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最終章 前編 〈王都編〉

石化からの解放

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「う、ぐぅっ……!?」
「ラナ!!良かった……元に戻ったのか」
「こ、これは……どういう事だ?」


メドゥーサを倒した事で石化が解除されたらしく、石像から元の状態に戻ったラナは戸惑いの表情を浮かべながら自分の両手を見つめ、すぐに彼女はレナの傍に倒れているメドゥーサの死体を発見して驚愕の表情へと変わる。


「まさか、メドゥーサを倒したのか!?あの伝説の魔人を……!?」
「伝説という程たいした奴でもなかったけど……これなら吸血鬼の方がまだ強敵だったよ」
「……何という奴だ」


反鏡剣を鞘に収めながら何事もなかったように手を伸ばしてきたレナに対してラナは苦笑いを浮かべ、今度はその手を握り締めて起き上がる。そして胴体と首が切り離されたメドゥーサに視線を向け、その大きく見開かれた瞳を見て冷や汗を流す。

死亡した時点でメドゥーサの石化の魔眼は効果を失ったらしく、頭から抜け落ちた二つの眼球はまるで宝石のように光り輝いていた。不思議に思ったレナは直に触れないように気を付けながら布をかぶせて拾い上げると、ラナが掌を翳して魔眼の正体を調べる。


「これは……経験石だな」
「経験石?それって大迷宮の魔物が落とす経験値が得られる魔石?」
「そうだ。この魔眼を破壊すれば経験値を得られるだろう。だが、これほどの魔力を帯びた魔石ならば他に使い道があるかもしれないがな……どうする?」
「う~ん……」


レナはステータスを確認すると数百年も生き続けた魔人族を倒した影響なのか、レベルが73にまで上昇していた。更にメドゥーサの魔眼を破壊すればレベルが上昇するかもしれないが、魔眼から感じ取れる魔力は尋常ではなく、ラナの言う通りに何か別の使い道があるかもしれない。


「この魔眼を使えば他の生物を石化するとか出来るかな?」
「それは無理だろう。メドゥーサ以外の存在がその魔眼を扱う事は出来ない。勇者が残した特別な魔道具を使えば可能性はあるかもしれないが……」
「そっか、なら持っていてっも仕方ないからここで壊すか」


石化の魔眼の能力が扱えるようになれば便利だと考えたが、流石にそこまで都合が良い話はなく、レナは魔眼を破壊するために剣を抜こうとした。だが、その際にメドゥーサを倒した事で石化したラナが元に戻ったのならば、他の石像も彼女のように解放されたのではないかと気づく。


「ちょっと待って、メドゥーサを倒せば石化が解除されるのなら……この場所は危険じゃないの?」
「いや、それは大丈夫だろう。通路を見て見ろ、まだ奴等は石化が解けていないだろう?」
「あれ、本当だ……どうして?」


ラナの言葉を聞いて通路に放置された石像に視線を向けると、小刻みに震えている石像は存在したが殆どの石像は全く動かず、石化が解除される様子はない。不思議に思ったレナは小刻みに震えているゴブリンの石像に視線を向けると、石像のゴブリンは睨みつけるように目元を鋭くさせる。


「ッ……!!」
「……こいつは少し動いているけど、完全には石化は解除されていないみたいだけど」
「石化された生物はメドゥーサが死ねば石化から解除される。だが、石化が完全に解除されるまでは石化していた期間によって異なるんだ。私の場合は石化してすぐにメドゥーサが死んだから元に戻れたが、こいつらは何十年、何百年も前に石化された魔物達だろう。全ての石像が石化から解除されるまでは少なくとも数年はかかるだろう」
「なるほど、石化していた時間が長いほどに解除も時間が掛かるのか」


石像とされた生物はメドゥーサが死亡した事で徐々に意識を取り戻しつつあるが、ラナの話では彼等が完全に解放されるまでは時間を必要とするらしく、今の内に王都へ向かう方が良いだろう。しかし、先に進む前にレナはラナに途中で出会った緑影の事を問い質す。


