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3巻

3-2

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『マモウは、さっきの人達を襲うために仕掛けられたんですよ。レイトさんのおかげで、彼らは助かりましたけど、本当だったら全員殺されていましたね』
『はあっ!?』

 アイリスが物騒ぶっそうなことを言うので、レイトは驚いてしまう。
 レイトは改めて尋ねる。

『どうして、ティナ達は襲われたの?』
跡目争あとめあらそい、というやつですよ。あの王女、国王の三人目の娘で、王位継承を狙う一番上の姉に目をつけられているんです。その姉が雇った魔物使いが、マモウを仕掛けたんです。ティナ姫が使者としてバルトロス王国を訪れたタイミングを狙って、ですね。森人エルフ族の王女がバルトロス王国内で死亡すれば、バルトロス王国もなんらかの責任を取らないといけなくなり……一石二鳥いっせきにちょうというやつですからね』
『ひどい……だけど、よくこんな大きな魔獣をよこしたな』
『狩猟祭のために用意した魔獣として、国境を越えさせたんでしょうね。まあ、魔物使いも苦労して連れ込んだマモウをあっさり殺されたわけですから、涙目なみだめでしょう』
『涙目って……ところで、あのお姫様、そのまま帰しちゃったけど大丈夫なのかな?』
『大丈夫ですよ。付き添いの方々はああ見えて腕利きですからね。普通の襲撃者なら簡単に追い払えます。それに都市に着いたら、彼女の護衛として冒険者ギルド「牙竜がりゅう」の冒険者も加わるそうですから』
『牙竜って、ゴンちゃんの所属しているギルドか』

 ゴンちゃんとは、巨人ジャイアント族の戦士ゴンゾウのことで、レイトの作った料理を彼が勝手に食べてしまったのをきっかけに仲良くなった友達だ。いつの間にか、レイトは彼のことを「ゴンちゃん」とあだ名で呼ぶようになっていた。
 そうこうしているうちに、マモウの素材の剥ぎ取りが終わった。
 レイトは村の中に置いておいた荷車にマモウの素材を詰め込み、収納魔法で回収できる限界の量まで肉を収めた。

「よし、これだけあれば十分だろ……市場に寄って売れば、高く買い取ってくれるかもしれないな」
「クゥ~ンッ……」
「お前の分もちゃんと用意してあるよ。さあ、戻るぞ」
「ウォンッ!!」

 ウルは上機嫌になって、狼専用の荷車、狼車ろうしゃを引いて冒険都市に向かった。


 冒険者ギルドに戻ってきたレイトは、マモウを倒したことを報告する。それからその場にいた冒険者達に、マモウの死体を残してきた場所を伝え、市場に向かった。
 マモウの素材は、すべては売らなかった。毛皮だけ残しておき、「裁縫」の技能スキルで毛皮のマントを作った。マモウの毛皮は魔法に耐性を持つと聞いたので、装備することにしたのだ。
 ただし、今は夏を迎えようとしている時期だから、毛皮は暑苦しい。レイトは都市の外に出るときだけ、それを装備することに決めたのだった。


 ◆ ◆ ◆


「昨日も行ったのに、なんで今日もファス村に行かなきゃいけないんだよ……おうちに帰りたいよぉっ」
『久々の幼児退行ですね。文句言わずに向かってくださいよ。間に合わなくなっても知らんぞうっ!!』
「何その口調、まさかベ○ータ!? ……分かったよ」
「ウォンッ?」

 冒険都市ルノを出てファス村に向かいながら、ウルは独り言を言うレイトに首を傾げていた。
 すぐにファス村に到着する。
 狼車には、大量の木材が載せてあった。今日は、さらに本格的に村の復興作業をするつもりなのだ。

「よし、さっそく始めるか……『兜割かぶとわり』」
『木を切るだけなのに、戦技を使わないでください。無駄に体力を消費しますよ』
「面倒だな……『氷装剣ひょうそうけん』」

 レイトは「氷塊ひょうかい」の魔法で氷のノコギリを生み出し、材料を切っていった。
 彼が作ろうとしているのは、水車小屋である。村のそばを流れる川を利用して、水車を設置する予定なのだ。
 通常、水車を作るには相当な日数を必要とするが、レイトならそれほど時間がかからない。
 レイトはアイリスの助言に従いながら、せっせと水車小屋を作っていった。


