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放浪編
ゴンゾウの決意
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――同時刻、一人だけ宿舎の教室の一室で留守番を行っていたゴンゾウは上半身が裸の状態で教室の机をダンベル代わりに筋肉を鍛えていた。机の脚を人差し指と親指のみで持ち上げ、ゆっくりと両腕を上下に動かす。早く動くよりも時間をかけて動かす方が逆に負担が大きく、全身から汗を流しながらもゴンゾウは筋肉を鍛える。
「ふんっ……!!」
やがて十分に汗を掻いたと判断したのかゴンゾウはゆっくりと机を降ろすと、自分の掌を見つめて溜息を吐く。鍛錬に集中していてもミノタウロスの一撃を受けて敗北した時の光景が思い浮かび、自分の弱さに嫌気を差す。
「俺は無力だ……」
巨人族の中でもゴンゾウは恵まれた体格とは言えず、いくら身体を鍛えようとミノタウロスやサイクロプスのような魔人族の腕力には及ばない。もう少し成長して身体を鍛えれば魔人族にも対抗できる程の力を身に着ける事も出来るかもしれないが、今のゴンゾウには時間がなかった。
近いうちにゴンゾウはレナと共に監獄都市を抜け出し、仲間たちと合流して冒険都市へ帰還しなければならない。その事に関してはレナからも注意を受けており、普通ならば今は身体を鍛えるよりも脱出する手段を見つける方が先決である。だが、ゴンゾウはどうしても監獄都市を抜け出す前に自分から大切な物を奪ったミノタウロスに勝ちたいと考えていた。
(奴は強い、恐らくは俺の出会った魔人族の中でも一番強いだろう)
竜種などを除けばゴンゾウが出会った中では監獄の看守を務めるミノタウロスは最強と言っても過言ではなく、間違いなくレナと因縁のあるミノタウロスよりも強い。全ての種族の中で巨人族は「力」に優れた存在だと思われているが、実際には巨人族を上回る能力を持つ魔人族も多い。
巨人族は「技」よりも「力」を重視した戦法を得意としており、殆どの巨人族は技を捨てて力を磨く事に専念している。しかし、ゴンゾウは彼の師匠の方針で「力」だけではなく「技」も磨くように言われており、その教えを忠実に守ってきたつもりだった。
しかし、今のゴンゾウにはミノタウロスの力には適わず、肝心の技に関しても通用する自信がない。今までの通りの鍛錬では時間をかければ強くなれる事は間違いないが、今のゴンゾウにはそれほどの時間の猶予はない。だからこそゴンゾウは今一度自分の戦法を見つめなおし、圧倒的な力の差が存在するミノタウロスを倒す手段を考える。
(奴に勝つにはどうすればいい……)
考える事はあまり得意ではないゴンゾウだが、この時ばかりは他の人間に相談する事も出来ず、あくまでも自分の力でゴンゾウはミノタウロスを打ち倒す方法を考える。レナに相談すれば自分よりも頭の良い彼ならばすぐに金銀の闘拳を取り返す方法を教えてくれるのではないかとゴンゾウは考えてしまうが、それでは彼にとって意味がない。
(今の俺の力では奴には及ばない……だが、技を用いても奴に勝てるとは思えない。ここでは誰かの指導を受ける事も出来ない)
ゴンゾウの未熟な力と技では正面からミノタウロスに挑んでも返り討ちに遭う事は間違いなく、かといって罠を張り巡らせて相手から武器を奪うという手段はゴンゾウの格闘家としてのプライドが許せない。あくまでも正々堂々と勝負をしてミノタウロスを打ち負かし、闘拳を取り戻したいと考えていた。
(……あの力を使うしかないのか)
色々と悩んだ末、ゴンゾウはその場に座り込んで溜息を吐き出す。今のゴンゾウがミノタウロスに勝てる手段は1つしか存在せず、師匠から「禁じ手」と言われて滅多な事では使わないように入念に注意された能力を思い出す。
――その能力の名前は「鬼人化」巨人族の中でも特別な家系の人間にしか扱えない肉体強化術であり、その原型はレナの支援魔法の「肉体強化(限界強化)」と近い性質を持つ。レナの支援魔法は体内の魔力を利用して身体能力を強化するのに対し、巨人族の鬼人化は「気」と呼ばれる魔力とは異なる性質の力を利用して肉体の限界能力を超えた力を一時的に身に着ける事が出来る。
分かりやすく例えれば「火事場の馬鹿力」を自分の意思で発動させる事に等しく、人間(巨人)が引き出せる能力の限界まで力を使いこなす事に等しい。但し、この力は反動が激しく、肉体に大きな負荷が襲う。人間よりも何倍も頑強な肉体を持つ巨人族でさえも使い方を誤れば命を落とす事も少なくはなく、実際にゴンゾウの格闘技の師匠はこの力を多用し過ぎて肉体を壊してしまった。
『ゴンゾウ、お前は私のような間違いを起こすんじゃないよ……』
