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闘技祭 決戦編

神器 〈ロッド〉

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「おい、聞いているのか!!その杖を下ろせ……うわっ!?」
「近寄るな」


砲撃魔法を発動させた兵士に対して隊長が近づいた瞬間、兵士は杖を構えて隊長の顔面に構える。その光景に周囲の人間が驚きの声を上げ、レナも様子を伺う。


「ま、待て……落ち着け!!冷静になるんだ……俺は警備隊長だぞ!?」
「ふんっ……碌に警備も行えない無能が偉そうに抜かすな」
「そ、その声!!お前は……い、いや貴方様は!?」
「もういい、黙れ……アイスランス」


隊長は顔を兜で覆い隠している兵士の声を聞いて表情を変えた瞬間、兵士は水属性の砲撃魔法を発動させ、隊長の身体に冷気が襲い掛かる。その光景を目撃した観光客は悲鳴を上げ、兵士達も混乱する。


「きゃあああっ!?」
「や、やりやがった……!!」
「貴様!!隊長に何てことを!!」
「こいつを取り押さえろ!!」


見物していた観光客も慌ててその場を立ち去り、兵士達は隊長に攻撃を仕掛けた兵士に武器を構えるが、攻撃を仕掛けた本人は杖を確認しながら凍り付いた隊長に視線を向けて溜息を吐き出す。


「ふむ……神器というから期待してみたが、やはり私の力量では完全に使いこなせいか……これはどちらかというとスイの方が扱えるだろうな」
「……神器?」


兵士の呟きを耳にしたレナは「神器」という言葉を聞いて視線を鋭くさせ、七つの宝石が取り付けられた杖を握りしめる兵士と向かい合う。神器とは異世界から訪れた勇者が残した強力な魔道具であり、その力は聖剣には及ばずとも驚異的な魔道具である事は間違いなく、レナが普段は異空間に預けている「チェーン」も神器の一つである。


「おっと、流石に目立ち過ぎたかな……そろそろ終わらせるぞ」
「…………」


杖を自分に向けて構えてくる兵士に対し、レナは何処かで聞き覚えのある声だと気付く。そしてシズネを取り戻すために王妃の元へ訪れた際、彼女の傍で仕えていた青年を思い出す。


(確かシズネの話によると常に王妃の傍に仕えている奴の名前が「リク」とか言ってたけど……もしかしてこいつか?)


姿は兵士に変装しているが、声に関してはレナが王妃と初めて顔を合わせた時にも居合わせていた青年の声と同じであり、試しにレナはかまをかける。


「……王妃の犬か」
「何っ……!?」


王妃という単語をレナが口にした瞬間、兵士が一瞬だけ動揺したのを見逃さず、レナは相手の正体を「リク」と呼ばれる王妃の側近だと確信する。しかし、相手の名前が分かっただけで肝心のリクが何者なのかは分からず、シズネも常に王妃の傍で仕えている人間という情報しか持っていなかった。


『王妃に仕えている子供達はバルトロス王国の有力貴族達の跡取りで間違いないわ。だけど、子供の頃から親元を離れて王妃に育てられているから彼等の情報は殆ど出回っていないの。私も何度か顔を合わせた事はあるけど、それぞれがどんな力を持っているのかはまでは分からない』
『王妃が貴族の子供達を育てた理由は第一に有力貴族を絶対に逆らえないようにするためよ。大切な跡取りを預けた貴族達は王妃に歯向かう事は出来ない。そして第二の理由は王妃が自分を守護する存在を一から作り上げるためよ』
『貴族の子供とはいえ、王妃の傍に仕える子供達は一流の武芸者から戦闘指導を受けているはずよ。断定は出来ないけど、王国内でも相当な実力者に育っているでしょうね』


シズネの言葉を思い返し、レナは自分が相対した「アマネ」と呼ばれる少女を思い出す。彼女の場合は「未来視」と呼ばれる近い将来を見通す事が出来る能力を利用して待ち伏せや奇襲をレナに仕掛けており、もしもアイリスから情報を得ていなければレナも対応出来なかった可能性も高い。そして王妃の傍仕えを許されているリクという青年は年齢的には他の側近よりも一番上である事は間違いなく、他の者よりも王妃に仕えている期間が長い可能性が高い。


(能力が分からない敵ほど厄介な相手はいないな……こういう時にアイリスと交信出来たら情報も分かるのに)


仕方がない事とはいえ、レナはアイリスと交信出来ない事に内心溜息を吐く。いつもならばどんな問題に直面しようとアイリスと交信する事で最善の答えを導き出していたが、今回ばかりは彼女には頼れない。そのため、自分の力で状況を打開するためにレナはリクに攻撃を仕掛ける。


(まだ正体がばれていないようだけど、どうせ証拠を残さなければいいか……ここでぶっ倒す!!)


レナは右手に意識を集中させ、久方ぶりに「氷装剣」を発動させて氷塊の長剣を作り出す。その光景を目にした兵士達は驚愕の表情を浮かべ、リクも感心した風に呟く。


「へえ……氷の剣を作り出すとはね。君の正体が掴めてきたよ」
「ああ、そうかい!!」


氷塊の長剣を握りしめながらレナはリクに向けて駆け出し、相手が攻撃に移る前に攻撃を仕掛ける。しかし、そんなレナの動作を予測していたようにリクは杖を構えた。
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