上 下
434 / 2,083
放浪編

闘拳の行方

しおりを挟む
「……ゴンゾウさん、もしかしたら貴方の探し物が見つかったかもしれません」
「何?どういう事だ?」


探し物という言葉にゴンゾウの頭の中に「金銀の闘拳」が思い浮かび、先にネズミに尋ねたときは彼も闘拳が何処に存在するのかは分からないと答えたが、ネズミは掌に乗せたマウスを見せつけて説明を行う。


「僕は魔物使いの職業なんですが、レベルの問題で従えさせられる魔物は小鼠ラット系の魔獣だけなんです。その代わりに僕は数十匹の小鼠を従える事が出来ます」
「そ、そんなにいるのか……」
「情報屋の僕がどのように情報を収集しているのかというと、この監獄都市のあらゆる場所に小鼠を放逐して定期的に情報を集めているんです。僕は小鼠と触れる事で「記憶」を共有化させて小鼠が見た物や聞いた物を知る事が出来ます」
「なるほど、だからネズミか……」


子供であるネズミがどのような方法で情報を集めているのか気になっていたゴンゾウは説明を聞いて納得し、彼の渾名の由来も判明する。ネズミは名前通りに大量のネズミを操り、彼等を利用して監獄都市内の情報を集める事からネズミと呼ばれるようになったという。


「普通の魔物使いは強力な魔物を従えさせようとしますが、僕のように情報を集めるなら身体が大きい魔獣よりも小さくて素早い小鼠の方が便利ですけどね」
「という事は別に名前があるのか?」
「ええ、まあ……でも、残念ながら本名は気に入らないので普通にネズミと呼んでください。そっちの方が僕も馴染みますし」
「そ、そうか……」


鼠は自分の本名に対してコンプレックスでも抱いているのか、あくまでも「ネズミ」という渾名を呼ぶように伝えると本題に戻る。ネズミが呼び寄せた「マウス」という個体の小鼠の記憶によると、ゴンゾウが捜索している「金銀の闘拳」を装備する人物を見かけたらしい。


「このマウスによると闘技区の方でゴンゾウさんの闘拳を装備している人物を発見したようです」
「誰だ?巨人族の囚人か?」


子供とはいえ巨人族であるゴンゾウの闘拳を装備出来るのは限られており、ゴンゾウは自分以外の巨人族の囚人や兵士が装着しているのかと考えたが、ネズミは冷や汗を流しながら装着している人物の正体を伝えた。


「看守……ミノタウロスと伝えれば分かりやすいですか?」
「……あいつが?」



――ゴンゾウの脳裏にミノタウロスの顔が思い浮かび、無意識に拳を握り締めてしまう。昨日、ゴンゾウが監獄都市内に転移したとき、実はゴンゾウは兵士達と交戦したときに看守であるミノタウロスとも戦っていた。彼の一撃を受けて気絶してしまい、その間にゴンゾウは装備品を剥ぎ取られ、親友からの贈り物である大切な闘拳も奪われた事を思い出す。



「そうか……今は奴が持っているのか」
「よりにもよってあの牛男ですか……取り返すのは難しいですね。看守長を覗けばこの監獄都市最強の看守だと噂される程に厄介な相手ですよ」
「そこまで強いのか?」
「はい。看守長が起きていない間は基本的にあの牛男が都市の管理を任されています。昼間に見かけたサイクロプスを覚えてますか?あの看守が暴走したとき、いつも抑えつけるのがあの牛男です」
「あいつをか?」


サイクロプスはオーガを上回る怪力とゴーレムよりも頑丈な鱗で覆われた魔人族であり、興奮して暴れ狂うと小さな村なら壊滅出来る程に恐ろしい存在である。しかし、そのサイクロプスをミノタウロスは抑えつける程の戦闘力を誇るらしく、看守長を覗けば都市最強の存在と言っても過言ではない。

実際に夜の間しか動けない看守長の代わりに昼間はミノタウロスが囚人達の監視を行い、数千人の囚人達を管理している事になる。実際に数々の修羅場を潜り抜けたゴンゾウさえも一撃で敗れており、まともに戦えば今の彼では決して勝てる相手ではない。


(レナに奴に闘拳が奪われた事を伝えるか……いや、駄目だ。何としてもあれは俺の手で取り返さなければ……!!)


ゴンゾウがレナに協力を求めればミノタウロスから闘拳を取り戻す方法を共に考えてくれるだろうが、元々は闘拳が奪われたのはゴンゾウがミノタウロスに敗北したからであり、自分の不始末は自分で解決するためにゴンゾウはネズミに願う。


「ネズミ……今回の話はレナには話さないでくれ」
「え、でも……」
「頼む」


ネズミが驚いた表情を浮かべてゴンゾウに顔を向けると、既に彼は頭を下げた状態で床に膝を着いていた。ゴンゾウの行動にネズミは呆気に取られ、しばらくすると溜息を吐き出しながら承諾する。


「はあ……分かりましたよ。何を考えているか知りませんけど、この件はレナさんには黙っておきます」
「すまない……だが、今回は俺一人で解決しなければ意味はないんだ」
「そこまで言うなら何も言いませんよ……一人で大丈夫ですか?」
「ああ、何とかしてみせる」
「ただいま~……」


ミノタウロスから闘拳を一人で取り返す事をゴンゾウが改めて決意したとき、丁度良く教室の窓から疲れた表情のレナが戻って来た。
しおりを挟む
感想 5,087

あなたにおすすめの小説

“金しか生めない”錬金術師は果たして凄いのだろうか

まにぃ
ファンタジー
錬金術師の名家の生まれにして、最も成功したであろう人。 しかし、彼は”金以外は生み出せない”と言う特異性を持っていた。 〔成功者〕なのか、〔失敗者〕なのか。 その周りで起こる出来事が、彼を変えて行く。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。