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放浪編

閑話 〈王妃の戦力&おまけ〉

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※申し訳ありません!!今回は閑話だけです……その代わりにおまけも多めに用意しました。


「――流石にこれだけの面子が集まると、私でも緊張してしまうわね」
「ご謙遜を……王妃様の命令ならば我等は何時でも集まります」


冒険都市に存在する古城の一室にて王妃は呼び寄せた自分の直属の配下達と机を挟んで邂逅する。既に席にはバルトロス王国の大将軍であるミドルを筆頭に王妃に忠誠を誓う者達が集まっていた。


「……助けてくれた事には礼を言うけど~どうしてレミアの奴がここに居ないの?あの子とそのお友達から私は大切な魔銃を奪われたんですけど~?」
「カノン、口を慎め。王妃様の前だぞ」
「え~別にいいでしょ?今更敬語なんて面倒だし」
「私は構わないわ。カノン、無事で何よりだったわ」


席には闘技場でレナ達に敗れ、レミアの手によって隔離されていたカノンの姿もあり、彼女は不満そうな表情を浮かべながら爪の手入れを行っていた。自分の愛銃がレナに奪われた事を気にしているらしく、空になったホルスターを無造作に机の上に放置していた。


「……王妃様、この無礼者を切る許可を下さい。一瞬で楽にさせます」
「リク、貴方も落ち着きなさい。私は気にしていないと言ったのよ」


王妃の傍にはただ一人だけ執事服を着込んで立ち尽くす「リク」の姿も存在し、彼は神器の「ロッド」を握り締めてカノンを睨みつけるが、それを王妃は制す。


「……王妃様、私のような者がこの席に座って本当にいいのでしょうか?」
「アマネ、何も気負う必要はないわ。貴方は私にとって娘のように思っているわ。遠慮なんかする必要ないの」
「は、はい」


王妃の隣に立つ森人族の少女のアマネはが話しかけると、王妃は微笑んで彼女の緊張を解すように優しく伝える。そしてアマネの隣には希少な付与魔術師の職業のフヨも存在し、率直に王妃に本日の呼び出しの用件を尋ねた。


「王妃様、本日はどのようなご用件で我等を呼んだのでしょうか?何か急用でも……?」
「あら、用事がなければ貴方達を呼び出してはいけないのかしら?」
「い、いえ……そういう意味では……」
「もう!!養母様ったら意地悪しちゃ可哀そうだよ!!」
「そうですね。皆様も困っています。お戯れはそこまでにしておかないと……」



――フヨの言葉に王妃はからかうように返事をすると、王妃の左隣に座っていた双子の王女である「シオン」と「リアナ」が口をはさむ。この二人は先代国王の血を継いだナオの実の妹達であり、二人は親し気に王妃に話しかける。



「それよりも聞いて養母様!!お姉ちゃんがまた何か企んでいるみたい、きっといなくなった人達を探しているんだよ!!」
「そうですね。お姉様は本当にお優しい方ですが、どうにも私達に過保護な気がします。もっと養母様と仲良くしてくださればいいのに」
「ええ、勿論知っているわ。安心しなさい、ナオの事は私が何とかするわ」


国を継ぐために王妃と対立しているナオが最も大切にしている妹達すらも既に王妃は手中に収めており、幼少の頃から育て親として接してきた王妃に対して双子の王女は心から尊敬していた。この二人の存在が自分の傍にあるからこそ王妃はナオという存在に脅威を抱いておらず、仮にナオが自分を殺そうとしたならば必ずこの二人が障害となってナオの行動を妨げると確信していた。


(ナオはもう脅威ではない……国王も既に私の傀儡、残る脅威はマリアのみ)


王妃が自分がこの国の王になるために邪魔な存在はマリアだけだと判断し、それ以外の存在は今まで気にもしていなかった。だが、最近になってマリアの他に気にかかる存在が居た。


(だけど……あのレナという少年が気になるわ。あれほどの罠を仕掛けたというのに結局は失敗してしまった。まるで私達の行動が全て筒抜けにされたように行動している気分ね)


マリアの他に王妃が脅威を感じたのはこの国の正統な「第一王子」であるレナだった。不遇職という理由で王家から隔離され、第二王子が生まれた途端に処刑が命じられた存在。しかし、どういうわけか今日に至るまで王国の目を盗んで生き延び、遂には王妃の目に留まる程の存在にまで成長した。


(これまでに様々な政敵を排除してきたけど、この王子がもしかしたら一番厄介かもしれない。しかも今は何処にいるのかも分からない……面倒な相手ね)


机の上のミルクティーをスプーンでかき混ぜながら王妃はため息を吐き出し、そんな普段の彼女らしからぬ態度に室内の人間達は疑問を抱くが、王妃は気にせずに思考に耽る。


(他に気掛かりがあるとすればアイラが消えた事……あのバルと行動を共にしているのは間違いないけど、騒動のどさくさに紛れて逃げられてしまったのはこちらのミスね。早々に確保しておかないと……それにしても息子のためにあんな恰好をしてまで戦うなんて美しい親子愛ね)