「ねえ、ラナの恋人はどうするの?一緒に連れて行くの?」
「……いや、まだ彼は元に戻ってはいないだろう。それに今はそんな余裕はない、お前を王都まで案内する必要があるからな」
「本当にいいの?」
「ああ……お前を案内した後、私が迎えに行く」


20年も前に石像にされた恋人が元に戻るという事実にラナは笑みを浮かべるが、今は喜んでいる暇はなく、当初の目的通りにレナを王都まで案内する事を優先する。恋人の事が気掛かりなのは事実だが、約束を重んじる森人族であるラナはレナを連れて王都へ続く道を案内した。

移動の途中、何体か小刻みに震える石像を発見したが、完全に石化から解除された魔物とは遭遇せずに二人は王都へ繋がる通路を進む。地下迷路から入ってから約1時間後、遂に二人は王都へ続く梯子の前に到着した。


「この梯子を登れば王都に存在する今は使用されていない時計塔へ辿り着ける。ここから先はお前ひとりでも大丈夫だろう」
「そうか……ここまでありがとう」
「……彼を回収した後、仲間達を連れて私達も後で王都へ入る。もしも連絡を取りたかったらこれを使え」


ラナは懐から「葉っぱ」のような形をした笛を取り出してレナに渡す。不思議そうにレナは笛を受け取ると、ラナは使い方を説明する。


「それは緑影の人間だけが持つ「緑笛」だ。その笛を吹けば我々だけにしか分からない音色が鳴り響く。本来は仲間同士の通信道具のために用意した代物だが、もしも我々の力が必要になればそれを吹け。すぐに仲間が駆けつけるだろう」
「そんな物を貰っていいの?」
「与える気はない、貸すだけだ……必ず生きて返せよ」


緑笛と呼ばれる魔道具を差し出したラナにレナは驚くが、彼女は最後に笑顔を浮かべて通路を引き返す。どうやら今回の件で彼女の信頼を得たらしく、緑笛を懐にしまったレナは梯子に視線を向け、覚悟を決めて梯子を登る。


「……ここが時計塔か」


梯子を登り切ると出入口を塞いでいた石板を退かすと、レナは時計塔の1階だと思われる広間へ辿り着く。どうやら既に使われていない施設らしく、時計塔の内部は埃まみれ薄汚れていた。


「げほげほっ……掃除ぐらいしろよ」


口元を覆いながらレナは光球の魔法を発動させて周囲を照らすと、どうやら外部から完全に隔離されているのか窓や扉には無数の板が張り付けられており、外の様子も確認する事は出来ない。だが、ここから緑影の面子が王都へ侵入していた事を考えると何処かに外へ通じる抜け道があるのは間違いなく、光球の魔法で足元を照らす。

光の球体が床を照らすと、埃まみれの床に足跡が残っていた。恐らくは先に侵入した緑影が残した足跡で間違いなく、複数の足跡が上に続く階段に続いている事に気付いたレナは階段を移動する。気配感知や魔力感知の能力で周囲を警戒しながらもレナは階段を登ると途中で開け開かれた窓を発見する。


「なるほど、ここから出入りしていたのか……うわ、どんだけ高いんだここ!?」


窓の外の光景を確認すると王都の全体を確認出来る程の高度がある事が発覚し、恐らくは全長が50メートルは存在する時計塔の中にレナは存在した。窓から外の様子を確認する限り、既に時刻は夜を迎えていたらしく、ここから先は慎重に進む必要があるのでレナは窓から飛び降りて風の聖痕の力を利用して着地の寸前に身体を浮き上がらせ、音も立てずに地上へ降り立つ。

幸いにも時計塔の周りには樹木が埋め込まれていたので人目には付かず、即座にレナは木陰に移動して気配感知と魔力感知の能力を利用して周囲の様子を伺う。今のところは人間の気配は感じられず、待ち伏せされている様子はない事を確認するとレナは空間魔法を発動させた。
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