451 / 2,083
放浪編
居合の弱点
しおりを挟む
「これは……!?」
「き、消えた!?」
「違う、あっちにいるぞ!!」
縮地を発動したレナは転移魔法のように一瞬で違う場所へ移動し、傍目から見たら瞬間移動のように姿を消したようにしか見えない。だが、剣聖の領域に足を踏み入れている看守長は冷静にレナの姿を捉え、縮地の移動先を予測して迎撃の態勢へ入る。
(無駄だ……縮地は万能じゃない)
高速移動が行える縮地をレナが覚えていた事に驚きはしたが、看守長は焦る様子も見せずに刀の柄に手を伸ばし、瞼を閉じて「心眼」を発動させる。生物の力を感じ取る事で相手の位置を捉える心眼ならば縮地を発動させた状態のレナの位置も捉える事が可能であり、刀の間合いに入った瞬間に切り伏せる自信があった。
縮地の最大の弱点は移動の最中は使用者の意識が存在せず、別の地点に移動する際の軌道を先読みして攻撃を行えば回避する事は出来ず、不用意に看守長の刀の間合いに移動しようとした瞬間に切り裂かれるだろう。居合の戦技は「疾風剣」と「抜刀」さらに技能の「迎撃」を組み合わせた高度な複合戦技であり、剣聖の領域に到達した人間でも扱える者は少ない。
最速の剣技という点では居合に勝る戦技は存在せず、その居合をさらに独自に工夫を加えて風の斬撃を生み出すのが剣聖のハヤテである。だが、看守長の場合は彼女とは違い、純粋に剣技だけを磨いて居合を生み出す。
(僕の秘剣「弐連斬」を味わせてあげよう)
本来は一太刀しか生み出す事しか出来ない居合の戦技だが、看守長は長年の修練によって一度の攻撃で二つの太刀を浴びせる事が出来る「弐連斬」と呼ばれる複合戦技を生み出す。居合の戦技に更に「連撃」の戦技を加えた看守長だけが扱える秘剣だが、その戦技を見た人間はかつて一人もいない。生み出したのは良いのだが実際に扱う場面がなく、そもそも看守長に奥の手を使わせる程の強者がここ数十年の間に遭遇しなかった。
(さあ、来い……!!)
心眼でレナの位置を正確に読み取り、攪乱させるつもりなのかあちこちを縮地で移動しながら徐々に接近するレナに対して看守長は笑みを浮かべ、刀の間合いに入る瞬間を待ちわびる。
「行くぞ!!」
レナの声が看守長の耳元に届き、わざわざ攻撃を仕掛ける前に合図を与えるように大声を上げたレナに看守長は呆れるが、刀の間合いに近づいてくる気配を感じ取って戦技を発動させようとした。
「弐連――」
「土塊!!」
だが、レナが看守長の刀の間合いに入る寸前、唐突に看守長の右足の地面が盛り上がり、体勢を大きく崩してしまう。その結果、看守長が降りぬいた刃は接近するレナの頭上を通り過ぎてしまい、虚しく空を切る。
「何っ!?」
「その技は……弱点を知っている!!」
まさか足元の地面が盛り上がるとは予測できなかった看守長は目を見開くと、何時の間にか靴を脱いで裸足の状態で自分の傍に接近しているレナに気づき、咄嗟に後ろに飛ぼうとしたが複合戦技を発動した直後の肉体の硬直によって身体が動かずにまともに攻撃を受けてしまう。
「加速剣撃、旋風!!」
「ぐはぁっ!?」
「看守長!?」
看守長の胴体にレナの振りぬいた反鏡剣の刃が放たれ、鮮血が迸らせながら看守長は膝を着く。その際にレナの右足に魔力の光が滲んでいる事に気付き、どうして自分の居合が敗れたのかを悟って呆然とした表情を浮かべる。
「まさか……足で、魔法を……!?」
「……正解」