闘技場で見たアイラの姿を思い出して王妃は無意識に微笑み、出来る事ならば彼女だけは殺したくないと考えていた。王妃が長年の間、国王が最も愛した女性であるアイラを放置し続けていたのは理由があり、彼女の中に存在する僅かな良心がアイラを殺す事を拒否していた。


(……ともかく、今はまだ待機するべきね。マリアが実力行使で攻め込んでいた場合を肯定して戦力を整え直す必要があるわ)


既に自分の手元には驚異的な力を持つ存在をいくつも抱えながらも王妃は警戒心を緩めず、マリアが率いる4人の剣聖と他の優秀な冒険者たちは王妃にとって厄介な相手だった。そのために彼女はマリアと対抗するため、冒険都市を強襲させた地竜よりも強力な存在を味方にするために命令を下す。


「ミドル、今すぐにあの女を連れてきなさい。これが最後の仕事だと伝えれば承諾するはずよ」
「分かりました」


王妃の命令を受けてミドルは席を外し、古城の地下に存在する地下牢に向かう。そこには今回の冒険都市を強襲した地竜を呼び寄せた犯人の容疑者として捕らえられている「キラウ」を連れ出すため、彼は部屋から退出した――




※ここから先はおまけです。本編とも繋がっています。



――冒険都市に訪れた日、馬車の中で街道を移動していた王妃はある店の前で行列が出来ている事に気づき、開け放たれた窓から漂ってくる匂いに気づいて疑問を抱く。


「……あの人だかりなにをしているのかしら?」
「え?ああ、あれはラーメン屋ですよ」
「らぁめん?」


王妃の言葉に馬車に同乗していた護衛を務めていたリクが答えると、王妃はあまり聞きなれない食べ物の名前に不思議に思い、興味を抱く。


「その……ラーメンとやらはどんな食べ物かしら?」
「元々は過去に召喚された勇者が作り出した食べ物ですが、要は麺料理です。鍋とは違った陶器の中に様々な種類のスープと麺を入れてその上に色々な具材が乗っています」
「麺とスープを一緒に……それは和国のうどんやそばという料理とは違うのかしら?」
「はい。そばやうどんと似通った所もありますが、基本的には別物として扱われています」
「そう、なの」


リクの説明を受けて王妃は過去に召喚された勇者の食べ物、つまりはこの世界とは別世界の料理というだけで好奇心が増し、丁度昼時だったので食事を行う事にした。


「少しきになったわ。リク、今からそのラーメンとやらを食べるわよ」
「えっ!?」


王妃の予想外の言葉にリクは驚愕し、まさか庶民の食べ物を欲するとは思わなかったリクは慌てて王妃を引き留める。


「お、お待ちください!!異界の料理といっても所詮は下々の民が食べる料理です。貴族や王族の方の口に合うものではありません!!」
「別に私は気にしないわ。ほら、早くそのラーメンとやらを持ってきなさい」
「僕が……ですか!?」
「ええ、出来るだけ急いで宿に持ってくるのよ」


流石に王妃がラーメン屋の行列に並ぶわけにはいかず、リクに命じてラーメンを用意するように命じると、王妃は馬車から彼を降ろして先に向かう。残されたリクは唖然とした表情を浮かべながら延々と行列を為すラーメン屋に視線を向け、どのように王妃が機嫌を損ねる前にラーメンを調達するのか悩む――




――30分後、どうにか行列の前に並んでいた人間と交渉して順番を入れ替えてもらい、ラーメン屋に頼み込んで1杯のラーメンを用意してもらったリクは冷めないうちに王妃の宿泊する宿まで戻る。


「た、只今戻りました……」
「あら、やっと来たのね。ご苦労様……それでその箱の中に入っているのがラーメンかしら?」


全力疾走で戻って来たリクは汗を流しながらも出前箱からラーメンを取り出し、中身が零れていない事を確認してから机の上に差し出す。その濃厚な匂いに王妃は食欲をそそられ、ラーメンを覗き込む。


「これがラーメン……そういえば種類があると言っていたわね。これは何という名前なの?」
「豚骨ラーメンです……あ、王妃様、食べるときはフォークではなく、この箸という物をお使いください。こちらは和国の食器でして……」
「大丈夫よ、前に和国に訪れた時に使い方は学んでいるわ」


王妃は箸を受け取ると豚骨ラーメンと向かい合い、まずは麺を掴んでゆっくりと口の中に含む。その瞬間、言いようのない感覚が王妃の中に広がり、目を見開く。


(こ、これは何……スパゲティ、パスタとも違う触感、それでいて濃厚なスープの味が含まれている……!?)


ラーメンを始めて食べた王妃はゆっくりと麺をすすりこみ、よく噛んで味わう。無言で王妃は今度は具材やスープも味わい、時間をかけてラーメンを味わうとハンカチで口元を拭いとる。その後はしばらくの間は黙り込み、その様子を心配したリクが話しかけようとした時、王妃がリクに新たな命令を告げる。


「……気に入ったわ」
「はい?」
「今日の夕食、今度は別の種類のラーメンを用意しなさい」
「はい!?」


予想外すぎる王妃の言葉にリクは大声を上げ、そんな彼の反応を見て王妃は口元に笑みを浮かべながら部屋から立ち去った。




※王妃は割と庶民的な味覚です。一応は理由がありますが、その辺も本編で触れるかも……
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