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最終章 前編 〈王都編〉

処刑日の変更

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「ヴァルキュリア騎士団だった人間は現在は王城の立ち入りも禁止されている……我々が姫様に接触する事も許されていない。だが、我々は姫様の無実を信じている。何としても処刑を回避するように動いているが、既に王国貴族の殆どは王妃に寝返ってしまった……打つ手がない」
「そんな状況だったんすか……」
「そんなの酷すぎるよ……お姫様が可哀想」
「でも、ここで貴方達に会えたのは陽光神様の導きだ!!どうか力を貸してほしい……姫様を救い出すためならば何でもするぞ」
「わぅんっ!!お姫様を救うためなら私も何でもします!!」
「じゃあ、とりあえず声を抑えてくれない?」


二人の話を聞き終えたレナ達は現在の王国の状況が予想以上に王妃側に有利である事を知り、マリアの手回しでナオの派閥に属していた貴族達も寝返ったという話から王都内でレナ達に協力してくれそうな存在は革命団とヴァルキュリア騎士団の隊員達しかいない事が判明する。氷雨の支部ギルドに存在する冒険者達も兵士に見張られているらしく、どちらにしろマリアが不在の以上は彼等に協力を求めるのも難しい。

現状ではレナ達の戦力は緑影やヴァルキュリア騎士団の隊員を含めたとしても数十人程度でしかなく、その一方で王都を守護する王国軍は数万は存在するだろう。そう考えると現状の戦力では力尽くでナオを奪い返す事は出来ず、処刑日の前に王城に潜入して彼女達を救い出す以外に方法は残されていないように思えた。


(アイリスとはまだ交信出来ない、アイリスから情報を得られれば簡単に侵入できるのに……)


肝心のアイリスとの交信は未だに上手くいかず、まだ風の聖痕がレナに馴染んでいないのが原因なのか、あるいはアイリスが交信出来ない状態に陥っているからである。もしかしたら既にホネミンを捕縛した王妃が王都に帰還していた場合、レナはアイリスと交信する事が出来ない。


(いや、今はナオを救い出す事に集中しよう。まずはバルたちと合流しないとな……革命団の居場所を知っていそうな人物となると、やっぱりこの街に潜伏している緑影か)


レナはラナから受け取った緑笛を取り出し、これを使用すれば既に王都に潜伏している緑影の森人族と連絡を取れる。ラナは地下迷路へ引き返して恋人を迎えに行ったのでまだ街に戻っているとは思えないが、他の緑影の面子と会う事になるだろう。


「革命団の情報は知らないんすか?」
「噂だけなら耳にした事がある。だが、最近になって王国兵が多くの一般人を捕縛したらしい……罪状は知らされていないが、恐らく彼等が革命団の一員だろう」
「え!?じゃあ、バルさんも……!?」
「いや、捕まった人間の中にバル将軍……今は違うか、ともかくバルさんの報告は届いていない。今も王都に居るとしたら何処かで身を隠しているだろう」
「バルは無事か……その捕まった人たちは何処に?」
「当初は王城に連行される予定だったが、王都の南に存在する刑務所へ送られた。拷問して他の革命団の情報を聞き出すつもりだろう」
「刑務所?」
「数年前に設立された新しい刑務所だ。そこでは数百人の囚人が収監されている。私も何度か入った事があるが、相当に酷い拷問を受けているのか囚人の殆どは生気を失っていたがな……」


王都に刑務所まで存在する事にレナは驚くが、刑務所に送り込まれた革命団の人員から情報を聞き出す事も難しく、流石に監獄都市のように無茶は出来ない。レナ達がこの王都に既に侵入している事を王妃側に知られたら捕まっている3人の命も危うく、派手な行動は起こせない。

