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最終章 王国編

聖痕の守護

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「ぐっ……貴様ぁっ!!我が肉体に何をした!?」
「えっ……」
「おい、どうした?何を勝手に一人で騒いでいる?」
「黙れ!!くそ、肉体が……!!」


レミアに触れたオウネンは煙を噴き出している右手を抑え、忌々しそうにレミアを睨みつける。だが、レミア自信は別にオウネンに対して何かをしたわけではなく、勝手に触れて苦しむ彼の姿に戸惑う。二人の様子を見ていたゴウライも不思議そうな表情を浮かべ、何が起きたのか理解できなかった。

オウネンは右手を抑えながらレミアの額に浮かんだ「光の十字架」を確認し、あの紋様が自分の能力を拒んだことを知る。理由は不明だが、レミアの肉体は何故か闇属性の魔術を受け付けず、呪術師であるオウネンの能力も利かない事が発覚する。


「この力……覚えがあるぞ、200年前にあの「聖女」が持っていた能力だ!!何故それを貴様が……!?」
「聖女?200年前?一体何を言っているのですか……?」
「どうした?顔色が悪いぞ……いや、それは最初からか」
「やかましい!!くそ、右腕が……!!」


自分の力が弾かれた事にオウネンは屈辱を覚える一方で、過去に一度だけ同じ現象を経験している事を思い出す。王国に訪れた陽光教会の「聖女」と呼ばれる女性に触れたとき、彼女の美貌に懸想を抱いたオウネンは聖女に手を出そうとした。だが、その時にオウネンは今のレミアのように能力が弾かれてしまう。

これまでに自分の能力が失敗した事など聖女に触れたときと今のレミアに触れたときにしかなく、オウネンは自分の能力が弾かれた理由を200年越しに悟る。それはレミアの浮かんだ「光の十字架」が原因であると悟り、原理は不明だがこの紋様を持つ人間は闇属性の魔術を受け付けないのだ。


「この忌々しい光……そうか、やっと合点がいったぞ!!お前の能力は聖痕か!!」
「聖……痕?」
「聖痕、だと?何だそれは?」


オウネンの言葉にレミアとゴウライは意味が分からずに首を傾げるが、オウネンは右手を抑えながら後退り、これ以上にレミアに触れるのは不味いと判断した。一度触れただけでオウネンの右腕は朽ち果て、遂には皮膚が剥がれ落ちていく。


「い、いかん……このままでは、肉体が持たん……」
「おい、貴様さっき200年前と言ったな。まさか貴様はそんなに長く生きているのか?」
「有り得ません。オウネンは人間のはず……森人族や人魚族でもなければそれほど長くは生きられません」
「くそっ……ならば貴様だ!!」
「ぬう?」


レミアを操る事は不可能だと判断したオウネンはゴウライに視線を向け、彼女の元に左腕を近づける。一体自分に何をする気なのかとゴウライは不思議がると、オウネンは笑みを浮かべた。


「貴様がダークエルフであった事は都合が良い……だが、お前の様に自我の強い人間を操るのは骨が折れるがな」
「ぬおっ……!?」
「ゴウライさん!!」


オウネンがゴウライの額を掴んだ瞬間、言葉では表現出来ない未知の感覚に襲われ、ゴウライは意識を失った――






二人の言葉が聞こえていないようにオウネンは身体をふらつかせながら出入口に向かい、その様子をレミアとゴウライは訝し気な表情を浮かべる。結局、オウネンが何のために現れたのか分からないまま立ち去ってしまった――




――その一方、別の牢獄では両手両足を鎖で捉えれたナオがヨツバ王国の王族たちと共に拘束されていた。こちらの方では多数の見張りが存在し、彼等を逃さないように厳重な警戒態勢が施されていた。


『ナオ殿……身体は無事か?』
『デブリ王、あまり精霊魔法を使用するのは控えた方が……貴方の身体が持たない』
『大丈夫です。今回は僕が風の精霊を操っています』
『でも、兵士に気付かれないように話すときは小声でお願いしますわ』


