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闘技祭 決戦編

予選最終試合

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「あの女の事が気になるのかしら?」
「うわっ!!びっくりした!?」
「シズネか……よく俺達だと気付いたな」
「バレバレよ。相当にやらかしたみたいね」


観客席の後方から聞き覚えのある声が掛けられ、レナ達は振り返るとシズネの姿が存在した。シズネは当たり前のようにレナの隣の席に座り、昼間に起きた騒動の件を尋ねる。


「一体何をやらかしたのよ。昼間、兵士達が忙しなくあんた達の事を探していたわよ」
「ちょっと色々とあってね……どんな風に伝わっている?」
「ヨツバ王国の王女様を誘拐犯の容疑者として貴方達の事を探していたわよ。最も正体が判明していたのはレナだけだったようね」
「マジで!?僕達の事は?」
「貴方達の事は何も聞いてないわよ。だけど、ついさっきヨツバ王国の国王が娘の無事を確認したらしいわ。今回の誘拐の件に関しては王女様が側近と勝手に抜け出しただけで誰も誘拐なんてしていないと抗議したそうよ」
「ハンゾウが上手くやってくれたのかな。流石は忍者だ」


ハンゾウが無事にヨツバ王国の一行に連絡を伝える事に成功したらしく、誘拐犯の容疑者という項目でレナを捜索していた兵士達も現在は解散したという。王女誘拐という名目でレナを捕縛しようとしたのだろうが、当の本人が無事に戻ってきた以上は彼等の企みは失敗に終わり、レナを捕まえる事も出来ないだろう。


「今のところは貴方が犯人ではない事をヨツバ王国が主張した以上、バルトロス王国側も渋々とだけ兵士の捜索を中止させたわ。だけど、事情聴取という名目で貴方の元に尋ねようとするかもしれないわね」
「絶対に行かない」
「でしょうね」


今回の騒動は王国軍がレナを王女誘拐の犯人に仕立て上げて捕まえようとしたが、結局は失敗に終わった。それどころかヨツバ王国側としては自分の娘を利用してレナを拘束しようとした事が許せず、バルトロス王国に激しく抗議を申し立てていた。


「ともかく、今の貴方は目立たないように行動しなさい。くれぐれもこれ以上の問題事を起こさないように気を付けなさい」
「別に今回の件は俺も嵌められただけなんだけど……」
「それでもよ。敵はどんな手段を利用しても貴方を排除するつもりね。予想以上に王妃が貴方の存在を恐れているのかもしれないわ」
「王妃?何でレナの事を王妃がそんなに警戒するんだよ?」
「そうだな。レナは例の王妃と何かあったのか?」


話を聞いていたダインとゴンゾウはシズネの話を訝しみ、二人はレナがシズネを取り返すために王妃の前に姿を現した事は知らず、王妃に警戒されている事を話していない。だが、二人の疑問に答える前に闘技場にラビットの声が響き渡る。


『それでは最後の選手の紹介です!!獣人国の冒険者ならば必ず一度は必ず耳にした事がある超有名な人物が参加しています!!その名は……タザン選手の入場です!!』
『うおおおおっ!!』


ラビットの言葉に観衆の特に獣人族の観客が興奮したような声を上げ、北門が開門した。どのような人物が出てくるのかとレナ達は試合場に視線を向けると、全身が毛皮で覆われた大男が現れた。


「うほぉおおおっ!!俺が優勝するぞぉおおっ!!」
『ウホッ!!ウホッ!!ウホッ!!』
「な、何だあいつ……ゴリラ?」
「うぷっ……何よあいつは!?」
「猿型の獣人族のようだな」
「毛むくじゃらなおっさんにしか見えないけど……」


姿を現したのは獣人族ではあるが全身の体毛が濃い男性であり、どうやら猿(というかゴリラ)の獣人族らしく、丸太のような両腕を天に突きあげながら姿を現す。体毛が濃いので分かりにくいが巨人族顔負けの筋肉を身に付けており、何故か囚人のように両手と両足には鉄球付きの手錠と足枷を装着していた。その異様な風貌と格好にタザンを知らない人間達は訝し気な表情を浮かべるが、すぐにラビットが説明を挟む。


『タザン選手の知らない方のために説明を行います!!タザン選手は身に付けている手錠と足枷は囚人用の物ではなく、タザン選手の鍛錬器具です!!彼は常日頃から身体を鍛えるために重い鉄球を取り付けた枷を装着しているのです!!』
「何だよそれ……」
「変態じゃないのか?」
「でも……あの筋肉は凄いな」


タザンの説明を聞いても観客の大半は引き気味だが、そんな彼等の視線に気づいていないのかタザンは両腕を掲げてアピールを行う。


「うおおおおっ!!応援よろしくぅうううっ!!」
「うるせえ奴だな……」
「でも、あの筋肉だけは本当凄いぞ」


本物のゴリラのように胸元を両拳で叩きつけるタザンに失笑する観客も多いが、獣人族の間では凄い人気を誇るのか暖かい声援が送られる。


「頑張れよタザン!!」
「お前なら優勝できる!!」
「タザン結婚してくれ~!!」
「うほぉおおっ!!応援ありがとぉおおおっ!!」


声援を受けタザンは喜びを露わにするように背中を仰け反り、咆哮のような大声を上げた。
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