現状では革命団へ繋がる手掛かりはなく、緑影と接触するしかない事を理解したレナはリノンとポチ子が現在滞在している場所を聞き出す。


「二人は今は何処で寝泊まりしている?この王都に家があるの?」
「少し前まではヴァルキュリア騎士団の宿舎で寝泊まりしていたが、今は解体された事で団員達は指定された宿屋で過ごしている。全員が別々の宿で暮らしている事から満足に連絡も取る事も出来ない」
「でも、私は騎士見習いだったのでリノンさんと同じ部屋で過ごしてます」
「という事は二人だけは一緒に行動しているわけか……その宿の居場所は?」
「いや、宿に訪れるのは止めた方が良い……我々も監視されている可能性が高い。今も他の兵士の目を盗んでここに来たが、これ以上に持ち場を離れるのは不味い」


リノンとポチ子は勤務の間は基本的に他の兵士と行動を共にしているらしく、二人が宿泊している宿屋も不用意に訪れるのは危険だと忠告する。しかし、折角出会えた数少ない味方と連絡を取れないのは不便のため、レナは今後もどうにか連絡を取れる方法を考える。するとエリナがレナの考えを察したようにある提案を行う。


「あの、リノンさん達の部屋に泊まっている宿屋に窓はありますか?」
「窓?勿論あるが……」
「なら居場所だけでも教えてくれたら連絡を取れるかもしれないっす。兄貴、前にあたし達が国王様達の部屋から盗み聞きした事を覚えてます?」
「あ、そうか!!エリナの風の精霊なら会話も出来るの?」


以前に冒険都市にヨツバ王国の一行が訪れた際、レナはエリナの精霊魔法を利用して国王の部屋の話を風の精霊の力で盗聴していた事を思い出す。風が通れる隙間さえ存在すればエリナが操る風の精霊の力で別の場所に存在する人物の会話を聞き取る事や逆に話しかける事も出来るため、リノン達の宿泊先さえ分かれば会話だけでも行えるだろう。


「そんな便利な魔法があるのか!?流石は森人族……我々の常識を超えた魔法を使えるんだな」
「別にそんな大層な魔法でもないですけど……兄貴、どうします?」
「それじゃあ、後で二人の泊っている宿に向かうよ。何時でも連絡を取れるように窓だけは開けておいてね」
「分かった。私達はもうすぐ仕事が終わる……必ず来てくれ」
「お兄さんたちも頑張ってください!!わふっ!!」


二人は怪しまれないように仕事に戻ると残されたレナ達も代金を支払って酒場を後にする。ヴァルキュリア騎士団と合流出来たのは幸運だったが、残念ながら革命団の情報は入手できなかった。しかし、二人の話を聞く限りではバルが健在である事は間違いなく、彼女の居場所を探すしかない。


「兄貴、情報を集めるのも重要ですけど、今日の内にうちらが隠れられる場所を探さないと不味いんじゃないっすか?」
「そうだよ。レナ君の空間魔法は起きている間にしか発動出来ないんでしょ?そろそろ休まないとレナ君の身体が……」
「まだ大丈夫だよ……といいたい所だけど、確かにそろそろきついかな」


深淵の森の屋敷に「黒渦」を発現させたままの状態で行動するレナは常に魔力を消耗し続けており、これ以上に魔法を維持するのは身体がに負担が大きい。もしも意識を失えば魔法が強制的に解除されるため、残念ながら探索と情報収集は切り上げて仲間全員が身を隠せる事が出来る場所を探す事にした。

当然だが宿屋関係の場所は使用する事は出来ず、既に王国兵も街中の宿屋に宿泊している人間達の取り調べを行っているだろう。変装しているとはいえ、指名手配されているレナ達が取り調べを受ければ正体を気付かれるため、下手に公共の宿泊施設は使用できない。

宿屋以外で大人数が目立たずに過ごせる場所など広い王都でも限られており、最悪の場合は時計塔に引き返して拠点とする方法もあるが、出来れば王城の近くで即座に行動できる場所が好ましい。
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