ナオは別の牢に囚われているヨツバ王国の王族たちに視線を向け、彼等が作り出した風の精霊を利用して兵士達に聞かれないように会話を行う。精霊は視認できるのは精霊魔法の使い手のみなので兵士達の目には精霊は確認できないが、ナオはその存在を直に感じ取る事が出来た。


『それにしてもナオ殿が精霊の力を感じ取れるとは……もしやナオ殿は森人族の血筋を継いでいるのでは?』
『ああ、私の母親はダークエルフだったと聞いている。だからきっとその影響だろうな』
『ダークエルフ!?まだ生き残りが居たのですね……!!』


ナオが精霊を感じ取れるのは彼女の母親が森人族のなかでも希少な存在であるダークエルフであった事が判明し、彼女の肌色が他の兄妹と違うのはダークエルフ特融の色合いである。レナと動揺に森人族の血筋を継いでいるナオも精霊を視認する事が出来るため、風の精霊を通して牢に囚われている者同士で話し合う。


『ナオ殿、身体の方はどうじゃ?大分痛めつけられていたようだが……』
『正直、骨が何本折れているのか分からないぐらいです。ですが、不思議と痛みはそれほどありません』
『大丈夫ですの!?』
『戦闘職の人間は「根性」や「気合」の技能を持つので痛みには耐える事は慣れていますから……』
『さ、流石は戦姫……』


これまでに幾度か拷問を受けたナオだが、その間に一度も弱音は吐かず、毅然とした態度を保ち続けた。だが、幾ら彼女が痛みに耐えても肉体は限界が近く、このままでは身体が壊れてしまう。どうにかデブリたちも彼女助けたいところだが、残念ながら地下牢のような密封された空間では彼等の得意とする精霊魔法も満足に扱えない。


『お兄様、どうにか拘束を解くことが出来ませんの?』
『だめだ、どうやらこの枷は僕達の魔法の力を乱す効果があるようだ……これが取り付けられている間は精霊魔法以外の魔法は使えそうにない』
『ぬうっ……おのれ、儂の若い頃ならばこの程度の拘束など引きちぎれたのだが……』


デブリ、アルン、ノルの3名は特殊な枷によって拘束され、魔法の力を封じられていた。辛うじて精霊魔法を使用する事は出来るが、先述の通り密封された空間では風の精霊の力は満足に扱えない。後期があるとすれば扉が開かれた時に外部から精霊の力を呼び寄せる事が出来るが、頑丈な枷を破壊する程の力は期待できない。

ナオの方も連日の拷問で身体が痛めつけられ、まともに動く事も出来ない。どうにか脱出を試みようとしたが、それを考慮して王妃は最も警戒が厳重な地下牢に彼女を捕らえる。


「おい、意識はあるか?面会だぞ」
「っ……面会だと?」


唐突に兵士に話しかけられたナオは精霊の存在に気付かれたのかと焦ったが、兵士は地下牢の出入口に視線を向けると、扉が開け開かれてナオの双子の妹である「シオン」と「リアナ」が現れた。二人の顔を見た瞬間、ナオは血相を変えて双子の名前を叫ぶ。


「シオン、リアナ!!お前達は無事だったか……」
「お姉様!!大丈夫!?」
「なんて酷い……!!」


二人の妹は心底心配した表情を浮かべてナオの元へ駆けつけ、彼女に抱き着く。愛する妹達が無事だった事にナオは安心する一方、どうして二人がここに訪れたのか疑問を抱く。


「どうして二人がここに……」
「お姉様、私達はお母様に言われてここに来たの!!」
「母上様からお姉さまを説得するように言われてここへ参りました」
「王妃が……?」


妹達の言葉にナオは疑問を抱き、どうして双子を送り込んだのか理由が分からない。そんな彼女に二人は悲痛な表情を浮かべて縋りつく。


「お姉様、どうか私達のお願いを聞いて下さい……そうすれば今すぐにでもお姉様を自由にさせる事が出来ます」
「お、お願い?一体何を……」
「お姉様……どうかお母様と仲直りしてください!!そうすれば三人一緒にまた過ごす事が出来ます!!」
「仲直り……だと」


ナオは双子の言葉に意味が分からず、どうして妹達がそのような事を言い出したのかと戸惑うが、双子は真剣な表情でナオの説得を行う。
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