 作業を始めてから半日経つ頃には、立派な小屋が建った。
 仕上げに、魔物に襲われないよう、魔物の嫌いな匂いを発する腐敗石ふはいせきと、魔物を弾く結界を張る結界石を設置する。

「おおっ、ちゃんと動いてる!!」
『頑張りましたね。これであとは、畑をなんとかすればここで生活できますよ!』
「畑か……でも、あの土じゃ作物は育たないんだったよな……となると、やっぱりサンドワームを捕獲しないと」
『まあ、いたほうがいいでしょうね』

 そんなわけで、レイトがサンドワームを探していると、突如として彼の背後の川からみず飛沫しぶきが上がる。

「うわっ!? なんだ!?」
「キャウンッ!?」

 水中で爆弾が爆発したかのように、突然大きな水柱が立ち上り、レイトとウルに大量の水が降り注ぐ。
 そして、水中から飛び出した何かが地面に降り立った。

「……着地っ」

 それは、レイトにとってどこか見覚えのある、青色の髪の毛が特徴的な――

「あれ、もしかして……コトミン?」
「ぷるぷるっ……レイト?」

 レイトがひと月ほど前に出会った謎の少女、コトミンだった。コトミンは犬がやるように、身体を震わせて水を飛ばしている。

「ふうっ、朝の運動は終わり」
「運動って。どんな勢いで泳いでんだよ! おかげでずぶ濡れだよ!」
にとっては、これくらいは普通」
「クゥ~ンッ」

 すると突然、ウルがレイトの背中を前足で叩く。レイトがウルの顔を見ると、ウルはなぜか悲しそうな目をしていた。

「ん? どうしたウル……」

 ウルに合わせて、レイトは視線を上げる。彼の目に映ったのは、無惨むざんにも砕け散った水車だった。

「ああああああああっ!?」

 ひざから崩れ落ちるレイト。
 その声に驚いたコトミンは、瞬時に状況を悟る。彼女はしばらくレイトに無表情な顔を向け、それから何事もなかったように去ろうとする。

「……じゃあ、私は用事があるから」
「おい、待てや、嬢ちゃんっ!!」

 レイトは相手が女の子だろうとお構いなしにその肩をつかむ。

「あうっ」

 お人好しのレイトといえど、半日もかけて建てた水車小屋を破壊した犯人を逃すはずもない。彼は怒りを込めてコトミンの肩をする。

「このやろ~! 俺がどれだけ苦労してこの水車小屋を作ったと思うんだ! 責任取れ!」
「あわわっ! 落ち着いて! 綺麗な川の水を飲めば落ち着くかも?」
「いや、君のせいで、今さっき川の水が大量に口に入ったばかりなんですけど!?」

 レイトが怒りのままにコトミンを責めていると、ウルが彼の顔を舐めてきた。

「クゥ~ンッ」

 それで少し冷静になったレイトはため息をつき、ゆっくりとコトミンを解放する。しかし、逃さないようその腕をつかんでいた。
 レイトは恨みがましく言う。

「ああっ、俺の半日の成果が……さすがにこれだけ粉々だと修復も難しい」
「ごめんなさい。久しぶりに思いっきり泳いでいたから、調子に乗ってた」
「まったくもう。そういえばさっきさ、人魚族って言ってなかった?」

 レイトはコトミンとの会話を思い出して尋ねる。改めて考えてみると、水柱を生じさせるほど激しく水中を移動できる人間などいるはずもない。
 すると、コトミンは自慢げに言い放つ。

「その通り、私は人間じゃない!」
石仮面いしかめんでも被ったのか!?」
「言っていることはよく分からないけど、たぶん違う。改めて紹介する。私の名前は、人魚族のコトミン」
「え、スラミン?」
「違う! というか、聞き間違えたとしてもその名前はおかしい!」

 コトミンという名前は初めて会ったときにも教えてもらっていたが、種族が人魚族というのは初耳だった。コトミンは変わった格好はしているが、ただの人間にしか見えないのだ。
 レイトは首を傾げながら尋ねる。

