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闘技祭 決戦編
バルの悪知恵
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「大丈夫ですかマリア様!?」
「すぐに治療を……!!」
「……平気よ」
倒れ込んだマリアに建物の前に残っていた女性冒険者が集まり、彼女の介抱を行おうとした瞬間にマリアは目を開き、ゆっくりと起き上がる。その様子を見て冒険者達は驚愕の表情を浮かべるが、当のマリアは若干涙目になりながらも額を抑えながら呟く。
「全く……相変わらず無茶をするわね」
「ま、マリア様!?ご無事だったんですか?」
「平気……とはいいがたいけど、意識ははっきりとしているわ」
額を抑えながらもマリアは自分を介抱しようとしてくれた人間達を離れさせ、どうにか立ち上がる。額は痛むが治療する程の大怪我ではなく、彼女は溜息を吐きながらもバルの行動に内心感謝していた。
(……結果的には姉さんも連れ出して兵士達を引き下がらせる事は出来たわね)
マリアが何か行動を起こす前にバルがアイラを連れ去った事により、結果的にはアイラを王国兵に引き渡さず、建物の前から退去させる事には成功した。しかもバルは最後に自分だけ責任を負うつもりなのかマリアと仲違いを引き起こしたように見せつけ、傍目から見れば彼女がアイラを誘拐したようにしか見えない。
(でも、自分一人だけで罪を背負うなんて真似はさせないわよ)
バルは表向きは自分だけが悪人に徹して罪を被ろうしたのだろうが、この程度の企みなど王妃にはすぐに見抜かれるだろう。マリアは覚悟を決め、長年の間に立てていた計画を実行する事を決めた。
「時期尚早かもしれないけど、仕方がないわ。全員を集めなさい!!」
「は、はい!!」
「あの……追いかけて行った奴等はどうしたらいいでしょう?」
「放っておきなさい。それよりも今現在集まっている冒険者を集めなさい!!」
「分かりましたっ!!」
残された女性冒険者達はマリアの指示に従い、即座にギルド内に残っている冒険者を呼び集める。その間にもマリアはレナに危険を知らせるため、彼の居場所を探す。
「仕方ないわね……少し神経を使うけど、貴方達に頼るしかないわ」
マリアは両手を広げ、風の精霊を呼び集める。ハヅキ家の中で最も魔術師の才に恵まれたマリアならば街中に広がっている風の精霊を呼び集める事も可能であり、精霊を呼び寄せてレナの居場所を探る。
『教えなさい、あの子は何処に居るの?』
瞼を閉じて呼び集めた精霊に問いかけると、マリアの周辺に緑色の光の球体が無数に現れる。実体化した精霊に触れる事で街の至る場所の状況を確認し、闘技祭を終えた後のレナの居場所を探す。そして精霊の1体がレナの位置を捉えると、マリアは瞼を開く。
「これは……どういう事かしら?」
既にレナは闘技場から冒険都市へ移動していた事が発覚し、仲間達と共に合流していたのかレナの他に複数の人間の反応が存在した。しかし、その中にレナやアイラと良く似た魔力を持つ人物が混じっている事にマリアは気付き、疑問を抱く。
「この反応はもしかして母……?いえ、違うわ。だけど、ハヅキ家の縁のある人間……?」
レナと同行している人物の一人があまりにもハヅキ家の人間が放つ魔力の波長と似ており、マリアは訝しむ。しかし、ハヅキ家の誰かがレナと行動しているとは考えにくく、その反面に赤の他人とは思えない程にレナやアイラと酷似した魔力の波長を放っているため、考えられる事は一つだった。
「ま、まさか……姉さんに隠し子がっ!?」
「あの、マリアさん……?どうかしました?」
「え、あっ……ミナ、貴女は戻っていたの?」
驚愕の表情を浮かべたマリアの背後から声が掛けられ、慌ててマリアが振り返ると不思議そうな表情を浮かべたミナが立っていた。彼女はレナ達よりも先に闘技場から立ち去り、冒険者ギルドへ帰還すると何故かマリアが一人で立っていたのを発見し、疑問を抱いてはなしかけたのだが、マリアは誤魔化すように咳ばらいを行うとミナに事情を説明する。
