単に消し去る事が出来るんじゃないの?」
「いや、それは出来ない。普通の火傷の類ならば回復薬でも治療出来るが、この焼印を刻むのは特殊な魔道具が使用されている。傷跡を塞ごうとしても紋章が発熱して逆に悪化する」
「そんな魔道具まであるのか……改めてヨツバ王国が魔法に優れた森人族の国だと思い知らされるな」


バルトロス王国では流通されていない魔道具を複数所持しているヨツバ王国の魔法技術にレナはため息を吐き出し、存在感を消すマントや焼印を残す魔道具を作り出せるのならばもっと安全で役立つ代物を作ればいいのにと考えながらも女性の一人の頬を叩く。


「もしもし、起きてください。朝ですよ?」
「ううっ……」
「駄目か、起きる様子がない……仕方ない、コトミンとティナ。ちょっとスライム達を貸して」
「……?」
「え?あ、うん……どうするの?」
「「ぷるるんっ?」」


2人からスラミンとヒトミンを借り受けたレナは2体を鷲掴むと、そのままスライム達を両手に乗せて命令した。


「スラミン、ヒトミン、水鉄砲!!」
『ぷるっしゃあああっ!!』
「ぶほぉっ!?」
「えええっ!?」


気絶している女性の一人に向けてスライム達が口内から大量の水を放ち、冷水を浴びた女性は何事かと目を覚ます。
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