「人魚族ね……だけど、君はどう見ても人間にしか見えないね。ヒレも見当たらないないし……」
「むうっ。そんなことはない」

 レイトは否定するコトミンに構わず、さらに質問を重ねる。

「人魚の証拠はあるの? 実は人魚だと思い込んでいるスライムじゃないの? ぷるぷるって鳴いてごらん?」
「なんでそんなにスライムにこだわるの……ぷるぷるっ、私はれっきとした人魚族、証拠はこの脚」
「脚って……」

 ノリよくスライムの鳴き真似をしてくれたコトミンが、自分の両脚を見せつけてくる。
 しかし、レイトの目には普通の人間の脚にしか見えなかった。
 彼は、試しに「観察眼」のスキルを発動する。それで改めてコトミンの脚を見てみると、その表面に透明な紋様のようなものがついているのに気づいた。

「あれ、これってもしかしてうろこ?」
「そう、人魚族の証拠。人間にはついていない」
「いや、まだ、魚の獣人ビースト族の可能性が……」
「それはないと思う」

 レイトの言葉に、冷静にツッコんでくるコトミン。
 レイトはため息をつくと、会話の流れを切ってコトミンを責めるように言う。

「とりあえず、君には壊した水車の修理を手伝ってもらう。拒否権はないっ!!」
「あうっ、力仕事は苦手」
「言い訳は聞かないっ!! こっちの半日の努力を文字通りに水のあわにしたのは君が悪い。許さないからなっ!!」
「クゥ~ンッ……」

 ウルも、川の中に沈む壊れた水車に視線を向け、悲しそうな顔をした。
 水車は、修復不可能なほどに派手に壊されていた。幸いだったのは、破壊されたのは水車の部分だけで小屋は無事だったことだ。

「ううっ……それを言われると逆らえない」

 申し訳なさそうにするコトミンに、レイトは表情をやわらげて言う。

「でも、さすがに今日はもう遅いからな、帰っていいよ。でも、明日の朝には来るように!」
「いいの? 私が逃げるとは思わないの?」
「大丈夫。逃げたとしても、釣りの腕には自信があるから。必ず捕まえて焼き魚にする」
「焼く? 怖いっ……分かった」

 ちなみにレイトは、コトミンが逃走しても、アイリスに尋ねて居場所を特定することができる。実際にそれをやるかどうかは別として、レイトは今日のところは彼女を家に帰すことにした。

「じゃあ、俺も帰るよ。明日の朝にこの場所に集合ね」
「分かった」
「約束だよ。ほら、指切り」
「んっ」

 お互いに小指を絡ませ、約束する。
 コトミンはそのまま水中に戻っていった。レイトはコトミンの後ろ姿を見て、改めて不思議な気持ちになった。彼女が人魚族であると判明したが、川の中に消える姿を見るとやはり違和感がある。どこか、ホラー映画でも見ているような気分だった。

「俺達も戻るか」
「ウォンッ!!」

 それからレイトは冒険都市へ帰った。
 ファス村に滞在することも考えたが、せっかく借りた広い家で休みたいという気持ちが勝ったのだった。


 ◆ ◆ ◆


 翌日、レイトは目を覚ますと、すぐにファス村の水車小屋の前にやって来る。
 コトミンの姿はなかった。逃げた可能性はあるが、別れる前に指切りをしたときの彼女の素直そうな表情を思い出したレイトは、そのまま待つことにした。

「コトミンはまだか……もし逃げてたら、今日は人魚の刺身だな」
「ウォンッ!!」
「……よく分かんないけど、何か怖いことを言っている」

 すると川の中から声がして、レイトとウルは振り返る。
 そこにいたのは、眠たそうな顔をしたコトミンだった。
 そのまま陸に上がった彼女は、両手にさけを持ち、そのままかじりついた。ちなみにこの世界には、レイトが元いた世界の魚も普通にいる。

「……うまい」
「いや、生で食べるの!? 調理とかしないの?」
「調理……魚は生で食べる物じゃないの?」
「人間の場合は普通は焼いたり、さばいたりして食べるよ。もしかして調理して食べたことない?」
「ない」

