上 下
312 / 2,083
都市崩壊編

都市内部の異変

しおりを挟む
――時は少し前に遡り、氷雨の冒険者ギルドの前に王国兵が立ち寄っている頃、レナ達は闘技場を抜け出して都市の城門に辿り着いていた。しかし、何故か城門は閉ざされており、大量の王国兵によって封鎖されていた。


「おい、どうなってんだ!!何で街に入れないんだよ!?」
「俺達はこの都市の住民だぞ!!」
「ですから今は危険な状態なので街に立ち入る事が禁止されているんです!!問題が解決するまで城門は開けないんです!!」


闘技場に立ち寄っていた大勢の住民が城門の前で立ち往生しており、理由は不明だが街に配備されていた王国兵が城門を閉じて住民の受け入れを拒否していた。その様子をレナ達は遠目で確認し、王国兵の行動に訝しむ。


「おい、一体何が起きてるんだ?なんで王国兵の奴等、都市を封鎖しているんだ?」
「何か問題が起きたと言っているようだけど、その問題が何なのか説明する様子もないね」
「でも、このままだと暴動になりかねないわね」


街の外に設置されている闘技場に赴いた住民の数は数万人であり、東西南北の城門には大勢の住民が押し寄せている。しかし、王国兵は全ての城門を閉鎖し、都市内部で問題が起きたという理由で住民の受け入れを拒否していた。無論、具体的な説明を受けていない都市の住民は激怒し、魔物が現れる草原に何時まで自分達が待機しなければならないのか不満を露わにする。


「いい加減にしろ!!理由も説明しないでこのまま黙って立ってろって言うのか!?」
「ここは俺達の街だぞ!!」
「ですから落ち着いて下さい!!問題が解決するまで皆様の安全は我々が守りますから……」
「うるさい!!そんな理由で納得できるか!!」


試合の観戦で疲れ果てていた住民達は兵士を押しのけて都市内部に入り込もうとするが、その様子を城壁から確認していた一人の男性が一括した。


「静まり給えっ!!」
『…………!?』


男性が叫んだ瞬間、城門に押し寄せていた数千人の住民が黙り込み、身体に震えが走る。レナは即座に相手を威嚇させる「威圧」と呼ばれる能力を思い出し、城壁の上に立つ男がスキルを発動させて住民を黙らせた事に気付く。同時にレナの隣に立っていたシズネも城壁の上に立つ男に視線を向け、少し驚いたように目を見開く。


「あの男は……」
「知り合い?」
「ええ、一時期だけ私が所属していた傭兵団の団長を務めていた男よ。でも、どうしてこんな所に……」
「傭兵?あいつ、王国の兵士じゃないの?」


シズネの言葉にレナとダインは城壁の上に立つ男に視線を向け、その風貌に圧倒される。種族は狼型の獣人族だと思われるが、身長は180センチは存在し、両腕に破城槌を想像させる武器を装備していた。男の周辺には屈強な男性陣が存在し、王国の兵士ではないのか全員が金属製ではなく、皮製の鎧を身に付けていた。


「私の名前は飛鳥団のパイルという!!我々は王国に雇われた傭兵団だ!!」
「よ、傭兵?」
「どうしてこんな所に傭兵なんて……」


兵士ではなく、傭兵団を名乗る集団が現れた事に住民は動揺するが、パイルと名乗った男性は城門の前に集まっている民衆に説明を行う。


「現在、この街には特級の危険人物が紛れ込んだという情報が入っている!!その人物は徒党を組み、都市で滞在中のバルトロス王国の国王の命を狙っているという確かな情報が我々の耳に届いている!!」
「何だって!?」
「犯罪者が都市の中に紛れ込んだって言うのか……?」


国王の命を狙うという言葉に民衆は騒ぎ出すが、パイルはそんな彼等を落ち着かせるように続けて説明を行う。


「だが、安心して欲しい!!我々がこの都市に訪れた限り、すぐにバルトロス国王の命を狙う不届き者は捕まえてみせよう!!しかし、国王の暗殺を企んだ犯罪者を街の外へ取り逃がさないため、今しばらくの間は東西南北の城門は封鎖させて貰う!!」
「なら俺達はどうすればいいんだ!?」
「無論、君達には迷惑を掛けると思うがこれも王国の治安維持のために協力して欲しい!!もう少しの間だけ我慢して貰えればすぐにでも我々が王国の殺害を企てた悪人を捕まえて見せよう!!」
「そんな事を言われても信じられるか!!だいたい、あんた等は本当にその犯罪者とやらを捕まえられるのかよ!?」
「そうよ!!本当にそんな悪人がいるとしても、本当にあんた達だけで捕まえられるの!?」


パイルの言葉を聞いて民衆が再び文句を付けるが、そんな彼等の反応を予想していたかのようにパイルは頷き、説明を続ける。


「君達の疑問は最もだ!!だが、既に我々は国王暗殺を企てた犯罪者の正体には目を付けている!!その人物の正体は君達もよく知っている男だ!!」
「な、何だって!?」
「どういう意味だよ!!」


国王の暗殺を計画した犯人の正体を自分達が知っているという言葉に民衆は混乱するが、この時点でレナは嫌な予感を覚え、慌ててフードで自分の姿を覆い隠した。
しおりを挟む
感想 5,087

あなたにおすすめの小説

“金しか生めない”錬金術師は果たして凄いのだろうか

まにぃ
ファンタジー
錬金術師の名家の生まれにして、最も成功したであろう人。 しかし、彼は”金以外は生み出せない”と言う特異性を持っていた。 〔成功者〕なのか、〔失敗者〕なのか。 その周りで起こる出来事が、彼を変えて行く。

魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです 魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。 「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」 「ええっ!?」 いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。 「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」 攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。