ベッドの上で横たわる自分の師匠の最期の言葉を思い返し、黙ってゴンゾウは拳を握り締める。これまでにこの「鬼人化」の能力を発動した事は何度かあるが、その度にゴンゾウは激しい後遺症に襲われていた。しかし、この力を使えば実力差が存在する相手に勝つ可能性もあるため、師匠との約束を忘れずに引き際を間違えないように気を付けながらゴンゾウは準備を行う。
「ふんっ……!!」
やがて十分に汗を掻いたと判断したのかゴンゾウはゆっくりと机を降ろすと、自分の掌を見つめて溜息を吐く。鍛錬に集中していてもミノタウロスの一撃を受けて敗北した時の光景が思い浮かび、自分の弱さに嫌気を差す。
「俺は無力だ……」
巨人族の中でもゴンゾウは恵まれた体格とは言えず、いくら身体を鍛えようとミノタウロスやサイクロプスのような魔人族の腕力には及ばない。もう少し成長して身体を鍛えれば魔人族にも対抗できる程の力を身に着ける事も出来るかもしれないが、今のゴンゾウには時間がなかった。
近いうちにゴンゾウはレナと共に監獄都市を抜け出し、仲間たちと合流して冒険都市へ帰還しなければならない。その事に関してはレナからも注意を受けており、普通ならば今は身体を鍛えるよりも脱出する手段を見つける方が先決である。だが、ゴンゾウはどうしても監獄都市を抜け出す前に自分から大切な物を奪ったミノタウロスに勝ちたいと考えていた。
(奴は強い、恐らくは俺の出会った魔人族の中でも一番強いだろう)
竜種などを除けばゴンゾウが出会った中では監獄の看守を務めるミノタウロスは最強と言っても過言ではなく、間違いなくレナと因縁のあるミノタウロスよりも強い。全ての種族の中で巨人族は「力」に優れた存在だと思われているが、実際には巨人族を上回る能力を持つ魔人族も多い。
巨人族は「技」よりも「力」を重視した戦法を得意としており、殆どの巨人族は技を捨てて力を磨く事に専念している。しかし、ゴンゾウは彼の師匠の方針で「力」だけではなく「技」も磨くように言われており、その教えを忠実に守ってきたつもりだった。
しかし、今のゴンゾウにはミノタウロスの力には適わず、肝心の技に関しても通用する自信がない。今までの通りの鍛錬では時間をかければ強くなれる事は間違いないが、今のゴンゾウにはそれほどの時間の猶予はない。だからこそゴンゾウは今一度自分の戦法を見つめなおし、圧倒的な力の差が存在するミノタウロスを倒す手段を考える。
(奴に勝つにはどうすればいい……)
考える事はあまり得意ではないゴンゾウだが、この時ばかりは他の人間に相談する事も出来ず、あくまでも自分の力でゴンゾウはミノタウロスを打ち倒す方法を考える。レナに相談すれば自分よりも頭の良い彼ならばすぐに金銀の闘拳を取り返す方法を教えてくれるのではないかとゴンゾウは考えてしまうが、それでは彼にとって意味がない。
(今の俺の力では奴には及ばない……だが、技を用いても奴に勝てるとは思えない。ここでは誰かの指導を受ける事も出来ない)
ゴンゾウの未熟な力と技では正面からミノタウロスに挑んでも返り討ちに遭う事は間違いなく、かといって罠を張り巡らせて相手から武器を奪うという手段はゴンゾウの格闘家としてのプライドが許せない。あくまでも正々堂々と勝負をしてミノタウロスを打ち負かし、闘拳を取り戻したいと考えていた。
(……あの力を使うしかないのか)
色々と悩んだ末、ゴンゾウはその場に座り込んで溜息を吐き出す。今のゴンゾウがミノタウロスに勝てる手段は1つしか存在せず、師匠から「禁じ手」と言われて滅多な事では使わないように入念に注意された能力を思い出す。
――その能力の名前は「鬼人化」巨人族の中でも特別な家系の人間にしか扱えない肉体強化術であり、その原型はレナの支援魔法の「肉体強化(限界強化)」と近い性質を持つ。レナの支援魔法は体内の魔力を利用して身体能力を強化するのに対し、巨人族の鬼人化は「気」と呼ばれる魔力とは異なる性質の力を利用して肉体の限界能力を超えた力を一時的に身に着ける事が出来る。
分かりやすく例えれば「火事場の馬鹿力」を自分の意思で発動させる事に等しく、人間(巨人)が引き出せる能力の限界まで力を使いこなす事に等しい。但し、この力は反動が激しく、肉体に大きな負荷が襲う。人間よりも何倍も頑強な肉体を持つ巨人族でさえも使い方を誤れば命を落とす事も少なくはなく、実際にゴンゾウの格闘技の師匠はこの力を多用し過ぎて肉体を壊してしまった。
『ゴンゾウ、お前は私のような間違いを起こすんじゃないよ……』
ベッドの上で横たわる自分の師匠の最期の言葉を思い返し、黙ってゴンゾウは拳を握り締める。これまでにこの「鬼人化」の能力を発動した事は何度かあるが、その度にゴンゾウは激しい後遺症に襲われていた。しかし、この力を使えば実力差が存在する相手に勝つ可能性もあるため、師匠との約束を忘れずに引き際を間違えないように気を付けながらゴンゾウは準備を行う。
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