 コトミンは即答して、首を横に振る。
 生のまま食べるのもいいが、それだけではもったいない、そう感じたレイトはすぐに川に視線を向ける。そして「観察眼」のスキルを発動し、水中を泳ぐ魚を見つけた。

「『氷装剣』……とりゃっ!!」
「おおっ」

 レイトは氷の短剣を投げつけて、魚をいくつも仕留めた。「命中」と「投擲とうてき」のスキルを使えば、釣り道具がなくても魚を獲るのは難しくないのだ。
 レイトは川の中に入り、魚を回収する。

「こいつはあゆか……となると、塩焼きがいいかな」
「……?」

 首を傾げるコトミンに構わず、レイトはウルに話しかける。

「ウル、お前も食べるか?」
「クゥ~ンッ……」
「そういえばお前は猫舌ねこじただったな……狼だけど」

 それからレイトは、鮎を調理するために調理道具を収納魔法で取り出した。
 その場で焚火たきびをおこし、串に刺して塩を振った鮎を並べていく。「調理」のスキルを持っているのもあって、瞬く間に調理を終えた。
 レイトは焼き立ての鮎をコトミンに差し出す。

「ほら、食べてみて?」
「くんくん……いい匂い、おいしそう」
「熱いから気をつけてね」
「がぶっ!!」
「人の話聞いてたっ!?」

 コトミンは躊躇ちゅうちょなく鮎に噛りつくと、眠たそうだった目を見開いて、大げさに震え出した。

「うまいっ……!! うますぎるっ……ふああっ」
「え、最後のは欠伸あくび?」
「違う……私なりにおいしさを表現したつもり」

 コトミンは鮎を夢中で食べ続けた。レイトはそんな彼女が食べ終えるまで、水車作りの下準備をして待っていた。

「おいしかった……おかわりを所望する」
「ないよっ!! というか、食べたのなら働きなさいっ!!」
「むうっ……仕方ない」


 それから数時間経って、昼時。二人で作業したのもあって、前回の半分以下の時間で水車小屋は完成した。

「おおっ……ちゃんと動いている。良かったぁ……」

 レイトは、川の水で動く水車を見て感動するが、コトミンは慣れない作業で疲れたらしい。川に身体をひたして休憩していた。

「お疲れ様……私は疲れた」
「ありがとな、コトミンさん」
「その呼び方はやめて……コトミンでいい。もしくはスラミンでも可」
「あれ? その名前も意外と気に入ったの?」

 そんなやりとりをしつつ、レイトは最後まで逃げ出さずに作業を手伝ってくれたコトミンに感謝を伝えた。
 それから、彼はコトミンにまた魚を焼いてあげることにし、休憩中のコトミンに尋ねる。

「コトミンはどんな魚が好き?」
「魚ならなんでも食べる。だけど、今は大きな魚が良い」
「分かった。ちょっと待っててね……久しぶりだから上手くいくかな」

 レイトは川の中に入り、「氷装剣」で作り出した短剣を握りしめる。
 コトミンは突然そんなことをしだしたレイトに、不思議そうな視線を向けた。レイトは川の中に全身を沈めながら、目を閉じて神経を集中させる。
 レイトは「心眼しんがん」というスキルを習得している。
 神経に負担がかかるのであまり使わないが、効果は優秀で目を閉じても周囲の状況が把握できるというもの。剣士や格闘家といった戦闘職で、達人の領域に到達した者だけが習得できるスキルだ。
 真っ暗だったレイトの視界に異変が生じる。心の目によって周囲の状況が明らかになり、死角にある物体さえ認識できるようになった。
「心眼」は物体の輪郭だけしか捉えられないが、川を泳ぐ魚の位置が正確に把握できる。
 レイトは大きな魚が正面から近づいてくるのを感じ取り、短剣を投げつける。

「そこっ!!」
「おおっ」

 短剣が魚を撃ち抜く。レイトが仕留めたのは、こちらの世界にしかいない魚で、全身が鏡のように光り輝く魚だった。

「よし。だけど、これ、食べられるのかな?」
「それはカガミウオ。鏡のように綺麗に輝くから、昔は女性の手鏡として愛用されてた魚」
「なるほど……焼けば食べられるかな」