「こほんっ……何でもないわ、見苦しい物を見せたわね。ところでミナ、試合は見事に勝ち抜いたようね」
「あ、ありがとうございます!!でも、勝ち抜いたというのはちょっと違うかもしれませんけど……」
「運も実力の内、と言うわ。それよりも丁度良かったわ、貴女に頼みたいことがあるの」
「え、僕に頼み事……ですか?」
滅多にマリアの方から頼み事をされた事がないミナは驚いた表情を浮かべるが、マリアは彼女に現在の状況をレナに伝えるように指示を出す。
「どうやらバルトロス王国がレナを捕まえようとしているの。だからすぐにあの子の元へ助けに行きなさい」
「ええっ!?ど、どうして……」
「今は詳しく説明している暇はないの。レナ達はここから南の方角にいるはずよ。貴女はすぐにあの子の元へ助けに向かいなさい」
「わ、分かりました!!あ、でも……王国兵の人達に見つかったらどうすればいいんでしょうか?」
「出来る限り戦闘を避けて逃げなさい。それと、レナの元へ向かうならあの狼君も解放しなさい。そっちの方が手っ取り早いかもしれないわ」
「ウル君の事ですか?」
「とにかく急ぎなさい!!もう一刻の猶予もないの!!」
「は、はい!!」
普段のマリアならば考えられない程の気迫にミナは慌てて冒険者ギルド内へ入り込み、ティナの飼っているサイクロプスのアインと共にギルドが預かっているウルの元へ向かう。仮にミナが出発するときにレナ達が移動していたとしてもウルならばレナの匂いを嗅ぎ取り、彼女をレナの元へ案内するだろう。
「……私も急いだ方が良いわね」
現時点で行える対処を終えると、マリアは建物内へと引き返そうとした。だが、彼女が呼び集めた精霊が唐突に騒ぎ出し、この場所に強力で悍ましい魔力を持つ者が接近している事を告げる。
「この反応は……そう言う事ね」
苛立ちを隠さずにマリアは建物に戻るのを止めると、杖を握りしめて反応がある方向に視線を向ける。そして、こちらに向けて黒色のローブで覆い隠した集団が接近している事を視界に確認した。
※次回から「都市崩壊編」に入ります。
「すぐに治療を……!!」
「……平気よ」
倒れ込んだマリアに建物の前に残っていた女性冒険者が集まり、彼女の介抱を行おうとした瞬間にマリアは目を開き、ゆっくりと起き上がる。その様子を見て冒険者達は驚愕の表情を浮かべるが、当のマリアは若干涙目になりながらも額を抑えながら呟く。
「全く……相変わらず無茶をするわね」
「ま、マリア様!?ご無事だったんですか?」
「平気……とはいいがたいけど、意識ははっきりとしているわ」
額を抑えながらもマリアは自分を介抱しようとしてくれた人間達を離れさせ、どうにか立ち上がる。額は痛むが治療する程の大怪我ではなく、彼女は溜息を吐きながらもバルの行動に内心感謝していた。
(……結果的には姉さんも連れ出して兵士達を引き下がらせる事は出来たわね)
マリアが何か行動を起こす前にバルがアイラを連れ去った事により、結果的にはアイラを王国兵に引き渡さず、建物の前から退去させる事には成功した。しかもバルは最後に自分だけ責任を負うつもりなのかマリアと仲違いを引き起こしたように見せつけ、傍目から見れば彼女がアイラを誘拐したようにしか見えない。
(でも、自分一人だけで罪を背負うなんて真似はさせないわよ)
バルは表向きは自分だけが悪人に徹して罪を被ろうしたのだろうが、この程度の企みなど王妃にはすぐに見抜かれるだろう。マリアは覚悟を決め、長年の間に立てていた計画を実行する事を決めた。
「時期尚早かもしれないけど、仕方がないわ。全員を集めなさい!!」
「は、はい!!」
「あの……追いかけて行った奴等はどうしたらいいでしょう?」
「放っておきなさい。それよりも今現在集まっている冒険者を集めなさい!!」
「分かりましたっ!!」
残された女性冒険者達はマリアの指示に従い、即座にギルド内に残っている冒険者を呼び集める。その間にもマリアはレナに危険を知らせるため、彼の居場所を探す。
