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放浪編

鍛錬器具

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(そういえばタザンとかいう囚人が居たよな……確か、あの人も獣人国の出身だからもしかしたらこの監獄から来たのかな?)


囚人でありながら闘技祭に参加していたタザンは猿型(ゴリラ)の獣人族であり、何の罪を犯して捕まったのかはまでは知らないが囚人ならばこの都市に存在した可能性も高い。最もこの場所に送り込まれるのは死刑囚だけなのでタザンが死刑を課せられるほどの重い罪を犯していなければ滞在しているはずはない。


(それにしても異様な熱気だな。仕事もしないで賭け事に夢中になっている当たり、碌な奴等じゃないな……あ、でも中には純粋に身体を鍛えようとしている人間も結構いるのか)


大半の人間は試合場の選手同士の賭けに夢中だが、中には鍛錬に集中している人間も多く、試合で戦うために鍛えている人間も多いだろう。武器になりえる鍛錬器具の持ち込みは禁止されているのか、限られた鍛錬器具を巡って争う者もいた。


「おい、これは俺が先に使うんだぞ!!」
「待ってくれ、俺が先に並んでいたんだぞ!!」
「何だと!?ならば試合で勝った方が使う、これでどうだ!!」
「望むところだ!!」


身体を鍛えたに来たにも関わらずに他の囚人と言い争い、遂には試合場で決着を付けようとする囚人達を見てレナは怪我の治療さえも有料制の監獄都市内で大怪我を負えば大きな負が掛かるにも関わらず、自分が鍛えるためだけに戦おうとする彼等に呆れてしまう。


(それにしても随分と器具も錆びついているな……壊れているのも多いし、こういうのは木工の仕事を引き受けた主人が作り出すのかな?)


先ほど争っていた囚人二人が消えた事で彼等が狙っていた鍛錬器具が空き、少し気になったレナは今のうちに器具を調べる。サンドバックのように砂が大量に詰められた大きな袋を吊るす器具を確認し、試しに拳を握りしめて叩き込む。だが、巨人族の打撃にも耐えきれるように作られているのかサンドバックの重量はかなり重く、通常時のレナの拳では揺らす事が限界だった。


「いててっ……やっぱり、素手だと無理があるか」


痛めた拳を抑えながら今度は直に殴るのではなく、魔鎧術の応用で拳の部分に硬質化させた青色の魔力を纏わせ、更に限界強化の魔法で身体能力を上昇させた状態で勢いよく叩き込む。


「ふんっ!!」


今度は砂袋が一瞬だけ折れ曲がる程の威力が発揮され、続けて跳ね返って戻ってきた砂袋に向けて左拳を突き出す。


「おらぁっ!!」


拳が衝突した瞬間に砂袋と繋がっている鎖が軋み、激しく揺れ動く。その様子を確認したレナは頷き、万全な体調を取り戻したことを確信する。


(よし、魔力も十分に戻ってきたし、これなら何時でも抜け出せるな)


警戒は厳重ではあるが魔法さえ使えれば抜け出す方法はいくらでも存在するため、レナは早急に情報を集めたらこの場所を立ち去る事を改めて決意する。三日後には懲罰房にレナを送り込んだと思い込んでいるラルフが訪れるはずのため、彼が監獄都市に戻る前にレナはこの場所から脱出する事にした。


「さてと、今日の分の食事を稼ぐ方法でも探すか……」
「そこのお兄さん、ちょっといいですか?」
「うわっ!?」


身体を動かした事で空腹を覚えたレナは食事代を稼ぐために宿舎に戻ろうとしたとき、背後から声を掛けれて慌てて振り返る。いつの間にかそこには全身を灰色のフードで覆い隠した少年が存在し、全く気配を感じさせずに後ろに回り込んでいた少年にレナは動揺を隠せない。


(全然気づかなかった……気配感知や魔力感知も反応しないなんて、何なんだこいつ……?)


並の暗殺者の職業の人間よりも五感が優れているレナでさえも少年に話しかけられるまでは存在にすら気づかず、ハンゾウやカゲマル並の隠密能力を持つ少年に対してレナは身構えると、相手は慌てて両手を上げて落ち着かせる。


「待って待って、別に怪しいものじゃないんです。あ、自己紹介がまだでしたね。僕の名前はネズミ……情報屋を営んでいます」
「ネズミ……チーズなら持ってないぞ」
「そういうボケはあんまり好きじゃないです……それに食べ物で困る程に貧乏でもありませんよ」


ネズミと名乗る少年は笑みを浮かべるとフードの中から子袋を取り出し、中身を開いてレナに見せつける。不思議に思いながらも袋の中身を確認すると、そこには大量の銀貨が入っていた。レナが中身を確認するとすぐに少年は小袋を懐にしまい込み、人懐っこい笑顔を浮かべた。


「どうですか?結構持っているでしょう。これだけあれば一か月は働かずに暮らしていけますよ」
「へえ……さっき、情報屋とか言ってたけど、一体何の情報を売っている?」
「この監獄都市に関する事ならありとあらゆると……ですね」


情報を生業としている情報屋に関してはレナも存在を耳にしたこともあり、目の前の少年は囚人でありながら情報を扱って資金を稼いでいるらしく、どうして彼が自分の元に訪れたのかをレナは問いただす。
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