レナが縮地を発動させて看守長の周囲を動き回っていたのは相手を攪乱させるためだけではなく、両足の靴と靴下を脱ぎ捨てるために激しく動いていた。素足の状態ならば足の裏から地面に魔法を発動させる事も容易く、攻撃する瞬間に初級魔法の「土塊」を発動させて看守長の足元の地面を操作して体勢を崩す事に成功した。
「馬鹿な……こんな、単純な手に命を懸けたのか……!?」
「本当はちょっと冷っとしたけど、前に似たようなことがあってね。成功するとは信じていたよ」
ほんの少しでもタイミングを誤ればレナが看守長の攻撃によって切り伏せられていただろうが、かつて剣聖のハヤテと対峙したときにもレナは同じ方法で相手の「居合」の戦技を打ち破っており、今回も成功する自信はあった。最悪の場合、相打ちにでも持ち込めば回復魔法を行える自分が有利だと判断して攻撃を仕掛けた。
それでも危険な賭けであったことは間違いなく、頭上に看守長の刀の刃が横切った瞬間は肝を冷やし、咄嗟に手加減する事を忘れて本気で看守長を切りつけてしまった。幸いにも吸血鬼である看守長は人間よりも頑丈な肉体を持っているので致命傷には至らず、胴体に大きな傷跡が生まれた程度で命に別状はない。
「信じられない……この僕が、こんな子供に……」
「まあ、言いたい事は分からないでもないけど、こっちも相当の修羅場をくぐってるんだよ……あんたは強者であっても勝てない敵じゃない」
これまでに多くの武人と戦ってきたレナにとっては看守長は決して勝てない相手ではなく、上手く隙を突いて勝利した。しかし、今回のような手が通じるのは一度限りであり、魔法の力を使わなければ看守長の「居合」を正面から打ち破る事はレナには出来なかっただろう。
「き、消えた!?」
「違う、あっちにいるぞ!!」
縮地を発動したレナは転移魔法のように一瞬で違う場所へ移動し、傍目から見たら瞬間移動のように姿を消したようにしか見えない。だが、剣聖の領域に足を踏み入れている看守長は冷静にレナの姿を捉え、縮地の移動先を予測して迎撃の態勢へ入る。
(無駄だ……縮地は万能じゃない)
高速移動が行える縮地をレナが覚えていた事に驚きはしたが、看守長は焦る様子も見せずに刀の柄に手を伸ばし、瞼を閉じて「心眼」を発動させる。生物の力を感じ取る事で相手の位置を捉える心眼ならば縮地を発動させた状態のレナの位置も捉える事が可能であり、刀の間合いに入った瞬間に切り伏せる自信があった。
縮地の最大の弱点は移動の最中は使用者の意識が存在せず、別の地点に移動する際の軌道を先読みして攻撃を行えば回避する事は出来ず、不用意に看守長の刀の間合いに移動しようとした瞬間に切り裂かれるだろう。居合の戦技は「疾風剣」と「抜刀」さらに技能の「迎撃」を組み合わせた高度な複合戦技であり、剣聖の領域に到達した人間でも扱える者は少ない。
最速の剣技という点では居合に勝る戦技は存在せず、その居合をさらに独自に工夫を加えて風の斬撃を生み出すのが剣聖のハヤテである。だが、看守長の場合は彼女とは違い、純粋に剣技だけを磨いて居合を生み出す。
(僕の秘剣「弐連斬」を味わせてあげよう)
本来は一太刀しか生み出す事しか出来ない居合の戦技だが、看守長は長年の修練によって一度の攻撃で二つの太刀を浴びせる事が出来る「弐連斬」と呼ばれる複合戦技を生み出す。居合の戦技に更に「連撃」の戦技を加えた看守長だけが扱える秘剣だが、その戦技を見た人間はかつて一人もいない。生み出したのは良いのだが実際に扱う場面がなく、そもそも看守長に奥の手を使わせる程の強者がここ数十年の間に遭遇しなかった。
(さあ、来い……!!)