 レイトとコトミンが話し合っていると、アイリスが説明してくれる。

『カガミウオは鱗を剥がないと食べられませんよ。それと、焼くときは一気に過熱してくださいね』

 さっそくレイトは「調理」のスキルを発動し、カガミウオを手早く味付けし始めた。そして、鮎のように串刺しにすると、ささっと並べていく。
 コトミンは、焚き火で焼かれるカガミウオをよだれを垂らして見ていた。焼き上がると、レイトはコトミンにそれを差し出す。

「ほら、今度はゆっくり食べなよ」
「分かった……がつがつっ」
「俺が言ったこと聞いてたっ!?」
「クゥ~ンッ……」

 カガミウオに夢中で食らいつくコトミン。美味しそうに食べる彼女に刺激されたらしく、ウルも空腹を訴えてくる。
 レイトは、今度は自分達の食事の用意もすることにした。

「久々にブタンの肉でも食べるか。ウル、ちょっと水をんでくれない?」
「クゥンッ?」
「川の水じゃなくて井戸の水だよ。一人でできるでしょ?」
「ウォンッ!!」

 レイトのお願いにウルは元気よく返事をし、そのまま走っていった。
 レイトが収納魔法を発動して調理器具を出して準備していると、コトミンがやって来て尋ねてくる。

「その魔法……もしかして収納魔法?」
「ああ、そうだけど?」
「じゃあ、あなたは支援魔術師?」
「そうだよ」
「……支援魔術師の職業の人、初めて見た」

 コトミンは、レイトが不遇職の支援魔術師だと知っても態度を変えなかった。大抵の人は不遇職と分かると、彼を馬鹿にしてきたというのに。
 それからコトミンは、そのままじっとレイトが調理する様子を観察していた。

「それ、何してるの?」
「さっきもやって見せたけど、料理だよ」
「そのリョウリをしたから、魚がおいしくなったの?」
「魚というか、食べ物をおいしくできるよ。興味があるなら少しやってみる?」
「んっ」

 コトミンは料理に興味を抱いたようだ。
 その後、レイトは自分達の昼ご飯を用意しつつ、コトミンに料理の基本を教えていった。彼女は意外なことに手際てぎわが良く、魚の串焼きの仕方などすぐに覚えてしまうのだった。


 ◆ ◆ ◆


 食事を終えたレイトとコトミンは、川辺に座ってお互いのことを話し合った。
 レイトは、自分がこの村の人間だと説明した。
 実際に、今、村を管理しているのは彼なので嘘ではない。また、たまに都市に赴いて冒険者稼業をしていることも伝えた。
 コトミンも、自分のことを語ってくれた。

「私は、湖に住んでいた。お母さんと一緒に住んでいたけど、喧嘩けんかして逃げ出してきた。だけど、自分がどこにいるのか分からなくなって、気づいたらこんな所まで来てた」
迷子まいごってことか……ちなみに、どれくらいお母さんと会ってないの?」
「……三年ぐらい?」
「三年!?」
「食べ物には困らなかったけど、ずっと一人で過ごすのは少し寂しかった……」

 コトミンは極度の方向音痴ほうこうおんちなのか、もはやそういう問題ではないかもしれないが、とにかく三年も彷徨さまよっているらしい。
 レイトは、彼女の境遇に驚いたものの、母親と会っていないのは自分も同じだった。
 もっともレイトの場合は、コトミンと違って自分で家を抜け出してきた。ただし、母親には自分が生きていることを伝えたいと思っていた。
 レイトは、飄々ひょうひょうと語るコトミンに尋ねる。

「それなら、お母さんも心配してるんじゃない?」
「分からない……もしかしたら、もう私のことを忘れてるかもしれない」
「そんな馬鹿な……」
「……だって、私もお母さんの顔を半分ぐらい忘れてるから」
薄情はくじょうな娘だな、おい!!」
「てへっ」

 コトミンはそう言うと、笑みを浮かべた。
 レイトはコトミンに呆れながらも、彼女との会話を楽しんでいた。
 その後、彼はコトミンが身に着けている、スクール水着のような不思議な服に視線を向けると、それについて尋ねる。


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