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最終章 前編 〈王都編〉

火竜の経験石の破壊

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「お見事です、レナさん」
「え、カイさん!?もう起きて大丈夫なんですか!?」
「ええ、大分楽になりました……それにしても先ほどの剣技、やはり貴方は私の予想通りに凄い御方でした」


地面を陥没させる程の剣圧を生み出したレナの前にカイが現れ、杖を突きながら地面の様子を調べる。仮に全盛期の自分であろうとレナと同じ真似が出来たとは思えず、カイは安心したように座り込む。


「レナさんにお願いがあります……私の前で火竜の経験石を破壊してくれませんか?」
「えっ……」
「どうかお願いします」


カイの言葉にレナは戸惑うが、その真剣な表情を見て断れないと思ったレナは家の中の金庫から火竜の経験石を運び込み、切り株の上に乗せる。それを確認したカイは頷き、数十年間自分が捨てる事が出来なかった経験石の破壊をレナに願う。


「さあ、破壊してください……これが壊れたとき、もう貴方に勝てる剣士はいないでしょう」
「カイさん……本当にいいんですか?」
「ええ、貴方なら構わない……どうかお願いします」


経験石の破壊を促されたレナは反鏡剣を握り締め、火竜の経験石と向かい合う。経験石は魔物の命の源と言えるため、非常に頑丈で破壊するのは困難な代物である。しかも竜種の経験石となると下手をしたら伝説の金属級に硬度を誇る可能性もあるが、今のレナはどんな物でも切り裂ける自信があった。


(これを壊せば俺は……あいつと並べる)


土竜の経験石を破壊したミドルの事を思い出し、無意識に反鏡剣を握り締める力を強める。そんなレナの様子を見てカイは微笑み、黙って頷く。


(でも……本当にいいのか?)


火竜の経験石を前にしながらレナは反鏡剣に視線を見つめ、本当に自分が破壊していいのか悩む。この経験石はカイが大切な仲間を犠牲にして入手した代物であり、彼にとっては仲間の形見のように考えているかもしれない。だが、カイ自身が破壊を望んでいる以上、ここで拒む事は出来ない。

それでもレナは反鏡剣に視線を向け、思い直したように鞘に納める。そんなレナの行動にカイは驚いた表情を浮かべるが、レナはカイに向き直って頼みごとを行う。


「あの……カイさんの剣を貸してくれませんか?」
「私の剣……?」
「カイさんの刀牙を貸してください……きっと、あの剣なら絶対に破壊出来ると思うんです」
「……なるほど、ではお願いします」


レナの言葉を聞いてカイは自分に気を使っている事を悟り、苦笑いを浮かべながら承諾する。そして家の中から折れた大剣を手にしたレナが戻ってくると、今度こそ火竜の経験石と向かい合い、先ほど習得した「一刀両断」の戦技を発動させるために瞼を閉じる。



「一刀……両断!!」



瞼が開かれた瞬間、レナは全身全霊の力を込めて大剣を振り下ろし、強烈な一撃を生み出す。折れた大剣の刃が竜種の経験石に触れた瞬間に衝撃波が走り、経験石は粉々に砕けちった。その様子を見たカイは目を細め、自分の扱っていた大剣が経験石を破壊した光景に無意識に涙を浮かべた。

これまでの人生でカイは何度も火竜の経験石を捨てようとしたが、これを捨てれば失った仲間達の事を忘れてしまうのではないかと考えてしまい、今に至るまで捨てきる事が出来なかった。だが、レナの手によって破壊された経験石を見た瞬間、自分の中の心の重荷が消えたような感覚を覚え、失った仲間達の事を思い出しながらカイは呟く。


「ああっ……すまなかった、皆……」


自分の無謀に付き合わせて死んでしまった仲間達の事を思い出しながらカイは涙を流すと、レナに視線を向けて自分の変わりに経験石を破壊してくれた彼の変化を目にする。


「うぐっ……ああっ……!?」


大量の経験値が身体に流れ込んだ事でレナ身体を抱きしめるように膝を付き、身体が発熱している事を知る。まるで体内の血液が沸騰しているような感覚に陥るが、同時にこれまでにない程に力が漲り、髪の毛が伸びていく事に気付く。