心眼でレナの位置を正確に読み取り、攪乱させるつもりなのかあちこちを縮地で移動しながら徐々に接近するレナに対して看守長は笑みを浮かべ、刀の間合いに入る瞬間を待ちわびる。
「行くぞ!!」
レナの声が看守長の耳元に届き、わざわざ攻撃を仕掛ける前に合図を与えるように大声を上げたレナに看守長は呆れるが、刀の間合いに近づいてくる気配を感じ取って戦技を発動させようとした。
「弐連――」
「土塊!!」
だが、レナが看守長の刀の間合いに入る寸前、唐突に看守長の右足の地面が盛り上がり、体勢を大きく崩してしまう。その結果、看守長が降りぬいた刃は接近するレナの頭上を通り過ぎてしまい、虚しく空を切る。
「何っ!?」
「その技は……弱点を知っている!!」
まさか足元の地面が盛り上がるとは予測できなかった看守長は目を見開くと、何時の間にか靴を脱いで裸足の状態で自分の傍に接近しているレナに気づき、咄嗟に後ろに飛ぼうとしたが複合戦技を発動した直後の肉体の硬直によって身体が動かずにまともに攻撃を受けてしまう。
「加速剣撃、旋風!!」
「ぐはぁっ!?」
「看守長!?」
看守長の胴体にレナの振りぬいた反鏡剣の刃が放たれ、鮮血が迸らせながら看守長は膝を着く。その際にレナの右足に魔力の光が滲んでいる事に気付き、どうして自分の居合が敗れたのかを悟って呆然とした表情を浮かべる。
「まさか……足で、魔法を……!?」
「……正解」
レナが縮地を発動させて看守長の周囲を動き回っていたのは相手を攪乱させるためだけではなく、両足の靴と靴下を脱ぎ捨てるために激しく動いていた。素足の状態ならば足の裏から地面に魔法を発動させる事も容易く、攻撃する瞬間に初級魔法の「土塊」を発動させて看守長の足元の地面を操作して体勢を崩す事に成功した。
「馬鹿な……こんな、単純な手に命を懸けたのか……!?」
「本当はちょっと冷っとしたけど、前に似たようなことがあってね。成功するとは信じていたよ」
ほんの少しでもタイミングを誤ればレナが看守長の攻撃によって切り伏せられていただろうが、かつて剣聖のハヤテと対峙したときにもレナは同じ方法で相手の「居合」の戦技を打ち破っており、今回も成功する自信はあった。最悪の場合、相打ちにでも持ち込めば回復魔法を行える自分が有利だと判断して攻撃を仕掛けた。
それでも危険な賭けであったことは間違いなく、頭上に看守長の刀の刃が横切った瞬間は肝を冷やし、咄嗟に手加減する事を忘れて本気で看守長を切りつけてしまった。幸いにも吸血鬼である看守長は人間よりも頑丈な肉体を持っているので致命傷には至らず、胴体に大きな傷跡が生まれた程度で命に別状はない。
「信じられない……この僕が、こんな子供に……」
「まあ、言いたい事は分からないでもないけど、こっちも相当の修羅場をくぐってるんだよ……あんたは強者であっても勝てない敵じゃない」
これまでに多くの武人と戦ってきたレナにとっては看守長は決して勝てない相手ではなく、上手く隙を突いて勝利した。しかし、今回のような手が通じるのは一度限りであり、魔法の力を使わなければ看守長の「居合」を正面から打ち破る事はレナには出来なかっただろう。
0
お気に入りに追加
16,545
あなたにおすすめの小説
“金しか生めない”錬金術師は果たして凄いのだろうか
まにぃ
ファンタジー
錬金術師の名家の生まれにして、最も成功したであろう人。
しかし、彼は”金以外は生み出せない”と言う特異性を持っていた。
〔成功者〕なのか、〔失敗者〕なのか。
その周りで起こる出来事が、彼を変えて行く。
魔法使いじゃなくて魔弓使いです
カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです
魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。
「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」
「ええっ!?」
いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。
「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」
攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。