「仕方ないわね……少し神経を使うけど、貴方達に頼るしかないわ」
マリアは両手を広げ、風の精霊を呼び集める。ハヅキ家の中で最も魔術師の才に恵まれたマリアならば街中に広がっている風の精霊を呼び集める事も可能であり、精霊を呼び寄せてレナの居場所を探る。
『教えなさい、あの子は何処に居るの?』
瞼を閉じて呼び集めた精霊に問いかけると、マリアの周辺に緑色の光の球体が無数に現れる。実体化した精霊に触れる事で街の至る場所の状況を確認し、闘技祭を終えた後のレナの居場所を探す。そして精霊の1体がレナの位置を捉えると、マリアは瞼を開く。
「これは……どういう事かしら?」
既にレナは闘技場から冒険都市へ移動していた事が発覚し、仲間達と共に合流していたのかレナの他に複数の人間の反応が存在した。しかし、その中にレナやアイラと良く似た魔力を持つ人物が混じっている事にマリアは気付き、疑問を抱く。
「この反応はもしかして母……?いえ、違うわ。だけど、ハヅキ家の縁のある人間……?」
レナと同行している人物の一人があまりにもハヅキ家の人間が放つ魔力の波長と似ており、マリアは訝しむ。しかし、ハヅキ家の誰かがレナと行動しているとは考えにくく、その反面に赤の他人とは思えない程にレナやアイラと酷似した魔力の波長を放っているため、考えられる事は一つだった。
「ま、まさか……姉さんに隠し子がっ!?」
「あの、マリアさん……?どうかしました?」
「え、あっ……ミナ、貴女は戻っていたの?」
驚愕の表情を浮かべたマリアの背後から声が掛けられ、慌ててマリアが振り返ると不思議そうな表情を浮かべたミナが立っていた。彼女はレナ達よりも先に闘技場から立ち去り、冒険者ギルドへ帰還すると何故かマリアが一人で立っていたのを発見し、疑問を抱いてはなしかけたのだが、マリアは誤魔化すように咳ばらいを行うとミナに事情を説明する。
「こほんっ……何でもないわ、見苦しい物を見せたわね。ところでミナ、試合は見事に勝ち抜いたようね」
「あ、ありがとうございます!!でも、勝ち抜いたというのはちょっと違うかもしれませんけど……」
「運も実力の内、と言うわ。それよりも丁度良かったわ、貴女に頼みたいことがあるの」
「え、僕に頼み事……ですか?」
滅多にマリアの方から頼み事をされた事がないミナは驚いた表情を浮かべるが、マリアは彼女に現在の状況をレナに伝えるように指示を出す。
「どうやらバルトロス王国がレナを捕まえようとしているの。だからすぐにあの子の元へ助けに行きなさい」
「ええっ!?ど、どうして……」
「今は詳しく説明している暇はないの。レナ達はここから南の方角にいるはずよ。貴女はすぐにあの子の元へ助けに向かいなさい」
「わ、分かりました!!あ、でも……王国兵の人達に見つかったらどうすればいいんでしょうか?」
「出来る限り戦闘を避けて逃げなさい。それと、レナの元へ向かうならあの狼君も解放しなさい。そっちの方が手っ取り早いかもしれないわ」
「ウル君の事ですか?」
「とにかく急ぎなさい!!もう一刻の猶予もないの!!」
「は、はい!!」
普段のマリアならば考えられない程の気迫にミナは慌てて冒険者ギルド内へ入り込み、ティナの飼っているサイクロプスのアインと共にギルドが預かっているウルの元へ向かう。仮にミナが出発するときにレナ達が移動していたとしてもウルならばレナの匂いを嗅ぎ取り、彼女をレナの元へ案内するだろう。
「……私も急いだ方が良いわね」
現時点で行える対処を終えると、マリアは建物内へと引き返そうとした。だが、彼女が呼び集めた精霊が唐突に騒ぎ出し、この場所に強力で悍ましい魔力を持つ者が接近している事を告げる。
「この反応は……そう言う事ね」
苛立ちを隠さずにマリアは建物に戻るのを止めると、杖を握りしめて反応がある方向に視線を向ける。そして、こちらに向けて黒色のローブで覆い隠した集団が接近している事を視界に確認した。
※次回から「都市崩壊編」に入ります。
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