やがて身体の熱が収まった頃にはレナは全身から汗を流し、髪の毛が腰の長さまで伸びていた。どうやらレベルが上昇した事で肉体にも変化が生じたらしく、体内の魔力が一気に高まった影響で髪の毛も伸びたらしい。



――この世界では魔力が大きい人間は髪の毛が伸びやすい傾向があり、全種族の中でも魔法の力に優れている森人族の場合は殆どが長髪である。急激にレナの髪の毛が伸びたのはレベルの上昇によってステータスが成長した事による影響で間違いなく、今現在のレナは最も魔力が高まっている状態を示していた。



自分の肉体の異変に戸惑いながらもレナは顔を起きあげると、そこには安らかな笑顔を浮かべたカイが見つめている事に気付き、レナは笑顔を浮かべてカイに近寄った。


「やった……カイさん!!」
「…………」
「カイ、さん……?」


だが、カイの元に近付いたレナは彼が返事を返さない事に疑問を抱き、傍に近寄るとカイの異変に気付く。開かれた瞳の瞳孔が合っておらず、ぴくりとも動かない。その様子を見てレナは目を見開き、ゆっくりとカイの身体に手を伸ばして彼が座ったまま死んでいる事に気付く。


「カイさん……そんな、どうして……!!」


長年の悲願を果たされた結果、満足してしまったのかカイはレナに笑顔を浮かべた状態で逝き、残されたレナは恩人であるカイの胸に顔を埋めて涙を流した――





――カイの遺体は彼の家の庭に埋めた後、全てが終わった後にちゃんと埋葬する事を心に決めてレナは空間魔法を駆使して深淵の森の屋敷に戻ると、そこには仲間達が既に待ち構えていた。無事に戻って来たレナを見て全員が喜ぶが、レナの表情を見て全員が戸惑う。


「お、お帰りレナ……な、何かあったのか」
「レナ、お前……凄い顔をしているぞ」
「……レナ?」
「ああ、いや……ちょっと色々とあってね」


拾い集めた火竜の経験石の破片を収めた袋を地面に置くと、空間魔法を解除してレナはその場に座り込み、慌てて全員が駆け寄る。一体レナの身に何が起きたのか分からなかったが、仲間の顔を見て安心したのかレナは意識を失う。




それから数時間後、レナが目覚めたときには既に翌日の朝を迎えており、ナオの処刑日まで既に4日を切った。レナの身を案じて集まっていた仲間達にレナは自分が大丈夫な事を伝えると、全員を食堂に移動させてこれからの事を話し合う。


「そろそろ王都に向かう準備をした方が良いと思う。この場所も何時までも安全とは言い切れないし、拠点を王都へ移そうと思うけど皆はどう思う?」
「王都ですか……確かにそれがいいかもしれません。この場所から王都へ向かうにも時間が掛かりすぎますし、拠点を変えるのは間違いではないと思います」
「けどさ、王都には王国軍がいるんだぞ?それに拠点を移すといってもこれだけの人数が隠れられる場所が王都にあるのか?」


バルトロス王国の王都には数万人の王国兵が存在し、当然だが王城にはミドルを含めた大将軍や王妃の配下も存在する。そんな場所に拠点を移すとなると見つかる危険性が高いが、処刑日までナオ達を救い出す事を考えれば拠点を王都周辺に移す事は悪い考えではない。

流石に王都内の警備も高まっているはずなので正面から入る事も難しく、仮に王都に侵入できても数万人の王国兵がレナ達の存在を探しているだろう。だが、どうにか王都内に潜入する事が出来れば処刑日を迎えても迅速に動く事も出来るため、危険ではあるがレナは王都へ拠点を移す事を決意した。
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